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2-11 怪奇!死神を殴る少女!


 ここは【ヘイラー墓地】。普段は物静かな、それでいて不気味な雰囲気を醸し出しているこの場所で、少女の絶叫と綺麗な美声が聴こえていた。


「ザ・ワールド!!!」


「La~~~♪」


「!?」


「透明も分裂もさせん!きみがっ!死ぬまでっ!殴るのをやめないっ!」


 じゃしんの歌声によって姿を現した【グリムリーパー】に対して、レイは本すら持たず、ただひたすらに両手の拳を叩きつける。


 一発一発は微々たるダメージであるが、宣言通り動きが止まった相手に延々と叩き込み続けた結果、何もさせることなく【グリムリーパー】はポリゴンとなり消えていった。


「てめーの敗因は……たったひとつ(・・・)だぜ……【グリムリーパー】……たったひとつの単純(シンプル)な答えだ……てめーは私を怒らせた」


[ARMOR【輪廻欺ク死化粧】を入手しました]

[WEAPON【冥界誘ウ大鎌】を入手いたしました]

[5の経験値を獲得いたしました]


 2時間ほど探索してようやく発見した【グリムリーパー】を秒殺すると、レイはしっかりとポーズまで決めて余韻に浸る。


・荒れてんなぁ

・ジョ〇ョかよwww

・レイちゃんってなんか少年みたいだよね

・まぁさっきの出来事忘れたいんだろ

・そういえば戦利品は見ないの?


「ん?あぁ見たよ?前と同じだからね~。ほいこれ」


 コメント欄に目を通したレイはメニューより〈アイテム欄〉を確認する。そしていくつか操作すると、先ほど入手した武器と防具の性能を表示した。


ARMOR【輪廻欺ク死化粧】

死を司る淑女のドレス。その姿は初めての夜会に臨む少女の可愛らしさと死人の美しさを内包している。

要求値:-

変化値:〈耐久〉+20,〈敏捷〉+20

効果①:MP自動回復(1MP/10sec)


WEAPON【冥界誘ウ大鎌】

墓場の執行者が使用する大鎌。その刃は魂を、本質を、その精神を蝕む。

要求値:〈腕力〉200over,〈技量〉300over

変化値:〈腕力〉+80,〈知性〉+50

効果①:攻撃ヒット時、MPを吸収(10%/1hit)

効果②:SKILL:【EXECUTION】


SKILL【EXECUTION】

墓場の執行者の流儀。それは刃を血で汚さないことだ。

効果①:敵のMPが0の時、HPを0にする


・悪くないね

・普通に強いと思う

・即死技あんのか

・いや結構ピーキーだぞこれ


「そうなんだよね~。悪くはないけど使い所が難しいていうか……。私だと特にね」


 もはや恒例となりつつある視聴者とレイによる品評会。各々が自由に感想を口にする中、とあるコメントによって流れが変わる。


・ドレス?着た姿見てみたい


「……。そうだ!今日時間ないんだった!レベル上げレベル上げ!」


・あ、ごまかした

・さっきやったからね

・ちなアーカイブあるから見に行った方がいいぞ

・ま?行くわ

・ってかじゃしんは?

・画面右端にいる


 露骨に話題を変えたレイが辺りを見渡すと、視界の端で死んだ魚の目をしながら体操座りをしている姿があった。


「おーい、じゃしん?」


「……ぎゃうっ。La~~~♪」


 レイが声をかけた時だけゆっくりと立ち上がると、機械的に【じゃしん賛歌】を使用する。


 硬直の際も特に驚く様子がなく、一度体をビクッとさせるだけ何事もなかったように歌い続けるマシーンと化してしまっていた。


・じゃしん…お前感情が…

・壊れた機械みたいだ…

・ここまで酷使されてる召喚獣いないだろ…


 あまりにも悲惨なその姿に、視聴者から同情の声があがるも、残念ながらレイには微塵もその気持ちがないようで、新しいターゲットに目を光らせる。


「あっちで叫び声――【グリムリーパー】かも!?いくよじゃしん!」


「……」


 駆け出すレイに吠えることすらせず、宙に浮くと哀愁を漂わせながらその後ろをついていく。その姿はさながら遊園地でのお父さんのようであった。


 ◇◆◇◆◇◆


「ゆぅくん、みぃこわいぃ」


「大丈夫だよ、俺がついているからさ」


 【ヘイラー墓地】のど真ん中、とある男女が腕を組みながら歩いていた。


 口から砂糖を吐きそうなほど甘々な彼らだが身に纏っている防具はそれなりに強く、レベルもそこそこな所から中堅プレイヤーだろうと思われる。


「みぃはぁ、はやく【キーロ】にもどりたぁい」


「そうだね。じゃあさっさとクエストを終わらせて戻ろうか」


 甘えるように腕にすり寄る彼女の頭を優しく撫でる男。


 ゲームらしく見た目も現実の5割増くらいで美化されているため、美男美女が場所も憚らずいちゃついているという、世の独身男性が見れば血反吐を吐きそうな光景が広がっていた。


