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2-7 墓場の執行者


 【グリムリーパー】。


 下にある骨だけの体を黒いぼろきれのようなローブを身に纏って隠し、手に持った大鎌で刈り取る不死種★5のモンスター。


風景とも相まって死神を想起させるその姿は【ヘイラー墓地】のエリアボスモンスターとして、多くのプレイヤーに恐れられ、畏怖を込めて『執行者』とも呼ばれていた。


「……ミツミちゃん、少し離れてて」


「は、はいっ!」


 悠然と佇む【グリムリーパー】を視界に収め、レイは冷や汗を垂らしながら戦闘態勢に入ると、ミツミを庇うように背後へと匿う。


・来るぞ…

・え、何が?

・あ、消えた!


対する【グリムリーパー】はゆっくりと鎌を構え直すと、コメントの通りその身体に変化が訪れる。


だんだんと姿が背景に溶け込むように薄くなっていき、霧の影響もあってか、やがてレイ達の視界から完全に見えなくなった。


・これが強いんだよな…

・何が起きたの?

・このボス透明になれるんだよ


 【グリムリーパー】の固有能力として【希薄化】というものが存在する。


 効果はただただシンプルにその姿が見えにくくなるというものだったが、シンプルが故に強力で、対処が難しい厄介なスキルであった。


 またランダムエンカウントというボスの特性上、出会い頭どころかその姿を見る前に倒されるプレイヤーも少なくなく、条件さえ揃ってしまえば、トッププレイヤーでさえ成す術なくやられてしまう要注意モンスターである。


 ただ当然、対処法も存在しており、レイはそれを実行する。


・!?

・目つぶったよ!?

・何故!?


 突然の奇行とも取れる行動にコメント欄がざわつくも、それは大真面目にあるもの(・・・・)に集中するための行動だった。


 …………………チャキ…


「ッ!ここ!」


 その()が聞こえた瞬間、レイは身を捩る。そのままの勢いで音が聞こえたそこに【邪ナル教典】を横なぎに振り抜いた。


「!?」


 思わぬ反撃を食らった【グリムリーパー】は【希薄化】を解除してよろめく。頭上に存在するHPゲージはわずかだが削れていた。


・そっか、音は消せないのか!

・分かってても難しいんだけど……

・レイちゃん知ってたの?


「まぁね。セブンさんの動画でさんざん見たからさ」


 【グリムリーパー】の初撃を完璧に対応し、コメントに答えたレイだったが、まだまだ油断できる状況ではなく、その表情は厳しいまま【グリムリーパー】を睨みつける。


「でも耐久が少ないのが救いかな。ダメージは一応通るっぽいし」


 自身を励ますようにそう呟くと、レイは再び目を閉じる。


その後もあくまでカウンターを徹底し、鎌による攻撃避けてからこちらの攻撃を加え続けていき、やがてHPゲージを3割ほど削った所で【グリムリーパー】の様子が変わった。


「「!!!!!」」


 体を動かしながらカタカタと音を鳴らしたと思うと、空気を振動させ、【グリムリーパー】の姿がぶれて二体に増える。


「きたか……」


・第2形態じゃん

・増えた!?

・これヤバくね?


「大丈夫、これは知ってるから。じゃしん!」


「ぎゃ、ぎゃう!」


 レイがその名を呼ぶと、及び腰ながらもじゃしんは傍に寄ってくる。それと同時に二体の【グリムリーパー】の姿が再び認識出来なくなっていく。


…………チャキ…チャキ…


「ッ!? あっぶないなぁ!」


 極限まで集中することで、交差する形で横なぎされた二本の凶刃を紙一重で潜り抜ける。


鼻先を掠めたその攻撃に冷や汗を垂らしながらも、レイはお返しと言わんばかりにじゃしんを掴んで、【グリムリーパー】一体に向かって投げつけた。


「!?」


「ぎゃう!ぎゃう!」


 突然頭に張り付かれて困惑している【グリムリーパー】へ、思いっきりぺしぺしとその腕を叩きつけているじゃしん。だが、当然ダメージを受けている様子はない。


・何のために?

・意味なくない?

