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8-36 遅れてやって来た主役


 天を塞ぐ黒雲から放たれる落雷。そのすべてが【シャクラ】の腕へと収束され、この世の物とは思えない音と共に槍の形を形成する。


「ぎゃう――」


「まだにゃ!」


 それを見たじゃしんが離脱を開始しようとした時、頭上にいるニャルが鋭い声を上げてそれを制止する。


「このままじゃ避けられるにゃ!もう少し我慢するにゃ!」


「ぎゃ、ぎゃう……」


 拘束する側から拘束される側へ立場を変えた【ヨトゥン】は自由を取り戻そうと力一杯逃れようと足掻く。


 先ほどその恐ろしさを味わったからなのか、なんとしても逃れようという思いが尋常じゃない力を発揮しているようで、解かれそうになる腕に、じゃしんの口から思わず弱気な声が漏れる。


「にゃーに情け(にゃさけ)にゃい顔をしてるにゃ!大丈夫、私がついてるにゃ!」


「――ぎゃうっ!」


 ただその不安をニャルが一喝して吹き飛ばしてしまう。


顔は見れていないが、じゃしんの脳裏に浮かぶのはニャルの厭味ったらしくも自信満々な笑顔。それに吊られるように口元に笑みを浮かべると、じゃしんは再度力を込めて【ヨトゥン】の動きを抑え込む。


「まだにゃよ……まだまだ……」


「ぎゃ、ぎゃう……っ!」


 力比べでは、【ヨトゥン】に軍配があがる。じりじりと押し返される腕に、じゃしんは冷や汗を垂らしつつも、【シャクラ】の様子をじっと観察しているニャルを信じて少しでも時間を稼ぐ。


「――今にゃ!」


「ぎゃ~うっ!」


 そして、その時が訪れた。


 【シャクラ】の腕に四本の青白い槍が顕現、その矛先が【ヨトゥン】とじゃしんへと向けば、それを見たニャルが力の限り叫んで、それと同時にじゃしんはスキルを解除する。


「にゃにゃにゃっ!?」


「ぎゃう~!」


 ぼふん、という音とともにじゃしんが一気に元のサイズまで戻ったため、頭上に乗っていたニャルが空中に放り出される。


それによってニャルが慌てた声を上げたが、すぐさま傍に寄ったじゃしんがそれを受け止めた。


「ニャイスキャッチにゃよ!後は……逃げるにゃ~!」


「ぎゃう~!」


 互いの健闘を称え合った二人は、予定通り一目散にその場から離れようと動き出す。その動きを見届けたレイは思わずガッツポーズをしながら顔を綻ばせた。


「よし、作戦通り!後は戻って――」


「ミオン先輩!」


 その時、レイの背後から鋭い呼び声が上がる。その声に思わず振り向いたレイが目にしたのは、座禅を組むジャックの肩に両手を置いたミオンの姿。


「分かってる。いい報告を期待してるよ。……【私の全てをあなたに(シェパード・パルス)】」


 スキルの名を口にした瞬間、ミオンの体が発光し、その光がジャックへと流れ込んでいく。


「あれは……」


・ステータスアップスキルだね

・全ステータス三倍とかだっけ

・その代わり発動者がデスする


 見たことのないスキルにぽつりと漏れたレイの声に対し、コメント欄から解説が入る。それを証明するかのように、ミオンの体が次第に薄くなっていき、やがて完全に消えてなくなってしまった。


「ありがとうございます!ミナト!頼む!」


「あぁ!」


 当然それを知っていたのか、ジャックは一瞥することなく感謝の言葉を述べるだけに留めると、続いて反対側にいたミナトへと声をかける。


 気前のいい返事と共に腰の双剣を引き抜いたミナトは、ジャックの体の横へ、彼の体を挟むように突き立てた。


「行くぜ、【電光の通り道エレクトリカル・ロード】!」


 そしてスキルの発動と共に、ジャックの目の前に二本のレールが敷かれる。稲妻で出来たと思しきそれは黄緑色の光を放っており、真っすぐに空へと繋がっていた。


「さぁ、気張ってこい!」


「ッ!あぁ!任せろ!」


 そして最後に、彼に思いを託すようにその背中を強く叩けば、ジャックの体が稲妻と同化し、レールに沿う形で高速移動を開始する。


・移動スキルか?

・自分で移動すればいいのでは

・空飛べないんだろ


「待って、あそこって……!」


 その移動についてコメント欄で議論が交わされる中、レイはそのレールの行き先に気が付き、驚きの声を上げる。その場所は――。


「よぉ、久しぶりだな。リベンジ果たしに来たぜ……!」


 まさしく、戦場のど真ん中。今まさに繰り出されんとする【シャクラ】の必殺技の目の前へと躍り出たジャックは、不敵な笑みを浮かべてスキルの名を口にする。


「【神呼の絶縁針】!」


 ジャックが発動したのは、雷属性の攻撃を大幅に軽減した上で、自分へと集約させるスキル。


 まさしく【シャクラ】対策とも呼ぶべきスキルを身に纏い、すべての準備を完了させたジャック。そこへ、満を持して雷の槍が投擲された。


「グッ!?九割カットしてこれかよ……!」


・えっ、当たるの?

・ってか何でずっと座禅組んでるん?

・たぶん【瞑想】ってスキル。あの間だけHPが回復する

・本当だ、HPゲージが凄い勢いで動いてる


 何の抵抗もなくその攻撃を受け入れたジャックの姿に、視聴者の間では動揺が走る。だが、ジャックのHPは目まぐるしく変化するも、決して尽きることはない。


赤黄緑と様々な色に切り替わりつつもすんでの所で耐えきってはまた満タンまで回復するを繰り返す。


「……もしかして耐えきるつもりなの?一体何のために……」


「いや、ある。まさか、アレを狙っているのか……?」


 その状況を楽しむように笑みを浮かべているジャックに怪訝そうな表情を浮かべるレイの隣で、ギークが何やら心当たりがあるかのようにぶつぶつと呟いている。


 それについて訊ねようとレイが口を開こうとしたその時、けたたましい雷鳴が突如として鳴り止んだ。


「――耐え切ったか……じゃあこっちの番だなっ!」


 残されたHPはほぼ僅かであったが、スキル【瞑想】のお陰ですぐさまフルゲージへと戻ったジャックのHP。それを横目で見つつ、ジャックは座禅をやめてその場で立ち上がって腰を落とす。


 そのまま必殺技を放った硬直で動けない【シャクラ】へと、ジャックは居合の姿勢をとれば、今までの恨みをぶつけるように勢いよく抜き放った。


「スキルを盛りに盛ったHPでギリギリだったんだ。この返しは痛いじゃ済まねぇぜ!」


 それは、耐えに耐え抜いた者だけが許される至上の斬撃。


 己が負ったダメージをそのまま返す一撃は、レイドボスの必殺技という最凶最悪の必殺技によって蓄積され――。


「【血雨の仇討ち】!」


 ――たったの一振りで、50mを超える巨体を真っ二つに両断した。


[TOPIC]

SKILL【血雨の仇討ち】

主君を失った若き戦士達は、忠義の元に稲穂を赤く染めあげる。

CT:500sec

効果①:受けたダメージと同等のダメージ

※自身のダメージ軽減効果を考慮せず、本来受ける筈だったダメージを参照する

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― 新着の感想 ―
[一言] おーカウンター技かぁ やっぱカウンターいいよね
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