8-30 復讐者は混沌を目論む
どうやら完結済みになってたみたいで、お騒がせしてすみません。まだまだ続く予定ですので、ご心配なく!
それからなんと、コミカライズも開始しました!
マンガUP!様にて配信中ですので、まだの方は是非ご覧ください!
ちなみに、コミカライズの第3話、めっちゃ面白いです。
「本当だ、誰かいる……?」
・誰だあれ?
・あんなところで何してるんだ?
・どこかで見たことあるような……
見覚えのない二つのシルエットの登場に、レイは怪訝な表情を浮かべる。それは周囲のプレイヤーも同じだったようで、ざわざわと困惑の喧騒が広がっていく。
「ごきげんよう、探索者諸君」
そんな中、遂に黒ずくめの乱入者が口を開く。その声は至極愉快そうに――いや、愉悦にまみれた冷たい声音をしていた。
「随分と楽しそうじゃないか。これは骨を折った甲斐がある」
「……誰だ貴様は!」
遠くにいるにもかかわらず、何故か耳元で囁かれたかのように響く声。そのどこか含みを持たせたような内容に、ギークが鋭い声で問いただす。
「名乗るほどのものではないよ。それでも呼称が欲しいなら、『復讐者』とでも呼ぶといい」
・復讐者……?
・あ、中二病の方でしたか
・レイちゃんの仲間?
「いや、違うけど?みんなの中の私って一体……」
「……総員、撃て!」
男の名乗りに対し、まるで緊張感のないやり取りがレイと視聴者の間で繰り広げられる。そんな中、ギークは『復讐者』を敵と判断し、即座に攻撃を仕掛けた。
先手必勝と言わんばかりに放たれたバズーカ砲。それは一切の揺らぎなく『復讐者』へと着弾し、爆風を巻き起こした……のだが。
「そう邪険に扱うな。君達と争う気はない」
「なん、だと……!?」
・何だあれ!?
・砂っぽい?
・何者なんだ?
爆炎が晴れた後、そこにあったのは黒ずくめの二人の姿ではなく、繭のような楕円形の砂の塊が展開されていた。
爆風を防いだ分厚い砂の壁は、役目を終えたように周囲へと霧散し、ほどけた繭の中から『復讐者』と名乗った二人が再び姿を現す。
「少し話がしたいだけだ。そのためには……まずはコイツに黙ってもらう必要があるな」
そう言って杖を翳した『復讐者』。すると、杖の先端にある黄土色の宝石から大量の砂が出現する。
「えっ!?」
・マジ!?
・そんなのありかよ!?
・強すぎるだろ……
その砂は意志を持ったようにうねり、周囲にいるプレイヤーを躱しながら【シャクラ】に殺到する。
そして、その四肢を鎖のように縛り上げ、行動を完全に制限してみせれば、その場にいるプレイヤーすべてが驚愕で目を見開いた。
「……思い出した。あの二人組、レイドボスを倒したプレイヤーです~」
「レイドボスを?」
自由自在に砂を操る謎の男の姿にレイが警戒を強めていると、不意に隣にいたスラミンからその正体が明かされる。
それを聞いたレイは自身の記憶を辿り、そこでようやくレイドボスを打倒した二人の存在がいることを思い出した。
「そいつらが何でここに……?」
「さぁ。もしかしたらこのレイドボスも獲りに来たのかもしれません~」
・手伝いに来てくれた可能性
・んなわけ
・明らかに敵意を感じるんですがそれは
ただその目的までは思い至らないようで、視聴者やスラミンと共に頭を悩ませる。そんなレイの袖をくいっとウサが引っ張った。
「レイ、知り合い?」
「は?あの二人と?全く心当たりないけど……どうしてそう思ったの?」
「めちゃくちゃ睨んできてる」
いきなり頓珍漢なことをいうウサにレイは首を傾げたが、ウサの指摘通り改めてよく見てみると、二人の内の片方、『復讐者』の後ろに控えている人物が、目深にかぶったフードの隙間からでも分かるくらいの形相でレイの事を見つめていた。
・本当だ
・モテモテじゃん
・レイちゃんまたなんかやった?
