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8-45 【演じるは王、たとえ道化になろうとも】④


「ニャイスにゃじゃしん!」


 強敵の撃破にニャルがその場で跳びあがって湧きたつ。だが、レイが気になったのはそこではない。


「……え?今じゃしんが止めをさした?」


「ぎゃ、ぎゃう……?」


 じゃしんの持つ呪縛のようなスキル、【別世界ノ住人】。その効果に長年苦しまされてきた身としては、今目の前で起きた光景が到底信じられない。


 当の本人でさえも、『今のを俺が……?』とでも言わんばかりに自身の手を見つめて震えているが、そこですかさずニャルが近づいてきて口を開いた。


「違うにゃよ。【白銀ノ世界】の効果で【極凍】状態になった時点で、もう勝負はついてたにゃ。じゃしんの攻撃はおまけにゃ」


「だよね、知ってた」


「ぎゃうっ!?」


 告げられた残酷な真実にじゃしんが愕然とした様子で振り返る中、ケロッとした様子で態度を改めるレイ。


 その視線は既に【邪神の先兵】へと向けられており、砕け散った体から魂が抜けるかのようにノラが飛び出してくる。


「お見事!まさかここまでとは思いもしなかったよ!」


「ということは、継承の儀はクリアしたってことでいい?」


「もちろん!……と言いたいところだけど、まだ終わってないんだよね」


 満面の笑みで拍手を送ったノラは、レイの一言にゆっくりと首を振ると、ニャルの方を見つめて語り掛ける。


「最後は、君が上に立つ立場として相応しいかを見極めさせてもらう。僕らの役割は多対多だからね、個人が強くても意味ないのさ」


「にゃるほど……?」


 ノラの言葉に半信半疑の様子で考え込むニャル。その姿に笑みを深めながらも、ノラはテンションを上げて叫ぶ。


「というわけで、最後は全員で相手してもらうよ!」


 その声と共に、先程と同様、黒い闇が人の姿を形成する。だが、先程とは明らかに異なる点が存在した。


「こ、この数はっ!?」


「ま、まずいにゃね……」


「ぎゃう~っ!?」


 一体、二体、三体……次々と増殖していく【邪神の先兵】。その勢いにレイ達が背中を預け合いながら驚きの声を漏らせば、遠くでノラが暢気な声を漏らす。


「いやぁ、捕まえたコイツ等の数が多すぎてどうしようかと思ってたけど、意外と役に立つもんだねぇ」


「にしたってやり過ぎでしょ!」


「ぎゃうー!」


 レイとじゃしんが抗議の声を叫ぶも、ノラはどこ吹く風といった様子で微笑むだけ。それに加え、一度大きく手を叩いて音を鳴らせば、轟音と共に天井が崩壊した。


「んなっ!?」


「それじゃあ、いってらっしゃーい!」


 青々とした大空にレイが目を細めている間に、【邪神の先兵】が我先にと外へと飛び出していく。


「ほらほら、ぼーっとしてないで!これに乗って追いかけてね!」


「へ?あ、そっか!二人とも、行くよ!」


「はいにゃ!」


「ぎゃう!」


「全部倒したらクリアだからね~。みんなで協力するんだよ~」


 状況が分からず、茫然と足を止めていたレイ達だったが、ノラの一声によってハッと意識を戻すと、すぐさま階段を駆け上がって外へと飛び出していく。


「何だコイツ等!?」


「おおい!うちのコジロウになにすんだ!」


 外に出たレイ達が見たのは、化身へと襲い掛かる【邪神の先兵】の姿。それを傍にいるプレイヤーが迎撃しており、至る所で乱戦が繰り広げられていた。


「これは……」


「レイ、これは一体?」


 周囲を見渡すレイに向けて、駆け足で寄ってきたウサ。続けざまに問われた質問に、レイは困惑しながらも回答する。


「ワールドクエストの一環らしい……ごめん、詳しいことは分からないんだけど、全部倒さなきゃいけないんだ」


「なるほど~。聞きましたか皆さん~?」


「みなさん、出番ですよ」


