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8-35 地獄の世界を二人で越えて


「じゃしん、お願い!アイツの動きを止めて!」


「……ぎゃうっ!?ぎゃうぎゃう!」


 レイのお願いに対し、自分と【ヨトゥン】へと指を交互に移動させたじゃしんは『何言ってんの!?無理無理!』とでも言いたげに勢いよく首を振る。


 だが、それでレイも引くわけにはいかない。せっかく見つけた希望の糸を手繰り寄せるために、最大限の説得を試みた。


「お願い!じゃしんにしかできないの!ほら、みんなを助けるためだと思って!」


「ぎゃ、ぎゃうぅ……」


 背後に控える【じゃしん教】の面々をダシにしつつも、レイはなんとかして作戦に加わるよう言葉をかける。それでもなお渋い顔をしているじゃしんに向けて、今度はニャルが声をかけた。


「にゃんだ?震えているのかにゃ?寒いのか、それともまさか、ビビってるのかにゃ?」


「ぎゃ、ぎゃうっ!ぎゃうぎゃーう!」


 ニャルの疑いの眼差しに、『そんなわけないだろ!』と怒りを露わにするじゃしん。だがそんな姿にも、ニャルは鼻で笑って見せる。


「はっ、全く信憑性がにゃいにゃ。ご主人!こんなポンコツじゃにゃくて、私に任せてほしいにゃ!」


「ぎゃうっ!?」


 まさかの立候補に、じゃしんは目を飛び出して驚けば、レイも同じように、少し困惑した様子でその言葉を否定した。


「い、いや、それは無理でしょ。ニャルじゃ厳しいって」


「そんなことにゃいにゃ!私だってやればできるにゃよっ!」


 諭すような声音が癪に触ったのか、ニャルは目を吊り上げてその場で地団駄を踏む。


「そもそもずるいにゃ!こいつばっかり活躍してるにゃ!私だってもっとできるにゃ!仲間にゃんだから見てるだけにゃんて嫌にゃ!」


「そんなこと言ったって……」


 もはや子供のような癇癪を起して思いの丈をぶちまけるニャル。気持ちはわからないでもないが、それに取り合っている時間もないため、どうしようかレイが悩んでいると、不意に俯いて声のトーンを下げる。


「……分かってるにゃ。私では役不足にゃことを。だから、ここはお前に譲るにゃ」


「ぎゃう!?」


 先ほどまでの想いを押し殺した声で呟いたニャルは、驚きっぱなしのじゃしんの肩に手を乗せると、じっとその目を見つめて言葉を紡ぐ。


「しょうがにゃく、しょうがにゃーく!この見せ場はお前に譲ってやるにゃ。それとも、私のライバルはこんにゃ所で臆するのかにゃ?」


「!」


 その煽るような一言に、じゃしんの目が一際大きく見開かれる。そして、もう一度周囲を見渡したことで、視線にこめられた多くの期待を感じとり、決意の込められた表情に変わった。


「――ぎゃう!」


「よし、そのいきにゃ!」


 じゃしんの見せた力強い頷きに、ニャルは満足したのか満面の笑みを浮かべると、とてとてとレイの隣まで歩いてくる。


「ニャル、ありがとう」


「にゃに、やれることをしたまでにゃ。それに、感謝するにはまだ早いにゃよ?」


 そこに感謝の言葉を返せば、ニャルは謙遜の後に不敵な笑みを浮かべていた。


その意味が分からずに僅かに首を傾げたレイだったが、すぐにじゃしんへと向き直って、やるべきことを通達する。


「よし、それじゃあ作戦ね。まず【ヨトゥン】の背後に回り込んでほしい。そしたら【じゃしん巨映】を使うから、あとはなんとかして【シャクラ】から引き剥がしてくれれば作戦完了かな。もし仮に【シャクラ】が大技を使った場合、すぐに解除していいから。とにかく命大事に、だよ」