・すーぐ恨みを買うんだから
「いやいやいや、今回ばかりは冤罪だって!……たぶん」
誰かも分かってない上に全く心当たりのないレイは、疑いの視線を向けてくるウサや視聴者にぶんぶんと手と首を振る。そんな時、『復讐者』の口からその場にいるプレイヤー全員に向けての問いが発せられる。
「さて、【雷霆公主 シャクラ】討伐を楽しんでくれている皆に問いたい。……この状況に満足しているか?」
・ん?
・満足?
・どういうこと?
その言葉に、コメント欄は疑問の声で溢れかえる。それはレイも同様で、頭の中をエクスクラメーションマークで埋めながら続きの言葉を待った。
「仲良しこよしでレイドボスを攻撃して、最後はたった一人しか報酬を受け取れない。こんな理不尽がまかり通るのが許せるのかと聞いている」
「さっきから……意味の分からない事を言うな!」
ただ続く言葉を聞いても、その真意を理解することが出来ない。ついに痺れを切らしたのか、ギークが大声で問い返せば、『復讐者』はそれを鼻で笑ってみせる。
「分からない、か。それがある意味で正しい形なのかもしれないな。所詮、貴様等はあるものを享受して、満足したら捨てるだけの傲慢な人間だ」
なにかを見限るような、諦観の念が込められた台詞。それにギークが眉を顰めれば、『復讐者』は億劫そうに首を振って話を進める。
「いや、いい。そんな話をしに来たんじゃない。俺が言いたいのは、我が子がこんなしょうもない消費のされ方をされているのが許せないということだ」
笑みを消し、真剣な口調で話し始める『復讐者』。その一言一句から怒りを感じ取ったレイを含めた多くのプレイヤーが、過った嫌な予感に従うように一歩後ろに下がる。
「もっと仕様を詰めれば、きっとこのゲームの目玉の一つになれた。もっとユーザーに楽しんでもらえた筈だ!……それがどうだ、おざなりに扱われた結果、ほとんど話題になることなく、挙句の果てには存在さえ知らないプレイヤーも存在する……!」
相変わらず、言っている意味は理解できない。ただ、強い感情が込められた言葉に、その場にいる全員が静かに、固唾を飲んで見守ることを余儀なくされている。
「努力が報われない世界はクソだ!であれば!神のきまぐれで成り立つこの世界も紛う事なきクソゲーだろう!間違っているか!」
・何言ってんだコイツ?
・それは……そうかも
・確かに、普通のゲームっぽくはない
・そうか?多少の優劣がないとつまらんだろ
・脳死で神ゲーとか言ってる奴が多すぎるんだよな
・いやいや、他のゲームに比べたら神ゲーだろ
『復讐者』の言葉に、僅かにざわつき始めるプレイヤー達。視聴者間でも論争が巻き起こっており、ヒートアップするそれをレイがどう収めようか悩んでいると、『復讐者』がニヤリと笑った。
「ここにいるということは。君達はそんなゲームが好きなんだろう?では、そんな君達に、私からのささやかなプレゼントだ」
そう言って『復讐者』の掲げた杖から、大量の砂が放出される。それは竜巻状になり、巨大な砂嵐を発生させ、そして――。
「あ、あれは……!?」
「理不尽なゲームが好きなんだろう?では、せいぜい楽しんでくれ」
巻き起こった砂嵐の中から、超巨大な白銀の腕が飛び出る。その既視感に目を見開いたレイの目の前に、出現したウィンドウが更に彼女を混乱の渦へと引き込んでいく。
[Worning!]
・レイドモンスター出現
【積乱霰帝 ヨトゥン】
[レイドモンスターが出現しました!周囲のプレイヤーと協力し、撃破してください]
戦場が、混沌に支配される。
[TOPIC]
ITEM【M8.6ミスリルバズーカ】
ミスリルで作られた銀色に煌めくロケット砲。使い捨ての消耗品としては破格の性能と金額を誇る。
効果①:弾数一発の固定ダメージ(1000dmg)
 




