2-4 色々と外れてしまった結果がコレだよ!
50万PV突破いたしました。
クリスマスプレゼントとしてありがたく受け取っておきます。
『TOKYO大抗争』――。
VR黎明期に発売されたゲームである本作は現代の夜を舞台に、いくつかのチームに分かれて陣取り合戦を行うという趣旨のゲームである。
プレイヤーはヤクザに扮した組員として『TOKYO』の地を駆け回り、抗争を繰り返しながらも縄張りを広げていく。そんな独特な世界観からコアなファンに愛された、知る人ぞ知る名作だった。
特筆すべきはリアリティへの尋常ではないこだわりだろうか。
極端にエリアを絞ったからこそ実現できた徹底されたリアルな街並みは、VR初期のゲームながらも、最高峰のクオリティを誇っており、また、リアルを追求するというこだわりの果てに『ダメージは出血量で判断』、『ステータスとレベルの排除』、『死亡したら強制キャラデリート』などの、およそゲームとして成り立つのか不安なくらいの要素を詰め込むと予め公言しており、それが逆に多くのユーザーに期待感を煽った。
こうして発売前から多くのユーザーを虜にした『TOKYO大抗争』。だが、ユーザーがそれをプレイすることはなかった。
きっかけはリリース一ヶ月前、あまりにも現実世界に似すぎている世界観と、ゲーム性から一部界隈に目を付けられることになったのは始まりだった。
始めは運営自ら突っぱねていたものの、その声は次第に大きくなり、最終的には国から規制が入るという異例の事態を迎え、急遽として仕様の変更を余儀なくされてしまった。
もともと発禁ゲームとして発売される予定だった『TOKYO大抗争』はCEROをCまで大幅に引き下げられることになり、『血はでず、ダメージは数字で出る』、『RPGのようなレベルアップ方式』、『死んでも任意の場所でリスポーンできる』に変更されるという、鋭く尖っていた牙を根こそぎ引き抜かれてしまう修正を喰らってしまう。
結果残されたのはそのリアルな風景だけで、それ以外は抗争というよりもお遊戯会レベルに抑えられており、このまま可もなく不可もない、そんなゲームに成り下がる――そう思われていた。
そんな時、すべてを覆す事件が起きる。
それが起きたのは発売後、当初のゲームシステムを渇望したとあるユーザーによる一言
がきっかけだった。
その内容はせめてもの抵抗として、『死んだら自主的にデータ削除』という、少しでも元の仕様に沿うように独自のルールを広めようという趣旨のもの。
後に『鉄の掟』と呼ばれたそのルールは意外にも多くのユーザーから賛同を得て、広がりを見せたことでボロボロだった牙から少しだけ勢いを取り戻していった。
元々のポテンシャルは高かったためか、じわじわと知名度を伸ばしていく『TOKYO大抗争』。その後もどんどんと新規ユーザーを増やしていくわけだが……人が増えると言うことは新たなトラブルの種を呼んでしまうという意味でもあった。
次第に『鉄の掟』を守らないユーザーが出てきたのだ。
当たり前と言えば当たり前なのだが、『鉄の掟』は運営から課されたルールではないため守る義務もなく、せっかくレベルを上げたプレイヤーからすればそんな面倒な事はしたくないと言う考えも至極真っ当な意見と言えた。
しかしながら、それに異を唱えた古参勢達にも譲れぬ思いがある。
そんな論争がゲーム内だけではなく、やがてネットの掲示板やSNSへも波及し、加熱し始めた時――その事件が起こった。
ことの発端は『けんまTV』という配信者が『TOKYO』の地に足を踏み入れた事だった。
再生数を稼ごうとしたのだろう、話題に乗っかる為に『TOKYO大抗争』を始めた彼は、レベル1ながら爆弾を抱え、敵の本拠地に対して何度も何度も自爆特攻を繰り返すという動画を配信した。
『鉄の掟』を踏みつけて唾を吐きかけるようなその行為に、新規勢は面白がり英雄と讃えたが、同時に古参勢の逆鱗に触れることになってしまう。
そして報復が始まった。
後に『英雄狩り』と呼ばれる、相手に『二度とやりたくないと思わせるか』に重点を置いて行われた嫌がらせの数々は、視覚的リアルさも相まって一人の人間を壊すには十分であり、結果として『けんまTV』はゲームも配信者も引退し、二度と表舞台に出てくることは無くなってしまう。
流石にこれを悪質だと考えたその他大勢のユーザーから多くの通報がなされたのだが、なんと運営はそれをすべて無視。何一つとして動く様子を見せることはなく、見て見ぬふりをしたのだ。
それにより、古参ユーザー達は理解する。これが、これこそが運営と我々が望んでいるゲームなのだと。
大幅に意識が改変された『鉄の掟』はもはや古参勢でさえ生ぬるいものと判断され、如何にして敵の心を折り、『TOKYO』の地から排除するかという内容にゲームの目的が歪んでいく。
そんな殺伐とした世界に変化したことによって、かつては同接一万人をも超えていた『TOKYO大抗争』は100分の1まで減少し、残ったユーザーも蠱毒のように鋭く鋭利に研磨されていく。