「まぁ、幸いこの辺は敵も強くないし……ん?」


 そこまで言いかけて男は違和感を覚える。


 先ほどまでちぎっては投げていた雑魚モンスター達の気配が一切しなくなったのだ。


「出てこない分には楽だからいいんだけど……ッ!?」


「え、きゃぁぁぁ!!!」


 突然背後からダメージを受けた男は、咄嗟に彼女を抱きかかえながら前方へ思いっきり飛ぶ。その際に元居た場所に下級魔法を発動すると襲撃者が姿を現した。


「【グリムリーパー】か、ついてないな……!」


 その男は一度悪態を吐くと彼女を後ろに守って体勢を立て直す。


「ゆぅくん!あいつなんなの!?」


「落ち着いてみぃちゃん。あれはエリアボスだ、ここらへんで1番強いモンスターだよ」


「1番強い……!?で、でもゆぅくんなら勝てるよね!?」


 不安げな彼女に対して男は答えることが出来ない。否、答えられたとしても余計不安にさせるだけだと感じ取ったからだ。


(さて、どうするこのままいけば十中八九全滅……。みぃちゃんだけでも逃がせたりしないか……?)


 男らしく、彼女だけでも生かそうと思考を巡らせる男。だが状況を把握すればするほど絶望的になってしまい、打開策など見いだせることはない。


 そうして無理だと結論付けようとしたまさにその時――悪魔(救世主)が現れる。


「La~~~♪」


「!?」


「なんだ!?」


「体が動かないっ!?」


 突然聞こえてきた歌声にそこにいた全員が例外なく困惑した声を上げる。


「どうなってるのこれ!?」


「いや、俺も分からないって!一体――」


「見つけたぁぁぁぁ!!!」


 動作の可能と不可能が連続して入れ替わる経験したことのない状況に困惑していた二人の目線は、叫び声をあげながら襲来した人物に自然と移る。


 その姿は初期装備であるローブ姿に同性ですら見惚れてしまうほどの綺麗な顔をした美少女だった。……ただし、その表情はひどく獰猛に笑っており、狂気すら感じる。


 少女は走りこんできた勢いのまま硬直している【グリムリーパー】に飛び掛かると、押し倒し、地面に組み敷いてぺろりと舌なめずりをする。


「じゃ、遊ぼっか」


 そう言った少女はゴッと【グリムリーパー】の顔面に右手を叩き込む。


「あははははははははっ!!!」


 高笑いをしながら【グリムリーパー】を何度も殴りつける少女に、何処からか流れる謎の歌声。


 動けない二人はその異様とも取れる光景に固唾を飲むことしか出来ず、足を震わすことすら許されない。


 そんな二人にとって永遠とも感じられたその長い時間は、【グリムリーパー】がポリゴンになって消えたことで終わりを迎えた。


「まだ足りないなぁ……ん?」


 消えていくポリゴンを名残惜しそうに眺めていた少女は、こちらを見ている存在に気付いたのかゆっくりと首を動かすと、にやりと片側の頬だけ上げて笑う。


「ハハッ……」


「――す、すみませんでしたぁ!!!」


「え?ちょっとおいてかないでよぉ!」


 その表情に脳内のキャパをオーバーしきって涙目になった男は我先にと逃げ出し、その後を女も追いかけていってしまう。


「あ、行っちゃった。にしてもまさか人がいたとは……恥ずかしい思いしちゃったなぁ」


 頬をかく、その少女の独白を聞くことなく……。


 ――この日を境に【ヘイラー墓地】にはエリアボスすら凌駕する化け物が存在するという噂が流れ始める。それは『ToY』都市伝説の1つとして数えられることになるが、本人がそれを知る機会は訪れることはなかった。


[TOPIC]

WORD【死神殺し】

【ヘイラー墓地】に流れた都市伝説の一つ。

【グリムリーパー】と対峙していると、謎の歌声と共に出現するとされ、獰猛な笑みを浮かべながら一方的に殴り倒すという、実にスプラッターな映像を見ることになる。

何者かが意図的にやっているのか、その正体は大男だとも華奢な少女だとも噂され、いまだに解明されていない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! いややりたいのは分かるけどさぁ、、W 見事にはっちゃけてて大草原 じゃしん、、、(憐みの目 都市伝説、、、WWWWW
[一言] 無茶苦茶ジョジョネタ連発してて草
[一言] じゃしん 強く生きろ
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