2-14 振出しに戻った先で
ついに!!!
月間VR1位達成しました!!!
皆様のおかげです!本当にありがとうございます!!!
・元気出して
・あかん、目が死んでる…
・誰だって落ち込む。俺だって落ち込む
・補填!補填でワンチャン!
「補填か……。だよね、そっちも確認しなきゃね……」
思った以上にショックが大きかったのか、レイは自嘲するようにふっと笑みを浮かべ、ウィンドウを操作し始める。
どうせこの運営だし……という半ば諦めの気持ちがあるものの、それでも一縷の望みを込めて運営からのお詫びメールを開いた。
[対象プレイヤーには補填として以下のアイテムをお送り致します。
①10万G
②祝福のクラッカー
③SKILLチケット
この度は大変申し訳ありません。これからも『ToY』をよろしくお願い致します]
メールを開くと先ほどと同じ機械音声が聞こえてくる。と同時に何もない空中からゴトゴトッと音がしたかと思うと、麻袋二つにカラフルな斑点が施されたクラッカー、遅れて紙切れが一枚ひらひらと落ちてきた。
・!?
・びっくりした
・でもこんだけ?
・アイテム次第だけど…正直しょぼくね
レイと同じように落胆するようなコメントが流れる中、レイは大きくため息を吐くと補填アイテムと思われるクラッカーと紙切れの効果を確認する。
ITEM【祝福のクラッカー】
神が作ったとされる伝説のクラッカー。その祝いの空砲は使用者をひとつ上のステージに引き上げる。
効果①:レベルを1上げる
効果②:残使用回数1/1
ITEM:【SKILLチケット】
選ばれた者だけが使える秘密のチケット。どんな可能性もその手の中に。
効果①:任意の汎用スキルを取得する
効果②:残使用回数:1/1
「なるほど、こんなアイテムあるんだね」
・初めて見た
・1だけって大したことなくね?
・でもレイちゃん1レベ上げるのも大変だからな
・新しいスキル覚えられますよ券か
・代わりになるスキルがあるかって言うと…
【祝福のクラッカー】も【SKILLチケット】も珍しいものではあるものの、【じゃしん賛歌】ほどではないという結論に至ったコメント欄に、レイもおおむね同意見だった。
「もうちょっとでレベル上がりそうだし、それ見てから使うの考えるね……」
・了解
・おけ
・賢い
・大丈夫…?
ぽつりと呟いたレイは補填アイテムを〈アイテムポーチ〉へとしまい、そうして何も無くなった部屋を見てどうしようもない程の虚無感に襲われる。
「……ごめん、早いけど今日の配信終わるよ。なんか眠くなってきちゃった」
・おつ
・おつ
・ゆっくり休んでね
それに耐え切れなくなったレイはコメント欄に一言断りを入れると、ベッドに入ってログアウトの準備をする。
「ぎゃう……?」
その直前、じゃしんがばつが悪そうな顔をしているのが嫌に目についた。
◇◆◇◆◇◆
「ふぅ…」
現実世界に戻ってきたレイは一息つくとベッドに向かってダイブする。
「なんでこんなことになるのかな……」
怜の中でも確かにあのスキルが強力なのは分かっていた。しかしそもそもあんなスキルを使えるようにしたのは運営なのだ。
「そっちで勝手に渡してきて都合が悪いからって勝手に規制なんてどんな神経してんの……?」
思わず愚痴を口にしてしまう。そうして口にすればするほど沸々と怒りが湧いてくるのを感じて怜は慌てて首を振った。
「いやゲームなんだから……あんまり怒っても仕方ないか……」
そうやって自分を諫める怜の言葉に覇気はない。まるでしぼんだ風船のようにやる気が萎えてしまっていた。
「これからどうしようかなぁ……」
いっそのこと別ゲーに完全移行してしまおうかとも考えた怜だったが、まだどこかで『ToY』の世界を楽しみたい自分がいるのを感じて躊躇する。考えれば考えるほど、ぐるぐるとマイナスの気持ちがループし、収まりがつかなくなってしまうのを感じてしまっていた。
「むぅ……」
やがて思考を放棄するように瞼を閉じるレイ。そのままうとうととした心地よい微睡みに身を任せていく。
――ピコン
「……ん~?」
数分、あるいは数十分ともとれるような、そんな曖昧な時間眠っていたレイは、携帯からと通知音が聞こえたことで目を覚ます。
「あ、セブンさんが配信してる……」
何事かと思い携帯を手に取ってみてみると、それは推しである配信者が配信を始めた合図であった。
「そういえば最近見てなかったな……」
特にこの後の予定があるわけでもない怜は携帯を操作して視聴ページを開く。そこには黒髪黒目の美少女が笑顔で手を振っている光景が映っていた。
【seven.net】
【THE・雑談】
『やぁやぁおはおは。みんな大好きセブンちゃんだよ~』
・わこ~
・わこ
・わこわこ
・セブン!結婚してくれ!
