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2-16 先輩からのアドバイス


「ふんふふ~ん」


 鼻歌を歌いながらセブンはキーロの街の真ん中を歩く。流石有名人というべきか、ちらちらと彼女達の様子を窺うプレイヤーが何人か見えた。


「あの、これってどこ向かっているんですか?」


「ん~?まぁ着いてからのお楽しみだよ」


 慣れない視線に少し居心地の悪いレイがそれを紛らわせるようにセブンへ問いかけるが、はぐらかされてばかりでまともな回答が返ってくる様子はなかった。


「ソウデスカ……」


 聞いても無駄だと悟ったレイはそれ以上何かを聞くことなく、その鼻歌を聞きながら後をついていく。そうして5分ほど歩いたところでセブンは立ち止まるとくるりと後ろを向いた。


「とうちゃーく!ここです!」


「ここって――オークション会場?」


 目の前にあるのは中世の洋館のような焦げ茶色をした建物。そこはゲーム内の時間で月に一回、レアアイテムを入手できるオークションが開催される場所であり、当然彼女もその存在を知っていた。


「私お金ないですよ?」


「大丈夫、僕もないから」


 何が大丈夫なのかさっぱり分からない言い分だったが、前に向き直ったセブンが自信満々の足取りでどんどん進んでいくため、レイはそれに遅れないようについていく。


 そのまま受付と思しき女性NPCの元まで一直線で向かうとセブンは笑顔で話しかけた。


「何かご用件でしょうか?」


「今日の出品物について教えて欲しいなって思って」


「申し訳ありませんがそれは禁止事項ですので」


 先ほどまで笑顔を向けていた受付NPCはセブンの言葉を聞くと、ため息を吐いて露骨に面倒くさそうな顔に切り替わった。


「じゃあさ、そのアイテムがどこに置いてあるか教えてよ」


 それに対してセブンは全く気にした素振りを見せず、世間話をするかのように軽く問いかける。


 すると、受付NPCは一瞬だけ視線を後ろの扉に向けたものの、あくまでも事務的な声音で返答した。ただ、彼女はそれを見逃したりはしなかった。


「そんなこと知ってどうするのですか?」


「勿論、こうするのさ」


「え?きゃぁぁぁ!!!」


 その疑問に答えるかのようにトントンと足音を二回鳴らすとセブンの足元に紫色の魔法陣が出現する。


 怪しげな輝きを放つそれからは骨の王(スカルキング)と無数のスケルトンが出現し、一瞬にして室内は阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌する。


「程よく人間っぽさがあるNPCは扱いやすくて良いね。じゃあ行こっか」


そこら中で悲鳴が聞こえる中、散歩するような調子で奥の扉へと向かうセブン。


その背中を見て、レイは滅茶苦茶過ぎると軽く引きながらも、それ以上に普段動画越しで見ていた光景に興奮する気持ちを抑えられないでいた。


「レイちゃーん?行くよー?」


「あ、はいっ!」


 前代未聞の襲撃事件の当事者となったことに、一瞬心ここに在らずの状態だったレイはセブンの呼ぶ声に慌てて駆けていく。


 彼女達がしばらく歩くと目の前に一際豪華で大きな扉が見え、それをセブンは自室に入るくらいの軽い気持ちでドアを開けた。


「おぉ、これは中々」 


「大きいですね……」


 思わず呟いたレイ達の目の前――扉を開けたその先には身長の何倍もある巨大な金庫のような扉が行く手を阻むように立ちはだかる。


 いかにも重厚感のあるその扉は決して容易には開くことはなく、破壊するにも並大抵の火力では歯が立たなさそうだとレイは感じた。


「これどうするんですか?」


「おっと、誰に言ってるんだい?こんなの朝飯前だよ」


 少し怒ったようにセブンが答えると左手を突き出して掌を下に向けると召喚の態勢に入る。


「おいで、バーン・ザ・スカル」


「ウォォォォォォォォ!!!」


 セブンの呼び声に呼応するように赤色の魔法陣から燃え盛る巨大な骸骨が現れ、大きく唸り声をあげる。


 そのまま【灼熱の巨人骨バーン・ザ・スカル】は金庫に向かってまっすぐ進んでいき、それに合わせてセブンは左手を上に向け、小指から順番にゆっくりと握っていく。


「【赫灼骨(かくしゃくこつ)】」


 その一言と共に炎を纏った巨大な骸骨は一際大きく輝くと、その身を燃料として赤く、赤く燃え盛る。


 尋常じゃない量の煙を噴き上げながらも【灼熱の巨人骨バーン・ザ・スカル】は止まることなく前へ前へと進んでいき、どんどん小さくなっていく体とともに鋼鉄の扉をも溶かすと、やがてその壁に大きな風穴を開けた。


