2-9 別れと再会
「レイさん、本当にありがとうございましたっ!」
「ぎゃう!」
「いや、何でじゃしんが答えるのさ」
ぺこりとお辞儀をしたミツミに対していやいやと手を前で振るじゃしん。それをレイはジト目で見つめる。
グリムリーパーを撃破したレイ達はあの後無事にキーロの街に辿り着いており、今は街の入り口から入ったすぐ横の、人通りから逸れた場所で向き合っていた。
「まぁじゃしんくんにもたくさん助けてもらいましたし」
「……それもそっか。何はともあれ無事にたどり着けて良かったよ。ところで」
「もきゅ?」
レイは安堵の笑いとも苦笑いとも取れる曖昧な笑顔を浮かべると、そのままミツミの肩にちょこんと存在する虹リスの方を見る。
・いやなんでいるん?
・レアとは
・まーたレイちゃんがなんかやったよ
「心当たりは――ないこともないな。でもその子ってテイムしたわけじゃないんだよね?」
「それはないと思います。ステータスは見られないですし、そもそも召喚士じゃないので」
「だよね。じゃあやっぱなんかのイベントなのかな?」
・そう考えるのが妥当っぽい?
・じゃあ条件はさっきのグリムリーパーの奴?
・ぽいけど確定ではないな
・他の人は起きてないわけだしね
未だ見ぬ現象を発見したレイ達はゲーマーの魂に火が入ったのか考察に熱が入るが、とある問題に直面する。
「あれ?このままだとミツミちゃん他プレイヤーから狙われたりしちゃう?」
・あー
・0とは言えない
・配信してるし可能性は高いだろうな
・レイちゃんが合法的にロリを捕まえようとしてる…
「人聞きの悪いこと言うな。でも冗談抜きで一人になるのは危ない気もするし、もうちょっと一緒にいた方がいいかも」
配信をしている以上この情報が出回るのは防ぎようがなく、少しばかり負い目を感じているレイはどうしようかと頭を悩ませる。
だが、ミツミは大袈裟にブンブンと首を振りながらレイに返答した。
「そこまでしてもらうわけにはっ!こうなったのもレイさんだけの所為ってわけではないですし……それにあてならあります!」
「あて?」
その言葉にレイは首を捻る。
「はいっ!この街で兄と待ち合わせしているんですが、どうやら友達も一緒みたいで!兄とその人達はとっても強いって聞いているので事情を説明して守ってもらうことにします」
「ふむ、ならいい、のかな?あ、ちなみに名前は分かる?だって」
それでも心配がぬぐえないレイはコメントにあった内容をそのままミツミに問いかける。
「兄はキリュウって名前でやっているって言ってました!クランの方は……ごめんなさい、ちょっと覚えていません」
・キリュウ…どっかで聞いたような…
・え?【鬼流組】じゃね?
・マジであの軍団なん!?
・じゃあ絶対大丈夫だわ…
「なんか思ったのと違うけれど……大丈夫ってことにしよっか」
一瞬何かを恐れるようなコメントに怪訝な表情を見せたレイだったが、一応視聴者のお墨付きを得たことでミツミと別れることを決める。
「はい、ではそろそろ待ち合わせ時間なので失礼しますね!」
「うん、ミツミちゃんも祭り頑張ってね」
「はいっ!レイさんもぜひ食べに来てくださいね!」
ミツミは手を振りながら街の中心地へと歩き出し、やがてその姿が見えなくなる。
・いい子だったな
・ね、なかなかいないよあんな子
・でも兄がアレか…
・これからどうするの?
・街探索する?
ミツミがパーティから離れたことを惜しむ声が聞こえる中、レイの今後の方針について尋ねるコメントが流れた。
「いや、当然【ヘイラー墓地】に戻るよ。これからレベル上がるまで経験値マラソン」
「ぎゃう!?」
至極当然のように口にしたレイに心底納得の出来ない顔でレイを見るじゃしん。
「当たり前じゃん。せっかくのチャンスなんだよ?グリムリーパーで5も貰えたんだからアレをあと5回程繰り返すだけだって」
・あれグリムリーパーって固定エンカウント?
・いやランダム
・5回会うの大変だぞ
・会うまでやれば固定ってことだよ
レイの発言に若干の畏怖を覚えつつも、しっかりと状況を把握した賢明な視聴者達は、これから犠牲になるであろうじゃしんに対して黙祷を捧げる。
「ぎゃ、ぎゃう……」
「そんな顔してもダメだからね。ほら行くよ――」
ジリジリと後退りするじゃしんだったがやがて壁に当たるとそれ以上後ろに下がらなくなる。
そうしてレイの手がじゃしんに届く、まさにその瞬間に。
「その前にすることがある」
「わっほい!?」
真後ろから急に鈴の音の様な可愛らしい声が耳元で囁かれ、レイは思わず奇声を上げながら飛び跳ねた。
・わっほいw
・わwwwっwwwほwwwいwww
・飛び上がったぞw
・あ、黒兎さんじゃん
レイが後ろを振り返るとそこには見慣れたゴシックファッションを着こなすウサの姿があった。
レイは奇声を上げたことに対する羞恥を押し殺すために少し大袈裟に咳き込むと、いかにも不満がありますよと言った目でウサを見る。
「……もっと普通に登場出来ないの?」
「これは演出上仕方のないこと。そんなことより」
その静かな抗議をすまし顔で流したウサは話題を変えるように本題へと入る。
「宿屋の登録を済ませていない。もしものことがあったら大変」
ウサの発言になるほどとレイは思考する。
たしかにリスポーン地点を固定するのは必須だというのは分かってはいる。・だが、それ以上に【じゃしん讃歌】を一刻も早く試したいという気持ちが強く、それを使えば負けないという絶対的な自信を持っていた。
「いや、でも多分負けることはないだろうし時間の無駄じゃないかな?」
「強制ログアウトを喰らっている人の発言ではない」
「うぐっ」
ウサの正論パンチにぐぅの音も出ないレイは何とか反論を探そうと視線を彷徨わせたが、やがて時間の無駄だと悟ったのか諦めたように項垂れる。
「……分かったよ。じゃあ先に宿屋に行く」
「OK、話はまとまった。じゃあ行こう」
そう言ってウサはウィンドウを操作して何かを探す素振りを見せると、それを閉じた後には右手に内部が炎のように揺らめいている石を持っている。
「あ、またこのパターン――」
その光景に酷く既視感を覚えたレイが何か言い切る前にウサの右手からパキンと何かが割れる音が聞こえた。
WORD【テイム】
【魔物使い】系統の覚えるスキル【テイム】によって、仲間となった状態。
異なる点として、戦闘を行ったそのままの状態で仲間となるというのがあるが、基本的に召喚で仲間にした状態と変化はない。




