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8-47 託す思いと新たなスタート


「ふっ、てこずらせやがってにゃ」


「ぎゃうっ」


 無抵抗のまま消えていった【邪神の先兵】。その残滓を眺めつつ、一仕事終えたようにじゃしんとニャルが額を拭う。


「ニャル、みんな待ってるよ」


「にゃ?あぁ、にゃるほど」


 そこへ、狙撃銃を肩に担いだレイがニャルへと声をかける。


一瞬何のこと分からず首を傾げていたが、すべての【邪神の先兵】が消え去り、一身に集まる期待の視線でその意味を理解すると、咳払いの後に声を張り上げる。


「――我々の勝利にゃ!」


「ぎゃうー!」


 剣を掲げた姿をマネするようにじゃしんが腕を掲げれば、それに続く形で周囲から勝鬨が上がる。


 そこでようやく、人知れずレイが胸を撫で下ろしていると、彼女の眼前にどこからともなくノラが現れた。


「やぁやぁお疲れ様。無事に倒してくれたようだね」


「どうも。満足した?」


「それはもちろん、素晴らしい戦いだったよ。これは文句の付けようがないかな」


「と、いうことは?」


「うん。継承の儀、これにて終了ってことで!」


 ノラの満面の笑顔と共に、周囲にファンファーレが鳴り響く。加えて、彼女の目の前に八度目となる祝福のウィンドウが表示された。


[〈ワールドアナウンス〉プレイヤーネーム:「レイ」がワールドクエスト【演じるは王、たとえ道化になろうとも】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]

[称号【受け継がれる意志の育成者】を獲得しました]

[ITEM【王の器】を入手しました]

[ITEM【黄金の毛皮】を入手しました]

[ITEM【寅の紋章】を入手しました]

[ARMOR【英雄のマント】を入手しました]

[レベルが上がりました。ステータスより確認して下さい]


