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8-44 【演じるは王、たとえ道化になろうとも】③


 額から二本の触覚が生え、顔の半分を複眼のような巨大な瞳が埋める。そんなバッタのような顔面に対し、全身は黒く、彫りの深い肉体美があった。


「なにあのモンスター……」


「ぎゃう……」


「……手強そうにゃね」


 遠目から見れば、プロレスラーと言われても違和感がないほどにモンスターらしくない見た目。


 両手は光の手錠のようなものに掴まれているが、その小柄から信じられないほどに巨大な圧を放出しており、レイ達は思わず身構える。


「これの名前は【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】。名前の通り、かの悪名高き邪神の操るモンスターさ」


「どうしてそんなのがここに……?」


 その反応にノラは悪どい笑みを浮かべれば、ぽつりと呟かれたレイの一言に対して、更に笑みを深めていく。


「ふっふっふ。何を隠そう、この僕こそが悪名高き邪神――って嘘嘘!ジョークだからそんなに睨まないでよ!」


 ただ話が進んでいくにつれて、レイ達の視線がどんどんと鋭くなっていき、今にも攻撃しそうな臨戦態勢に変わる。


 それを見たノラは大慌てで前言を撤回すると、ひどく低姿勢となって真実を告げた。


「各地で鹵獲したのを封印していたんだ。その脅威を、身をもって体感してもらうためにね」


「鹵獲……ね」


 その言葉を信じたのか、レイは一度前のめりになった姿勢を戻す。


 先ほどの会話も含めて信憑性があったのだろう、物わかりの良いレイの姿にノラは一度頷くと、大きく咳払いして高らかに宣言する。


「それじゃあフェーズ3だ。この【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】を倒して見せて。ただし、僕が操る……ね!」


「なっ!?」


 その言葉と共に、霊体となったノラの体が【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】の体内へと入り込む。その瞬間、【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】の目が怪しく光ると、拘束していた光の腕輪が消滅した。


「ぎゃうっ!?」


「危にゃいにゃ!」


 【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】の体がぶれると、一瞬でレイ達の眼前へと現れる。


 そしてじゃしんに向けて踵落としを繰り出すと、ニャルがそれを庇うように間に入り、振り下ろされた右脚を刺突剣で受け止めた。


「ぐっ、いきなりだ……にゃっ!」


「戦いなんて言うのはそんな物さ!」


 ギリギリと歯を喰い縛りながらも、なんとか勢いを殺し切ったニャルは、返す刀で【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】を押し返すと、周囲に氷の結晶を展開させる。


「【薔薇の氷化粧(アイスフローズン)】!」


「うわっと、危ないな!」


 飛来する花弁の形をした氷の刃を、言葉とは裏腹に軽快に避けた【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】は、最後の攻撃をニャルに向けて蹴り返す。


「ほら、お返しだよ!」


「にゃ、まずっ――!?」


 自身の放った攻撃がまさか己に向くとは思わず、ニャルは慌てて剣を構える。


 だが、それがニャルに触れる前に複数の発砲音が鳴り響くと、氷の結晶にぶつかり相殺した。


「悪いけど、それはさせないよ」


「ちぇ、惜しかったのに」


「ご、ご主人、助かったにゃ。でも、一筋縄ではいかにゃそうにゃね……」


 【RAY-VEN】を構えたレイに向けてニャルはお礼を告げつつ、目の前の相手を睨みつける。


 見た目とは裏腹に、両腕を頭の後ろで組み、随分とコミカルな様子で佇む【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】。ただそこには隙が無く、ニャルが攻めあぐねる中、一歩後ろにいたレイが声をかける。


「さぁ、どうする?私が動こうか?」


「それは――」


 それは決して二人を侮った発言ではなく、むしろ憂慮した発言。


 だがそのレイの一言に、ニャルがハッと目を見開くと、失いかけていた自信をかき集めて、強気に笑って見せる。


「――大丈夫にゃ!ご主人、まだドーンと構えてていいにゃよ!」


「ぎゃう!」


「……オーケー、好きにやっていいよ。フォローはしてあげるから」


 大きく出たニャルと、それに同意するようにじゃしんがその隣に立って【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】へと立ち向かう。