「「「いあ、いあ、じゃしん!」」」


「「「はっ!」」」


 その声を聞いて、遅れてきたスラミンとシフォンが指示を飛ばす。すると、さらに奥にいた多くのプレイヤー達が【邪神の先兵】に向けて散っていった。


「みんな、ごめんね。また付き合わさせちゃって」


「いいんです。みんな好きでやってますから」


「そうですよ~。むしろレイさんの力に成れて嬉しいんです~」


 レイが感謝の言葉を告げれば、彼等の思いを代弁するかのように二人が反応する。


 それにレイが申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていると、慌ただしく彼女の元へとやってくる人影があった。


「『きょうじん』!これは一体どういうことだ!」


「あ、あんなに嫌味を言いながら去ったギーク!今更どんな顔して戻ってきたの!?」


「うるさい!そんなことわざわざ口に出すな!」


 いかにも怒っていますといわんばかりの態度で詰め寄ってきたギークに対し、レイがからかうような冗談を返せば、更にその目を吊り上げる。


 一方でその隣にいたイッカクは【邪神の先兵】を見つめながら、なにか心当たりがあるような素振りでレイへと問いかけた。


「アイツは……レイさん、継承の儀はどこまで行った?」


「え?【邪神の先兵】を倒した所までですけど……あ、そういえばイッカクさんも――」


「うん、フェーズ3までは行ったんだけどね。僕とアポロじゃ倒せなかったんだ」


 イッカクから告げられたまさかの事実に、レイは僅かに目を見開く。その間にイッカクは自身の持つ情報と照らし合わせるように考え込むと、やがて一つの結論をはじき出す。


「……もしかして、コイツ等は化身でしか倒せないんじゃないかな」


「そんなことある、のかな……?」


「試してみればいいだろう」


 机上の空論で悩むレイ達を見かねたのか、すぐさまギークが動きを見せる。


 そのまま近くにいた【邪神の先兵】の一体をロックオンすると、手に軍刀をもって背後から斬りかかった。


「あれ、倒しちゃった……?」


「チッ、そういう仕様か」


 ギークの一撃で地面に倒れ伏した【邪神の先兵】。だが、地面に倒れた後、溶けるように形を崩すと、再び人の姿となってギークへと襲い掛かかる。


「なるほど、倒すことはできるけど、復活しちゃうのか……」


「化身が倒すとどうなるんだろう?お願いできる?」


「任せるにゃ!【薔薇の氷化粧】!」


 ギークと対峙する【邪神の先兵】に向けて、ニャルが氷の結晶を発射する。


 ノラが操作していないからか、先程よりか性能はダウンしているようで、迫りくる花弁のような氷刃を背中で受けると、苦しそうな声を上げて地面へと倒れ込んだ。


「にゃ?意外とあっけないにゃ」


「消滅した……。ということは、仮説はあってそうだね」


 物足りなさそうなニャルはともかく、地面に倒れた【邪神の先兵】はレイ達の見立て通りに復活することなく、ポリゴンとなって消えていく。


「よし、全員に知らせてくる。お前達は少しでも数を減らしておけ」


「了解」


「僕達もフォローするよ」


 おおよその方針が決まると、戻ってきたギークも交えつつ各々の動きを決める。


「ニャル、よろしくね」


「任せるにゃ!全部私が倒すにゃよ!じゃしん、ついてくるにゃ!」


「ぎゃう~」


 その中で、作戦の核であるニャルへと一言声をかければ、自信満々に胸を叩いた後、羨ましそうな表情をするじゃしんを引き連れて意気揚々と駆け出していった。


[TOPIC]

MONSTER【邪神の先兵】

その神は、己の分身たる兵を生み出した。いずれ我が物となる世界を吟味するために。


神種/系統なし。固有スキル【邪神の加護】

《召喚条件》

なし

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