「じゃ、中に入ろっか」


 なんてことはない、当たり前のことをしたような調子で進んでいくセブンに対して、現在のレイでは到底再現不可能な圧倒的火力を前に身震いし、そしてすごく羨ましい気持ちになった。


「さてさて、あるかな~っと」


 そんなレイを気にも止めず中に入っていったセブン。


それを追ってレイも中に入ると、そこには武器やアイテム、金銀財宝など多種多様なレア物が飾られていた。それを見てこれが今月の出品分だと悟る。


「お、あったあった。はいレイちゃん」


 何かを探していたセブンはお目当てのものを見つけると、それを手に取りレイに向かって投げる。


「うわっ!――ってこれ【召喚の石板】!?」


 それは、彼女にとって最初にして最大のイレギュラーを起こしたアイテムだった。


 いつか入手しようとは考えていたが、当分の間入手できないと思っていたレイはこんなにも簡単に入手してしまい、酷く困惑する。


「完全にとはいかないけどこれでもう一回やり直せるでしょ。残りは全部僕が貰ってこっと」


 セブンはそれだけ渡すと残りのアイテムは自身のアイテムボックスにしまっていく。


「でもこれって今月のオークションの品なんじゃ……」


「そんなの知らないよ。それこそ運営がなんとかするんじゃない?」


 レイが申し訳なさを感じて受け取るか悩んでいると、セブンはまるで悪戯が成功したみたいにべっと舌を出しながら笑う。


(運営)は敵かもしれないけどこの世界(『ToY』)はきっと僕達の味方だよ。楽しさなんてそこら中に転がってるもんさ」


 そう言って楽しそうに笑うセブンはレイにその右手を差し出す。


 数秒考え込んだレイは憑き物が落ちたような爽やかな笑顔を浮かべてその手を取った。


「ありがとうございます。『自分だけの物語』、ですもんね」


「そうそう、運営もそう言ってるしね。それに――」


 レイが握手に応じたのを見るやいなや、セブンは笑みを深めてぎゅっと握手している手に力を込める。


「――このゲーム何してもいいんだから(・・・・・・・・・・)


 それを不思議に思ったその瞬間――レイの首が落ちた(・・・・・・・・)


「今回は成功したねぇ、レイちゃん油断しちゃった?ダメだよダメダメ」


 地面に落ちたレイの視界から【透明化】を解除したシニガミと麻袋を手に持ってケタケタと笑うセブンの姿が見える。


「この十万Gは勉強代兼【召喚の石板】代として貰っていくよ。次会う時はもっと強くなって、僕を楽しませてね」


 やがてリスポーンが始まると、視界がどんどんと狭まり周りの音が聞こえなくなる。ただ、最後に見たセブンの口が頑張ってねと言っている気がした。


[TOPIC]

WORD【オークション会場】

ゲームの世界にて月一回(現実世界換算だと十日に一回)行われる競りの場。

主にNPC主体で行われ、出品される商品は中々お目にかかることの出来ないレアな物が多い。

そのため値段は相場以上で取り扱われることが多く、一部を除いて上級者専用の施設となっている。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 20レベまで上げないと取得出来ない予定の追加召喚獣を10万Gで確保出来た点。 そうだよな、運営自ら「何をしても良いゲームです」て公言してるんだから、オークション会場襲撃も許されるよな!!…
[気になる点] おかしい……レイちんが普通の少女に見える…… マッドバーサークキチ〇イのはずなのに何故……?
[一言] 更新お疲れ様です! 知  っ  て  た まぁまともな手段じゃないだろうとは思っていましたが酷過ぎて草も生えない そしてタダな訳がなかった。デスヨネー 更新お待ちしています!
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