「ぎゃ、ぎゃうっ!」


 レイの説明を聞いて、もう一度強く頷いたじゃしん。それを見届けた後、レイは全力の笑みを浮かべてサムズアップする。


「よし、じゃあ行ってこい!」


「「「いあ、いあ、じゃしん!」」」


「ぎゃーうー!」


 レイの言葉に続く形で【じゃしん教】から響く合唱。それに背中を押される形で、じゃしんは雄叫びを上げながら飛び去っていく。


「――ちょっと肩を借りるにゃよ」


「む?」


 ――だが、それをよしとしない人物が一人。


 いつの間にか距離をとっていたニャルが、トリスの肩を経由しながら十分な助走とともにじゃしんの背中へと飛び乗った。


「えっ!?」


「ぎゃ、ぎゃう!?」


「にゃはは!一人で美味しい思いなんてさせるつもりはこれっぽっちもにゃいにゃよ!」


 背中に乗った衝撃に空中で大きくバランスを崩すじゃしん。だが奇行を起こした本人は、してやったりと言った表情で高らかに笑う。


「ちょっとニャル!ダメだってば!」


「心配いらにゃいにゃ!ささっと役目を果たして帰還するにゃ!」


 レイが少し怒気を孕んだ言葉を投げかけるも、どこ吹く風といった様子で自信満々な返答をする。


 それにレイが本格的に怒り出す――前に、ニャルはバランスを保とうとフラフラ揺れるじゃしんに語りかける。


じゃしん(・・・・)、いけるにゃね?」


「……ぎゃうっ!」


 初めて呼ばれた自分の名。他でもないニャルから呼ばれたことによって、じゃしんは体中に力が漲っていくのを感じ、不敵な笑みを返して力強く返事をする。


「ふふっ、いい目にゃね。それでこそ私のライバルにゃ!」


「ぎゃうぎゃーう!」


 もはや体の震えは止まっている。アドレナリンが放出されているじゃしんの体からは震えは消え去っており、過剰なまでの自信を纏って【ヨトゥン】へと飛び掛かっていく。


「ちょっ!?もう!気を付けてよ!」


「おい、いいのか?」


「よくないけど、こうなったら信じるしかないでしょ!」


 忠告に留まることなく、前へと進むことを決めた二人をレイは歯がゆい思いで見送れば、コメント欄も同様の声で埋まる。


・大丈夫そう?

・心配だわ……

・心臓破けそうなくらいドキドキしてる

・今からでも辞めさせない?


「本当にね……無茶だけはやめてよ…….」


 ただ、もはや彼女には祈ることしか出来ない。心の底から心配そうな表情で離れていく二人を見つめていた。


「ぎゃうっ!」


「中々いいスピードにゃよ!前回とは乗り心地が大違いにゃね!」


 一方、ハイになった二人は怖いものなしとでも言わんばかりの速度で、障害物の降り注ぐ戦場を駆け抜ける。


 中には躱すことの出来ない軌道で向かってくる氷塊も存在するが――。


「修行の成果、見せてやるにゃよ!にゃあ!」


「ぎゃうっ!?」


 じゃしんの頭を踏んづけて飛んだニャルは刺突剣を引き抜くと、氷塊に真正面から立ち向かう。


目にも止まらぬスピードで振るわれた剣技は、向かってくる氷塊に切れ込みを入れ、瞬時に細切れへと姿を変えた。


「――にゃっと。ざっとこんなもんにゃ」


「ぎゃうっ!?ぎゃう~!」


「にゃに言ってるにゃ。私のお陰でピンチをしのげたにゃよ?」


 再びじゃしんの上へと着地したニャルがきざな態度で剣を納めれば、下にいるじゃしんから不満が上がる。


 それに対してニャルが言い返せば、たちまち始まる二人の劇場。ただ、目を離す時間があるほど、この戦場は甘くない。


「ちょ、前前!」


「ぎゃ、ぎゃうっ!?」


「うにゃっ!?」


・あっ!?

・ヤバい

・ニャル!?


 もがく【シャクラ】の脚が大きく揺れ、じゃしん達の傍へと薙ぎ払われる。


 距離としては余裕があるが、なにせサイズがサイズ。その行動によって二人の周囲に乱気流のような突風が発生し、じゃしんの背中からニャルが引き剥がされた。


「ッ!じゃしん!」


「ぎゃう~!ぎゃうっ!」



 ただ、そこからのじゃしんの動きは早かった。


 すぐさま空中で体勢を立て直すと、落下するニャルの元へと一目散に飛んでいき、その腕を掴んで、再び背中の上に引っ張り上げる。


「にゃにゃっ!?あ、危にゃかったにゃ……」


「ぎゃうぅ……」


「はぁ、本気で心臓に悪かった……気を付けてよ!」


 当の本人達――いや、それを見ていた全員が危機一髪の状況を脱したことにほっと胸を撫で下ろす。


 それが良い薬になったのか、そこからの二人はレイの言葉を思い出したかのように慎重に歩を進めていき、やがて【ヨトゥン】の背後へと辿り着く。


「ぎゃーうー!」


・着いた!

・いいぞ!

・レイちゃん今!


「よし、【じゃしん巨影】!」


 遥か遠くから僅かに聞こえるじゃしんからの合図に、すぐさまレイはスキルの名を叫ぶ。


「ぎゃ~う~!!!」


「さぁ、やってやるにゃ!」


 それによって、巨大化していくじゃしんの体。2倍、4倍、8倍、倍、倍、倍――。


 あっという間に【ヨトゥン】にも引けを取らないほどの大きさへと変貌したじゃしんは、その背中に張り付いて羽交い締めを試みる。


「いいよ!じゃしん、そのままキープで!」


「ぎゃ、ぎゃう……!」


「頑張るにゃ、踏ん張りどころにゃよ!」


 当然【ヨトゥン】から強力な抵抗をされるため綺麗に決まることはないが、それでも当初の目的であった【シャクラ】を自由にすることに成功する。


 そして、距離を取った【シャクラ】はレイ達の期待通りに大技のモーションへと移る。四本の腕を天へと掲げ、そこに雷が収束していく――その時。


「――時は来た」


 ここまで静観していたあの男が、ぽつりと呟いて目を見開いた。


[TOPIC]

MONSTER【雷霆公主 シャクラ】

20xx年10月08日にリリースされた『ToY』パッチVer.2.13『災害級の支配者達』にて追加された超大型モンスター。出現と同時に大雨を降らせ、雷鳴を轟かせる。

雷属性の攻撃を主体に、対多数への攻撃を得意とする。特に『環境耐性ゲージ』によって発生する特殊状態異常の【帯雷】は、発症したが最後攻撃を躱すことが不可能になるため、【天ノ空豆】で対策したい。

ただ、その特性を逆手にとることで、あるいは――。

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