 そんな二人の姿にレイが薄く微笑んで一言告げると、それに強く頷いて身を寄せ合った。


「じゃしん、聞くにゃ……」


「ぎゃう……ぎゃう……」


「作戦会議かい?いいよ、待ってあげる」


 コソコソと耳打ちしながら何かを話し合う二人の姿に、【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】に憑依したノラは悠長に腕を組みながらじっと待つ。


 しばらくして作戦が決まったのか、お互いの顔を見ながら頷き合うと、まずはじゃしん

が【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】へと突撃した。


「【炎魔法:メテオストライク】!」


「お、弱点だと思った?残念、魔法攻撃には強い体なんだ」


 じゃしんの影にうまく隠れたニャルが炎の火球を放つも、【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】は避ける素振りすら見せない。


 そのまま顔面に直撃すると、目の前に炎が広がって視界を奪う。それ自体は大したダメージではないが、直後、感覚が鋭くなった耳がきれいな歌声を拾った。


「Ra~!」


「ッ、状態異常か。悪くない……けど足りないね!」


「ぎゃうっ!?」


 数秒の間、体が硬直した【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】だったが、力を籠めて筋肉を増大させると、無理やり硬直を解いてじゃしんへと腕を伸ばす。


 自身の持つ一番信頼できるスキルを初めて突破され、じゃしんは思わず驚きの声をあげる。ただその背後から、すぐさまニャルのフォローが入った。


「大丈夫にゃ!【霜草の森(フロスト・フォレスト)】!」


「おっと、危ない。でも悪いけど、それは一度見てるんだよね!」


 じゃしんに伸ばしていた手を引っ込めて、凍る地面から逃れるように跳びあがった【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】。


 背中に着いた大きな翅を羽ばたかせながら宙に浮けば、そこへニャルの鋭い声が響く。


「じゃしん!」


「ぎゃうっ!」


 まるで作戦通りとでも言うような態度で突撃してくるじゃしん。それに怪訝そうな瞳を向けつつも、避けることなくその体を受け止める。


「空中戦がお望みかい?でも、この程度じゃ――」


「【メタルコーティング】!」


「ッ!?」


 ただ抱き着いただけかと半ば落胆したノラだったが、突如じゃしんの体が鈍色に変わると、質量が数倍に増加する。


「ぎゃう~!」


「くっ、この……」


 その重さによって、【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】の体がゆっくりと沈み込んでいく。


 必死で抗ってはいるが、次第に高度を落としていく姿に、ニャルはここぞとばかりに新しいスキルを畳みかけた。


「さらに倍にゃ!【闇魔法:グラビオール】!」


「ぐあぁっ!?」


「ぎゃうっ……!」


 かかる負荷が更に増加すれば、遂に耐え切れなくなったのか、【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】がじゃしんを抱えたまま地面へと墜落する。


「ようやく、地面についたにゃね?」


「し、しま――」


 加えて、落ちた場所は白に染まった地面。


 【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】が触れた瞬間にその体が凍結を始めれば、ニャルは会心の笑みを浮かべて必殺技を繰り出した。


「【白銀ノ世界】!」


 それは、【凍傷】という、【霜草の森(フロスト・フォレスト)】によってしか発動しない特定の状態異常にかかった相手限定の必殺技。


 地面に突き刺さった刺突剣が白く発光するのとともに、雪が積もったように白んだ地面も輝き始めれば、抵抗する間もなく、【凍傷】を発症した体を更に冷たく、強力な状態異常へと変える。


「さぁ、やっちゃうにゃ!」


「ぎゃ~う~!」


 そうして完全に凍り付いた【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】へと、ニャルの攻撃に巻き込まれぬよう、一度大きく飛びあがっていたじゃしんが再び突撃する。


「――うん、お見事」


 そして、ぽつりと呟かれたノラの賞賛とともに、【邪神の先兵(イビル・ヴァンガード)】の体が粉々に砕け散った。


[TOPIC]

WORD【フェーズ3】

力も心も必要以上……うん、君達はどうやら信頼に値する人物みたいだね。まぁ今までの試験な様子見みたいなものだし、ちょちょいのちょいと突破してくれないと困るんだけどさ。なにはともあれ、ここからが継承の儀の本番だよ。すべてを手に入れるか、それとも失うか、それは聞いた地次第。さぁ、覚悟はいいかい?

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[気になる点] あとがきの最後の文の"聞いた地次第"は"君達次第"の間違いでは?
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