8-31 混じり合う自然災害
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突如出現した、現存するもう一体のレイドボス。
【シャクラ】よりも倍以上高い、百メートルは超えるであろう白銀の巨体とともに、周囲は雨と雷と雪が入り乱れる異常気象へ変貌を遂げる。
「な、何が起こって……!?」
余りにも理解し難い出来事にレイの中に様々な感情が巻き上がる中、目の前にある黄色のゲージの上に現れた水色のゲージが、彼女の意識を強制的に現実へと引き戻した。
「まずい、このままだと前と一緒だ……!」
・ヤバいって!
・これ対策手段あるの!?
・ないだろ!早く逃げよう!
募る焦りは視聴者へと伝播し、そして周囲にも繋がっていく。特にクランに所属していない野次馬として参加したプレイヤー達は、我先にと戦場に背を向けて走り出していた。
「こんなの勝てるわけないだろ!」
「下がれ下がれ!何とか戦闘エリア外にっ!」
「早く行け!巻き込まれるぞ!」
まさしく混沌と化した戦場。二匹の怪物が醸し出す威圧感にその場に残るプレイヤーも立ち尽くす中、一度戦線を離脱したイッカクが【聖龍騎士団】を引き連れてギークの下へと着地する。
「ギーク!さっきの奴等は一体何者なんだ!?」
「分からん!だがそんなこと言っている場合ではないだろう!」
珍しく焦った様子を見せるイッカクに対して、ギークはそれ以上の声量で叫び返しつつ、この状況を作り上げた男達を探す。
未だ空に浮かぶ二人の周囲には砂のカーテンが張られており、その随分と余裕そうな態度に舌打ちをしながら【WorkerS】のメンバーへと向き直る。
「総員、よく聞け!一般プレイヤーの退避を誘導、その後我々もこの場を離れるぞ!」
「「「はっ!」」」
ギークの指示に対して軽快に返事をした軍服のプレイヤー達はすぐさま準備を整えて行動を開始する。
「……僕達も退くよ!殿は努めるからみんなは先に!」
「「「了解!」」」
加えて撤退を開始した【WorkerS】に倣うように、【聖龍騎士団】もまたこの場を去ろうと動き出す。
もはや抗うのも馬鹿馬鹿しいほどに強大な力の差。それを前に一人、また一人と減っていく人影にレイの脳内にはぐるぐると様々な選択肢が駆け巡った。
・逃げよう
・また凍っちゃうよ!
・そうじゃん、そっちの対策できないんでしょ?
・ニャルもいるんだぞ
「……そうだね。みんな、逃げる――」
ただ視聴者から提示される選択肢も、当然逃走一択。それしか道が残されていないことを察したレイが【じゃしん教】のメンバーに指示を出す――その時だった。
「おいおい、どこに行くつもりだ。まだパーティは始まったばかりだぞ」
「なんだ……!?」
「これは……ッ」
耳に届いた不穏な言葉とともに、黒づくめの男の持つ杖から途轍もない量の砂が放出される。
一粒一粒が生き物のように地面を這って蠢きながらも、逃げ去るプレイヤー達の背を追い抜き、眼前に立ちふさがるように壁となる。
「【ソーラーストライク】!」
「おぉ!これなら!」
「いや、ダメだ!」
「何なんだよクソ!」
それにイッカクが攻撃を加えるも、空いた穴はすぐさま修復されてしまい、綻びを見せない。
それによって退路が断たれたことを悟ったプレイヤー達から不満の声が上がると、それすらも楽しんでいるかのような声音で『復讐者』は言葉を紡ぐ。
「無駄だ、君達に残された道は、栄光か死のみ。さぁ、もうやるしかないぞ。存分に楽しんでくれ!」
その言葉と共に、ここまで睨み合いを続けていた二匹の怪物がほぼ同時に動き出す。
【ヨトゥン】が背中に背負った巨大な氷の弓を構えると、【シャクラ】のはるか上空に向かって放てば、黒雲に風穴を開け、天空へと射出された煌めく矢。そして数秒後、それは拡散し、隕石のような氷塊となって返ってくる。
「みんな!散らばって!」
以前、その攻撃を受けたことのあるレイはこの後に起こりうる未来を予測し、すぐさま行動に移る。
対する【じゃしん教】の面々も一瞬の思考の後、スムーズに動き出した……が、今回に限ってはその予測は使い物にならないようだった。
「レ、レイさん!あれは~ッ!?」
「う、嘘でしょ……!?」
降り注ぐ氷塊に対し、【シャクラ】が人差し指を天に翳せば、その氷塊に向けて雷撃がぶつかる。
恐らく【シャクラ】にとっては自身に降りかかる火の粉を払うくらいのなんてことはない動作。だがそれによる被害の拡大は尋常ではなかった。
「ざっけん――ッ!?」
「よし、躱した――え」
「んなっ!?なんだよこの氷、近づくと雷が走るぞ!」
降り注ぐ氷塊に直接被弾したプレイヤーはもちろん、その周囲にいたプレイヤーさえも次々とポリゴンへと変わっていく。
どうやら【ヨトゥン】の作り出した氷塊に【シャクラ】の特性である連鎖効果が載っているようで、近くにいたプレイヤーへと雷撃が襲いかかる仕様になっていた。
「そんなのアリなの!?」
・ナシだろ
・やってられん
・なにこれクソゲー?
ただでさえ広範囲に及ぶ攻撃が、攻撃後も凶悪な設置物としてエリアに残る、まさに地獄絵図。
そのうえでプレイヤーを狙った攻撃ではないのが余計に理不尽さを際立たせており、レイは感情のままに叫び声をあげる。
「レイさん~、そんなことしている場合では~……」
「そうだよね、ごめん!でもどうしようも……!」
「ご主人……」
「ぎゃう……」
その間にも取り残された【じゃしん教】の面々へと確実に被害が出始めており、スラミンが焦った様子でレイの名を呼ぶ。
ただ、それでもレイにはどうすることもできない。『環境耐性ゲージ』という、目に見えるタイムリミットがレイを急かしていく。
「お姉様。少しよろしいですか?」
「シフォン?」
そんな時、いつの間にか近くに寄っていたシフォンがレイへと声を掛ける。
いつになく真剣な表情でレイの前に立つと、とある提案を口にした。
「呼んで欲しい人物がいます。前回出会った蛇の『聖獣』……ミーアさんをここへ。お願いします」
[TOPIC]
OTHER【雷撃を纏った氷塊】
【ヨトゥン】の放ったスキルに【シャクラ】のSPスキルが合わさった特殊状態
SKILL【滅亡の矢】→広範囲に高威力の氷塊を振らせる
SP【雷龍公の烙印】→ダメージを与えた相手に【超電導】の状態付与
STATE【超電導】
効果①:周囲の対象に自身が受けたダメージと同等のダメージ
効果①:周囲の対象に【電導】を付与




