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2-5  お姉さんに任せなさい!


「こんなんじゃ『TOKYO』の地で生きていけないよ?」


 つまらなさそうに立ち上がったレイは手に持ったワインボトルをトントンと肩に当てながらやれやれと呟く。


「まぁでも今のかっこいい正義の味方じゃなかった?どう、みんな?」


 それでも当初の予定だった悪党を成敗するという目標を達成した――と思い込んでいる彼女は満足げにコメント欄に話しかける。


・いや~汗

・あ、あはは

・アッソッスネ

・レイちゃんレイちゃん、周り見てみ?


「え?」


 それでも当初の予定だった悪党を成敗するという目標を達成した――と思い込んでいたレイは満足げにコメント欄に話しかける。


 だが視聴者から返ってきたのは賛同の言葉ではなく、そのことに首を傾げながらも、コメントに従って周囲を見渡した。


「やべ、こっち見たぞ!」


「絶対目合わせるなよ!」


「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」


 するとまるで打ち合わせしていたかのように一斉に目を背け始めるプレイヤー達。中には坊主頭のプレイヤーが念仏を唱えている姿も見えた。


「あれ?思ってたのと違う……?」


・何も間違って無いんだよなぁ…

・その手に持ってる物見てから言ってくれ

・ってかそれ何で装備できてるの?


「え? みんなもそっち側?」


 本当に納得がいかないのか、リスナーからの総ツッコミに不思議そうな顔を浮かべると、その表情のままレイは手に持ったワインボトルに視線を移す。


「これは使い切った【満月印の養命酒】の空き瓶。武器じゃ無いから手に持ってるだけだね」


・どういう事?

・ん?それステータスアップしないよね?

・それ何の意味があるの?


 レイの言葉に今度はリスナー側が疑問を浮かべており、それに対してレイは至極当然の事のように答える。


「え、だって素手よりもこっちの方が痛そうでしょ?」


・………。

・………。

・………。


「……あ!そうだ女の子は大丈夫かな!」


 途端に流れ出した無言コメントの嵐に流石に分が悪いと悟ったのか、レイは誤魔化すように大声をあげて話題をずらす。


 それからその周囲に落ちていた少女の鞄を拾ってぱんぱんとホコリを払うと、くるりと少女の方を向く。


「ひぇぇ……」


 一方で視線を向けられた少女はすっかり腰を抜かしてしまっており、今にも泣きそうな顔をして悲鳴を上げている。


 レイが一歩ずつ近寄る度に彼女の表情は絶望感が増していき、どんどんと青ざめていった顔はレイが辿り着く頃には蒼白の域へと達していた。


・女の子、SAN値チェックでーす

・次の獲物はお前だぁ…

・ボスラッシュで草


「ぎゃう!」


 好き勝手言うコメント欄や突然少女との間に割り込んで両手を広げ、『もうやめろよ!』とでも言いたげなじゃしんの姿を見て、レイは何故か自分が悪者になっていることに気付く。


「いや、その反応は酷くない?……はいこれ、大丈夫?」


「……返してくれるんですか?」


 呆れた様子を見せたものの、少女に優しく笑いかけるレイ。それに対して少女は恐る恐るといった様子で鞄を受け取る。


「あ、ありがとうございます」


「うん、どういたしまして」


「……ほ、本当に何もしないんですか?」


「いや、しないよ?」


 チラチラと様子を窺うような少女にレイは苦笑を浮かべる。


「そんな身構えなくても大丈夫だよ。私の名前はレイ、君は?」


・レイちゃんやめなって

・名前聞いて何するつもりですか?

・初心者いじめるのは流石に…

・これがカツアゲってやつか…


「君達なかなか酷いこと言うね!?って、大きい声出してごめんね!」


 先程からあまりにも信用のないコメント欄にレイはついつい大声で反応してしまい、それによって少女は大きく肩を跳ね上げて怯えた表情に戻ってしまう。


それに必死で謝罪して落ち着かせること数分間、未だに怯えは完全に消えないが、ようやく話す程度には復活した少女が自己紹介する。


「わっ私はミツミですっ。職業は【パティシエ】ですっ」


「【パティシエ】?そんな職業あるんだ」


 ミツミの聞き馴染みのない職業にレイは少し驚いたような声を出す。


「そうなんです!この鞄にはその道具が入っていてっ、それで、あのっ、本当に助かりました!」


「ううん、気にしなくても良いよ」


 そしてカバンを大事そうに抱えながら、たどたどしくもぺこりと深くお辞儀をするミツミに、レイは満足げに頷いてコメント欄にドヤ顔を向ける。


「ほら、やっぱり私正義の味方だったじゃん」


・おっ、そうだな

・結果的にはね?

・やり方が完全にヴィランだったんだよなぁ…


「ぎゃう~……」


 コメント欄を代弁するかのように肩をすくめてやれやれとしているじゃしん。レイ以外は満場一致で『ダメだコイツ』という思いで一致したようだが、当の本人は全く気にしていないようだった。


「ふっ、負け惜しみを……ミツミちゃんはどこいく予定だったの?やっぱりキーロ?」


「あ、はいっ!やっぱりコンテストには参加したいので!」


 ぶんぶんと首を振りながら答える様子にレイは100%の笑顔(当社比)を向ける。


「じゃあ私が護衛してあげるよ!どうせ目的地はそこだし」


・え?

・なんか言い出した

・大丈夫?

・いや、問題ない…だろ…?


 完全に信用を失っているレイにコメント欄から懐疑の声が降り注ぐ。それをすべて無視しながら、ミツミに問いかけた。


「ミツミちゃんは戦う方法持ってる?」

 

「一応、少しだけ。でも戦闘職ではないので基本的に逃げながら向かうことになると思いますっ」


「じゃあほら、確実に辿り着くためにも戦う力を持ってる私が付き合ってあげるのが一番じゃない?何か間違ってるかな?」


 レイの正論にそれはそうなんだが……と否定しようとするも明確なコメントは出てこなかったようだった。ただ、視聴者の中で何故だか嫌な予感が渦巻いている。


「そんな申し訳ないですよ!私なら何とか走って向かうので……」


「大丈夫大丈夫、どうせ目的地は一緒でしょ?」


「でも……」


「困った時はお互い様だって」


 最初は遠慮がちに断っていたミツミだったが、レイの善意という名の圧に負けたのか、やがて諦めたかように呟いた。


「じゃあ、よろしくお願いします……」


「オッケー!お姉さんに任せて!」


 その言葉にレイはドンと胸を叩いて自信満々に答える。


・完全に正義の味方に酔ってやがる…

・失敗するフラグ建てすぎでは?

・これが有名配信者かぁ…

・ミツミちゃん逃げてー!

・やばそうならじゃしんが何とかするんだぞ!


「ぎゃう……」


 一方で完全に面白がっているコメント欄に、疲れた様子で天を仰ぐじゃしん。


 それを見たミツミは大丈夫かなと先程の判断を不安に思うのだった。


[TOPIC]

JOB【パティシエ】

冒険は小休止。さぁ美味しいお菓子でもつくりましょう。

【料理人】系統/第二次

転職条件①:【料理人】lv15

転職条件②:【パティシエセット】の入手

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― 新着の感想 ―
[良い点] (ダーク)ヒーローですね、わかります(笑
[気になる点] 「え、でもミツミちゃんは戦う方法持ってる?」  そうレイが確認を取ると、肯定するように頷くミツミ。 戦う方法持ってるのに何で護衛が必要なんだ…?
[一言] 先に言っておこう 南無三!
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