0-5 マラソンスタート!
配信の設定を済ませたレイは、宿とは逆方向にある冒険者ギルドに来ていた。
冒険者ギルドで出来ることは主に2つ。クエストを受けることとパーティメンバーを探すことであり、今回の目的は前者にあった。
人混みが苦手なレイはごった返す室内を見た瞬間に嫌な顔を浮かべたが、ここに行かないと始まらないので仕方なく前へと進む。
「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」
「ク、クエストを受けたくて。この【街の清掃をお願い!】ってやつ」
「かしこまりました。ではクエストを受注いたしますね」
[スタンダードクエスト]
【街の清掃をお願い!】
・ごみを20個取得する
・報酬 300G
何とか受付カウンターまでたどり着き、営業スマイルの素敵な受付嬢に気圧されながらも、クエストを受注することに成功する。
目標を完了させたレイはかき分けるように外に出る。すでに疲労困憊といった様子だったが、浅く何度も呼吸をして調子を整えると、クエストを実施するために街へと歩き出した。
◇◆◇◆◇◆
今回彼女が受けたクエストはホワイティアに落ちている【ごみ】というアイテムをただただ拾うだけの簡単なクエストだ。
地味な作業に加えて報酬もそこまで多くなく、一見するとおいしくないクエストのようだったが、当然それ以外のメリットが存在した。
「ま、ルートは分かってるしサクッと進めちゃおう」
そう呟くと予めネットで調べおいた取得ルートを進み道中に落ちている【ごみ】を無駄なく拾っていく。
迷うことなく歩き、20個目の【ごみ】を拾ったところで――ピコン、とウィンドウが表示された。
[Warning!!!]
・目の前から不穏な気配を感じる。探索しますか?
[ダンジョン【瘴気の下水道】を発見しました]
想定通りの展開になったことでレイはホッと胸を撫で下ろす。彼女がクエストを受けた意味はここにあった。
【瘴気の下水道】は【街の清掃をお願い!】というクエストがトリガーとなって発見できるダンジョンであり、出現モンスターの強さで言えば中級者向けに位置するダンジョンである。
構造が迷路になっている事と、【瘴気】と呼ばれる環境ダメージによって常に継続ダメージが入ることから、かつてやりたくないダンジョンNo.1の栄冠に輝いたほどのクソダンジョンだった。
ただ先人達の手によって、迷路構造に関してはマッピングが済んでいるし、【瘴気】によるダメージは【神官】の初期スキルである【祈り】によってリジェネ効果を付与してやれば、相殺できるレベルのものと判明している。
入手できるアイテムは中級ダンジョンにふさわしく効果が良いものも多いため、最初に神官を選んだプレイヤーにとって初期装備を集めるには丁度いいダンジョンと言われるようになっていた。
当然レイもその恩恵を受けるためにサブ職業に神官を選んだのだが――彼女の目的は装備やアイテムではなかった。
「あ、いたいた」
ある程度徘徊していると、レイの目の前に緑色の体で酔っぱらいのような千鳥足をした人影――【リビングデッド】が目の前に現れる。
よく見ると片目は空洞となっており、うめき声をあげながら彷徨うその姿はまさしく想定していた通りのゾンビ、いや想像以上にゾンビでおぞましく気持ち悪い。
幸いこちらには気づいていないため、ばれないように背後から近づくと、レイは杖を【リビングデッド】に押し当てスキル【懐柔】を発動した。
[【懐柔】に失敗しました]
リビングデッドに押し当てた杖が青色に光ると、ビーっというブザー音とともにアナウンスが流れる。
「だめか。まぁ一発でできるなんて思ってないけど」
彼女が使った【懐柔】は召喚士の初期スキルであり、召喚に必要な【魂】を入手できるというスキルである。
入手確率は対象モンスターとのレベル差やランクによって決まるので、今の彼女では砂粒ほどの確率だろうと予測できた。
「グァア!!」
先ほどの【懐柔】で敵対状態になった【リビングデッド】は、彼女を認識すると両手を伸ばし掴みかかろうとする。
だが悲しいかな、ゾンビの宿命ともいうべきか【リビングデッド】の動作は目で見てから避けられるほどの遅さであり、1対1なら掠ることすらないだろうとレイは感じていた。
敵体力が減ると行動パターンが変わる事もあるのだが、今回は攻撃するつもりは一切ないためそれを考慮する必要もなく、ただひたすらに数をこなす作業と化していた。
[【懐柔】に失敗しました]
躱す拍子に杖を押し当てて【懐柔】を試みるレイだが、再度失敗のアナウンスが流れる。
残念ながら彼女のリアルラックにはあまり期待できないらしい。手に入るまで続けるつもりのようだが、簡単にはいかない様だった。
◇◆◇◆◇◆
[【懐柔】に失敗しました]
[【懐柔】に失敗しました]
[【懐柔】に失敗しました]
[【懐柔】に失敗しました]
[【懐柔】に成功しました]
「お!?」
作業のように【懐柔】を試みていると、軽快なラッパの音が聞こえてきてスキルが成功したアナウンスが流れてきた。
その後目の前で立ち止まった【リビングデッド】がポリゴンとなり、緑色の宝石のようなものに変化する。【スライムの魂】と色違いのその石をレイはワクワクしながら手にとった。
『【リビングデッドの魂】を入手いたしました』
ようやく出たかという気持ちが強いせいか、喜びよりも疲労感を強く感じているレイ。
「ただなぁ、もう一個いるんだよね……その後はもっと大変だし……」
ただし、残念ながらここがプランのゴールではなくまだまだ入り口であった。
そのことを自覚しちょっと嫌になるレイだったが、これも最速で死霊術師になるために必須なことなためやらないという選択肢はない。
まぁ頑張るかぁ……とため息をつきながら次の獲物を探しに奥へと進んだ。
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配信タイトル:初配信
配信時間:01:33:21
視聴者数:24
コメント数:84
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[TOPIC]
MONSTER【リビングデッド】
命を落とした体に魔力が宿り再び動き出した人であり、人ならざるモノ。
不死種/腐体系統。固有スキル【スーパーアーマー】
≪進化経路≫
<★>グール
<★★>マミー
<★★★>リビングデッド
<★★★★>キョンシー
<★★★★★>腐乱拳