こうして殺伐を求めたゲーマー達の理想郷――『TOKYO』の舞台が、そこに出来上がったのだ。
後に彼らは狂人達の辿り着く先として『抗争民』と恐れられるようになり、自らをルールから、人の道理から、そして、頭のタガが『外れた者』として自虐と誇りを持ってそう名乗るようになった――。
◇◆◇◆◇◆
「バカ、何やってんだ!」
「クソッ鬱陶しい!」
「相手は一人だぞ!?」
三対一の状況ながら、誰が見ても優勢なのはレイの方だった。
各々が勝手に攻撃するだけの連携など微塵も感じさせない攻撃を危なげなく躱し、少年共の余りのお粗末さにため息を吐く。
「こんなもん? じゃあもう終わらせようかな」
そう言ったレイは突っ込んできた少年Aに向けて、すれ違いざま足を引っ掛けて転ばすと、〈アイテム欄〉から瓶のようなものを取り出して相手に投げつけた。
「ぐあっ! 何だ!?体 が動かねぇ!」
「【痺れ薬】を投げたからね、当分は無理だと思うよ」
それはリボッタから奪い取ったアイテムであり、余りにも容易に少年Aの動きを止める。
何とか首を動かして周囲を見れば、他の仲間達も同様に倒れて動けなくなっていることに気づく。
「さて始めようか」
「な、なにを」
怯えた様子を浮かべる少年三人に、レイは満面の笑みを浮かべて言葉を放つ。
「お仕置き」
そう言うと俯せになっている少年Cの右手を逆方向に捻じ曲げる。
一瞬呆気に取られた少年達だったが、ボキィ!と高い音を上げてありえない角度になった右腕に息を呑み、悲鳴を上げる。
「う、うわぁぁぁぁ!?」
「痛みを感じない世界だから、視覚に訴えかけるのが一番心に来るんだよね」
続いてレイが少年Bの方に目線を向けると、可哀想なくらい怯えている様子が瞳に映る。だが、容赦するつもりは微塵もない。
「あとは身近なもので攻撃されるのも痛みを想像しやすくて良いよ。酒瓶とか金属バットは最強武器だからね」
散歩に出かけるような軽い態度でレイは仰向けになっている少年Bに近寄ると、突然顔面に思いっきりワインボトルを打ち付けた。
「ガッ!?」
・うわぁ……
・絵面が酷い
・これが『抗争民』?ヤバすぎるだろ
誰もが息をのむ静寂の中、ゴッゴッと鈍い音だけが響き渡る。
少年達だけでなく、リスナーや周りにいる他のプレイヤーですら恐怖に青ざめており、中には目と耳を塞いでいるものもいた。
「さてと」
「ヒッ!?」
少年Bが俯き、顔を上げなくなった事を確認したレイはくるりと反転し、少年Aに向き直ると、その口から情けない声が漏れる。
「貴方にはこれ」
そう言って彼女が取り出したのは何の変哲もないただの針。それで何をするのか分からない少年Aが脂汗を滲ませていると、レイは満面の笑みで刑を執行する。
「これを君の目に突き刺す」
「!?」
少年Aは耳にした言葉が信じられないのか、驚愕で目を見開く。だが、目の前の少女は悪魔のようにニコニコと笑っており、冗談などではないことに気が付いてしまう。
「く、来るな」
「はい動いちゃだめだよ」
せめてもの抵抗で拒絶の声を上げて、動かない体を必死に捩るも成果はない。
抵抗空しく少年Aの顔の前にしゃがんだ悪魔はその小さな針を持つとゆっくり、ゆっくりと彼の右目へと近づけていく。
じりじりと迫ってくる先端を酷く恐ろしく感じながらも、何故か視線を離すことが出来ない。
「あ、あ……」
焦らすように、しかし確実に迫ってくる針にごくりと生唾をも煮込んだ少年Aは――。
「う、うわぁあぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」
その目に当たる瞬間、ついにプレッシャーに耐え切れなくなったのか、絶叫を上げ、突然ごとりと気を失ったかのように動かなくなる。
「あれ?」
どうやらログアウトを選択したらしい、魂が抜けて倒れこむ少年Aにレイは首を傾げて周りを見渡すと、BとCも同じように身動きしていなかった。
「え?もう終わり?」
その様子をみた悪魔はどこか物足りなさそうにぽつりと呟いていた。
[TOPIC]
GAME【TOKYO大抗争】
VR黎明期に登場したシミュレーション型オンライン対戦ゲーム。
各陣営に分かれて陣地を獲得するというルール以外は自由度が高く、金による買収、武器の使用、裏切り何でもアリなため、無法地帯といっても過言ではない。
キャッチコピーは『拝啓、道を極めんとする者達へ』
リアルを徹底し、本物の世界を作り上げる事をコンセプトにつくられた意欲作であったが、リアル過ぎたために国から規制が入り、大幅にダウングレードをしてしまう。
だが『鉄の掟事件』により、暴走、もとい一致団結した一部の狂人達が殺伐とした理想の世界『TOKYO』を作り上げることに成功した。
その凶暴性や容赦のなさから他ゲーの民からはプレイヤー達は『抗争民』と呼ばれ、畏怖される存在として話題となった。