『それはできないなぁ、なんたって僕はみんなのセブンちゃんだし。そもそも顔も見えない相手に告白してくるってちょっと生理的に無理』
・火の玉ストレートで草
・(´・ω・`)そんなー
・草
・ひでぇwww
もはやセブンの代名詞となっているリスナーいじりを目にして思わずクスクスと笑いがこぼれる。
『そんなことより今日は質問募集しまーす。僕についての質問でも、自身のお悩みでも、君達のしょーもないギャグでもなんでもいいからコメントしてね』
「悩み……」
おそらく偶然なのであろうが、怜にとってタイムリーな話題に彼女の心が揺れる。
「聞いてもらったら楽になるのかな……」
普段ROM専の彼女だが、この時ばかりは誰かに相談したくなり、思わずコメントに手を伸ばしていた。
『彼氏はいませーん。まだ君たちにもチャンスはあるよ!まぁ生理的に無理なんだけどね』
・ダメじゃねーか!
・なんで期待させたんだ!
・ガッデム!神は死んだ!
・最近上手くいかなくて落ち込んでます。どうしたらいいですか?
『ドンマイ!次は――ん?お悩みだね。上手くいかなくて落ち込んでるかぁ』
書いてみたもののまさか読んでもらえるとは思っていなかった怜はドキリと胸を弾ませる。そして固唾をのんで次の言葉を待った。
『そうだな……正直よく分かんない!僕上手くいかなくて落ち込んだことないし!』
「はは……」
あっけらかんと突き放すようなセブンの言葉に怜は乾いた笑いが出る。
「それもそうだよね、分かんなくても当然か――」
『そもそもどんな内容が上手くいってないかも掴めていないからね、こっちは。だからさ、直接会ってお話ししようよレイちゃん?』
「――ッ!?」
諦めたように独り言を呟いていた怜は突如名前を呼ばれたことで驚きのあまりフリーズする。
「な、なんで……」
『今頃びっくりしてるかな?ダメだよレイちゃん、オフでコメントしたい時はチャンネル切り替えないと』
そう言われてアカウントを確認すると、普段配信を行っている【レイちゃんねる】の名前が見え、玲は冷汗を垂らす。
「ヤバ……完全にミスった……!」
『じゃあ『ToY』で集合しよっか。多分キーロの街にいるんだろうし西の通りの【Cafe Piccolo】に来てね~』
「えっ、えっ」
突然のことに呆然とする怜を置いてきぼりにしてセブンは雑談へと戻る。
しばらくの間呆けていた怜だったが、慌ててベッドから飛び起きると、再び『ToY』の世界に飛び込むのだった。
[TOPIC]
WORD【セブンの雑談配信】
普段実況者として活動している彼女が気まぐれで行う生配信。
やることはその場その場で変更され、雑談と銘打たれてはいるものの雑談する方が珍しい。
テンプレートとして、ことあるごとにセブンに向かって告白が行われるが、全て『生理的に無理』の一言で切り捨てられる、というものがある。