「無事クリアできたか。よかったな」


「ギーク、顔と言葉が一致してないよ」


 そんな中、仏頂面をしたギークがわざわざ近づいてきて賞賛の声を浴びせれば、後ろから少し困った顔をしたイッカクが続く。


「ありがと。二人にも大分助けられたね」


「ふん、感謝される謂れはない」


「えっと、これは通訳した方が良い?」


「あはは、大丈夫。伝わってるから」


 素直じゃないギークの様子に苦笑いで顔を見合わせるレイとイッカク。そこへ今度は、二人の少女が駆け込んでくる。


「凄いですお姉様!」


「その姿もかっこいい」


「二人もありがとね。みんなも!助かったよ!」


 こちらはキラキラと目を輝かせながら素直な言葉をぶつけてきており、レイは彼女達と、それからここまで付き合ってくれたクランメンバー達に感謝の言葉を伝える。


 それによってさらなる歓声が巻き起これば、ここまで静観を保っていたノラが口を開いた。


「それじゃ、僕の役目はここまでかな。これからは君が世界の命運を担うんだ。任せたよ?」


「あぁ、任せるにゃ」


「ん、その言葉が聞きたかったんだ」


 ニャルに対して脅すような言葉をかけると、真っすぐとした力強い視線が返ってくる。それに嬉しそうに顔を綻ばせると、だんだんと体が薄くなっていく。


「ノラ!」


「そんなに心配しなくても大丈夫だって。僕も彼も本質は同じだし、死ぬわけじゃないからさ。案外どこにでもいるから、きっといつかまた会えるよ」


 焦ったような声を漏らしたレイに対し、当の本人は至極暢気に、なんでもないような声で返答する。


「それじゃまた!探索者諸君の健闘も祈っているよ!バイバーイ!」


「あっ、行っちゃった……」


 そして最後に、なんとも気軽で明るい声でお別れを告げれば、完全にこの場から消えて見えなくなる。


「……え?うわっ、びっくりした」


「新しい王の誕生、という訳か」


 それと同時にニャルの元へとすべての化身が集い、頭を垂れる。その忠誠を誓うような姿に、ニャルは思わずごくりと喉を鳴らした。


「これは……随分と重い物を託されちゃったようにゃね」


「ぎゃう~?」


「ふん、そんにゃ訳にゃいにゃ!誰でもかかって来いにゃ!」


「ぎゃう~!」


 自身の肩に乗ったものを再認識したニャルだったが、からかうようなじゃしんの声にすぐさま強気な態度を見せる。


 そのままいつもの流れになると思われたが、不意にニャルが天を見上げてぽつぽつと呟き始めた。


「にゃふ~、にしても色々あったにゃね!お前とは絶対に気が合わにゃいと思っていたにゃけど、意外と分からにゃいものにゃねぇ」


「ぎゃうぎゃう!」


「あぁ、滅茶苦茶楽しかったにゃ!ご主人様と出会って、色々な場所に行って、強い奴等と戦って……じゃしんという親友ができた」


「ぎゃ、ぎゃう?」


 最初は同意するように頷いていたじゃしんであったが、雰囲気がいつもと違う事に気が付き、少し怪訝そうな表情を浮かべる。


 それを見たニャルは儚げに微笑みながらも核心に触れた。


「分かっているんにゃろう?ここで私の冒険は終わり。お別れにゃ」


「ぎゃ――」


 彼等の立場を考えれば、それは当然起こりえるもの。だが、あえてそれを考えないようにしていたじゃしんは、寝耳に水を喰らったかのように言葉を失う。


「私はここで役目を全うするにゃ。だから、お前も――」


「ぎゃう?ぎゃ、ぎゃうっ!」


 その先をニャルが口にすれば、正気に戻ったじゃしんが慌てて口を挟んで、今度はレイに向けて何かを懇願するように縋りつく。


「ぎゃうぎゃーう!ぎゃう!」


「……まぁ、気持ちは分かるよ。私だってそうだから」


 胸元に飛び込んできたじゃしんの気持ちを汲むように、レイはニャルへと語り掛ける。


「私としてもついて来て欲しいなって思うけど、ダメ?」


「にゃはは。光栄ですけど、流石に難しいですにゃ」


「残念、振られちゃった」


 それに対して苦笑を浮かべながら首を横に振るニャル。ただ、まるでその回答が分かっていたかのようにレイが肩を竦めると、それに感謝を述べつつ、再びじゃしんへと向き直る。


「そうにゃ、じゃしんがこっちに残るってのもアリじゃにゃいか?それにゃらずっと一緒にいられるにゃ!」


「ぎゃ、ぎゃう……」


「……にゃふん、それが答えにゃよ。お前はこんにゃ所で終わる奴じゃにゃいにゃ」


 ニャルからの提案に、じゃしんは少し困った素振りを見せる。だがそれを見たニャルは『それみろ』といわんばかりに胸を張った。


「じゃしんはもっと世界を見てくるにゃ!そして、もっともっと強くにゃったら、もう一度勝負してやってもいいにゃよ!」


「ぎゃう……」


「にゃーにそんにゃ顔してるにゃ。あぁ、分かったにゃ!勝てる自信がにゃいんにゃね?」


「ぎゃうっ!?ぎゃうぎゃーう!」


 一度は弱気に顔を伏せたじゃしんだったが、ニャルの煽るような言葉に瞬時に反応して顔を上げると、威嚇するように大声をあげる。


 その姿を見たニャルは嬉しそうに大笑いすると、自身の腰に携えていた剣をじゃしんに向けて差し出した。


「にゃはは、その意気にゃ!その顔にゃら、これを預けるに値するにゃ」


「ぎゃ、ぎゃう!?ぎゃうぎゃう!」


 『いや、受け取れないが!?』とでも言わんばかりに首を振るじゃしん。それを見かねたのか、レイがニャルに向けて問いかける。


「ニャル、いいの?大事な剣なんでしょ?」


「いいにゃ。今の私には必要にゃいからにゃ。じゃしんに持っていて欲しいにゃ」


「ぎゃう……」


 それでもニャルの意志は変わらない。不安そうな目をするじゃしんへと、いつもと同じ自信満々な瞳で思いをぶつける。


「また会う時までに、それが似合う男ににゃるにゃよ!持て余したりしたら、許さにゃいにゃ!」


「――ぎゃうっ!」


 その言葉に、遂に覚悟を決めたじゃしんは泣き笑いに似た表情を浮かべてその剣を受け取る。


「にゃはは、(にゃん)て顔してるにゃ」


「ぎゃう、ぎゃうぎゃーう」


 じゃしんの涙に釣られたのか、ニャルの目元にも涙が浮かぶ。だがその涙は決して悲しい物ではなく、とても暖かで幸せな空気がそれを証明しているようだった。


「いいの、さっきみたいにつっかからなくて?」


「……そこまで野暮ではない」


 そんな二人の友情を周囲が見守る中、レイは憮然とした態度で腕を組むギークの元へと近寄る。


その存在にギークは苦々しそうに顔を顰めたが、心外だといわんばかりに鼻を鳴らしてそっぽを向く。その姿をくすくすと笑うと、レイも気を緩めて雑談を投げかけた。


「んー、でもこれで八つ目か。ギークもワールドクエスト進めているの?」


「当り前だ。今回もすぐに追いついてみせる――」


「ん?なに――!?」


 だが、そんなありきたりな終幕は訪れない。


 突如、二人の目の前に現れた二つのウィンドウ。それは新たな始まりを予期させ、同時に途轍もない波乱が巻き起こる合図でもあった。


[〈ワールドアナウンス〉プレイヤーネーム:「エスト」がワールドクエスト【忸怩たる思いを力に変えて】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]


[〈ワールドアナウンス〉プレイヤーネーム:「マフラ」がワールドクエスト【命運を分かつ幾許の時】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]


 物語は加速する。世界の最後が訪れる、その時まで。


[TOPIC]

MONSTER【ノラ】

彼等は目。各地に散らばる脅威を許さず、未然に圧し潰す無数の個。

世界を守る影の英雄達は、貴方のすぐ隣でも目を光らせているだろう。

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