・いやあるよ


「うん、触れてさえいれば【希薄化】は出来ないからね。これでさっきと状況はほぼ変わらないよっと!」


 リスナーの疑問に解説を交えながらも透明になっている方の【グリムリーパー】の一撃を躱す。


 そうして【グリムリーパー】の体力が半分を切ったところ辺りで【時限草】を口にした。


 『3』カチッ


 「できればこれで倒れてよっ!」


 【グリムリーパー】の大振りに対して余裕をもって避けたレイは位置を調整する。


 『2』カチッ


 調整が終わると【グリムリーパー】に向けて思いっきりタックルを仕掛けた。


 『1』カチッ


 側面から押された【グリムリーパー】は反対方向によろける。


 その方面には顔面に張り付かれてぶんぶんと鎌を振り回している【グリムリーパー】の姿。


 『0』カチッ


 「爆ぜろ」


 レイの言葉と共にじゃしんが【グリムリーパー】を2体巻き込んで大爆発を起こす。


 その一撃は重複してヒットしたようで【グリムリーパー】の体力を大幅に削ったようだった。


「……ダメだったか」


 しかしその一撃ですべてを削りきることは不可能だったようで、残り1割ほどを残して【グリムリーパー】2体は煙の中でゆらりと立ち上がった。


「「!!!!!!」」


 空洞だった目が赤い光を灯すと、背後から赤黒いオーラを吹き出してひときわ大きく共鳴するかのように音を鳴らし始める。


・発狂モード!

・倒しきれなかったか…

・これどうなるんだ?


 【グリムリーパー】の変化に苦い顔をしていたレイはコメントを一瞥すると悔しそうに呟く。


「実は、動画で知ってるのはここまでなんだよね……」


 動画ではいつも最終形態に入る前にセブンが飽きて高火力で消し飛ばしていた。


 それをマネしようとレイにとっての最大火力をぶつけたが、残念ながらセブンの火力には遠く及ばなかったようだった。


・え?知らないの?

・あーだから浮かない顔してたのか

・こっからが本番ってことか


「そういう事、だからさっきので倒しておきたかったんだよね……さて、どうなるか――は?」


 警戒を怠らずに【グリムリーパー】達を見ていたレイだったが、思わず間の抜けた声が口から洩れる。


・あ

・あ

・また増えた

・さらに倍!


「「「「!!!!!」」」」


「うっそ、そんなのアリぃ!?」


「ぎゃう!?」


 目の前で2体から4体に増殖した【グリムリーパー】に対して、抗議の声を上げるレイとじゃしん。


 それをあざ笑うかのように【グリムリーパー】達は【希薄化】を発動し姿を消していく。


「やばいやばい!これは無理だって!なんか打開できるものない!?」


「ぎゃう!?ぎゃう!?」


 この絶望的な状況にレイは慌ててアイテムや自身の〈ステータス〉などを確認して――そこで初めて目にするものがあった。


=======================

NAME:じゃしん

TRIBE【神種lv2】

HP 666/666

MP 666/666

腕力 666

耐久 666

敏捷 666

知性 666

技量 666

信仰 666

SKILL【じゃしん結界】【じゃしん賛歌】

SP【別世界ノ住人】

========================


SKILL【じゃしん賛歌】

『尊キ御方』の歌声は聴く者全てに涙を流させる。その感情が同一とは限らないが。

効果①:観客を魅了し釘付けにする


「じゃしん、賛歌……?」


 見たことも、聞いたこともない名前と効果に一瞬眉を寄せたレイだったが、刻一刻と迫るタイムリミットに気持ちを切り替え、大声で叫ぶ。


「悩んでいる暇はないか……!じゃしん、いける!?」


「ぎゃう!」


 レイの言葉にあわあわしていたじゃしんは一度頷いた後、大きく息を吸い口を開いて。


「La~~~♪」


 ――その時、世界が止まった。


[TOPIC]

MONSTER【グリムリーパー】

墓守は死者を侮辱する物を許さない。その代償は首をもって。


不死種/魂魄系統。固有スキル【希薄化】。

≪進化経路≫

<★>ヒトダマ

<★★>ゴースト

<★★★>ファントム

<★★★★>蠢く亡霊

<★★★★★>グリムリーパー

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「うん、【透明化】はダメージを受けていると出来ないからね。これでさっきと状況はほぼ変わらないよっと!」 じゃしんの場合、ダメージ受けませんがダメージ与えられないので、グリムリーパーはダ…
[一言] 状態異常はじゃしんに自動で押しつけます(笑)
[一言] ついにマスコット兼生体爆弾卒業なるか!?
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