8-26 じゃしん教式決起会
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「お待たせしました~」
「ううん、大丈夫。私も今来たところだから」
【じゃしん教】の面々がレイの前に辿り着くと、先頭にいたプレイヤーからなんとも間延びした挨拶が聞こえてくる。
それにレイが笑顔で返答していると、困惑しっぱなしの視聴者から状況を整理するコメントが流れた。
・どういう状況?
・ここにいる全員参加するの?
・そうだろ、知ってないとこんな集まらないし
・あぁ、だから【じゃしん教】に入れって言ってたのか
「そういうこと。ジャックが参加してもいいって言ってたからね」
「言ってねぇだろそんなこと……」
一部の視聴者から合点がいったような反応が流れ、レイが流し目でジャックを見ながらニヤリと笑う。それに項垂れたままのジャックがサメザメと泣きながら蚊の鳴くような声で否定した。
「あぁ、胃が痛い……」
「ははは、私はもう慣れたよ」
「ま、見つかったのが運の尽きだったな」
立ち直れそうのないジャックとは対照的に、彼の肩に手を置いたミオンとミナトの顔は楽しそうに笑っていた。
それを見て裏切り者などと吐き捨てつつ、ジャックは立ち上がって責めるような視線をレイへと向ける。
「というか、いいのかよ。お前って他人を巻き込むのを良しとしないタイプだろ?」
「まぁね。でも今回は敵が敵だから。それに呼ばなかったら、すっごい根に持たれるしね……」
「そうですよ~」
どこか遠い目をして答えたレイに怪訝そうな目を向けたジャックだったが、その後ろから女性プレイヤーが顔を出す。
「スラミンと申します~。どうも初めまして~」
「あ、これはご丁寧にどうも……」
初対面の女性を前に挙動不審となるジャックだったが、スラミンは微笑みながら、大人の対応で接する。
「いきなり押しかけてすみません~。ただ、こうでもしないとレイさんは一人で突っ走っていっちゃうので~」
「あー、分かります。あいつは昔っからそうなんですよ」
「そうなんですか~?いや、なんとなく分かります~」
そのほんわかとした雰囲気に当てられたのか、ジャックの方にも笑顔が増え、二人は和気藹々とレイに関することで雑談を始める。
「……スラミンね。覚えたよ」
「いや、目が怖いって」
……ただ、すぐ近くで恋の猛獣が睨みを利かしているのに気付いてはいないようだった。
「トリス達も、来てくれてありがとね」
「なに、我々も【じゃしん教】の一員だ。気にすることはない。むしろ、初陣にこんな大物を選んでくれたことに感謝しているくらいだ。なぁ、お前達?」
「「「「「おぉ!!!」」」」」
ちょっとした修羅場が形成されそうな雰囲気を見て見ぬ振りするために、レイがトリスへと声をかければ、やる気満々といった返事が戻ってくる。
その思いは背後にいる【清心の祈り】――もとい【じゃしん教暗黒騎士団】の面々も同じなようで、トリスの声掛けに野太い歓声が上がった。
「あはは、喜んでもらえたなら良かった。【じゃしん教】のみんなもありがとう!」
「「「「「いあ、いあ、じゃしん!」」」」」
「これは一体にゃんにゃのにゃ……!?」
「ぎゃうっ」
それに苦笑いを返しつつ、レイが続いて【じゃしん教】の面々の方に体を向ければ、先程と同じように合唱のような大音量が返ってくる。
その勢いにニャルが気圧される中、その隣にいるじゃしんは『良い心掛けだ』とでも言わんばかりの得意顔で頷いていた。
「もちろん、ウサとシフォンもね」
「なんてことはない」
「お役に立てたようで何よりです」
最後に、ここまでの準備を済ませてくれた友人の二人に感謝を伝えれば、相変わらずの無表情と微笑みが返ってくる。
三人の中に和やかな雰囲気が流れる中、雑談を切り上げたジャックがレイへと声をかけた。
「おーい、そろそろ本当に移動するぞ」
「はーい。じゃあ皆移動するよー」
そこからさらにレイを経由して【じゃしん教】の全員へと移動する旨の指示が拡散され、大移動が始まる。
その姿はさながら大名行列。レイ達を先頭に黒い覆面軍団が続く姿は【聖ラフィア大聖堂】での出来事を彷彿とさせ、すれ違うプレイヤーが何事だと目を見開いて様子を窺ってくる。
「……居心地わるっ」
「そう?普通じゃない?」
その針の筵のような状況に、ジャックは恥ずかしそうに俯くが、対するレイは特に気にした様子もなく堂々と歩く。そんな耐性の有無が露骨に出る中、ついに目的地へと辿り着いた。
「よし、ここで待つぞ」
ジャックの声と共に、すべてのプレイヤーが動きを止める。そうして各地で再び雑談が始まる中、これまでお預けを喰らっていた視聴者からたまらず声が上がった。
・なにを?
・いい加減教えてくれ
・気になって夜しか眠れません!!!
「それは十分なんじゃ……でも百聞は一見に如かずって言うじゃん。だから――」
もう少しの辛抱と言わんばかりに説得の言葉を吐くレイ。だがその言葉は、突如暗くなった視界に遮られる。
・雨雲?
・にしては黒すぎないか?
・なんか前にもこの光景見たような……
「噂をすれば何とやら、だね」
決して、夜になったわけではない。燦然と照らしていた太陽が分厚い黒雲によって遮られ、それと同時にポツポツ振り始めた雨がレイの髪を濡らす。
突然の環境変化に視聴者が戸惑う中、レイは不敵な笑みを浮かべてジャックに声をかけた。
「さて。確認だけど、こっちは好きに動いていいんだよね?」
「あぁ、俺達の邪魔さえしなければな」
「もちろん、分かってるよ……あ、そうだ」
集中しているのか、空の一点に視線を集めて、此方を見ることなく答えるジャック。それを見てそれ以上話しかけることをやめたレイは、<アイテムポーチ>から何かを取り出してじゃしんとニャルに手渡す。
「ニャル、じゃしん。これ食べて」
「ぎゃう?」
「にゃんですかこれは?」
「【天ノ空豆】。『環境耐性ゲージ』を高めるアイテムで、ようするに食べなきゃ痛い目に合うよってこと」
それは、とあるモンスター専用の対策アイテム。レイの脅しのような説明に震えあがった二人は慌ててそれを口に含んでいく。
・『環境耐性ゲージ』?
・どっかで聞いたような……
・まさか、レイドボス?
「ふっふっふ、まぁそういう事。ワールドクエストと違って配信できるから、最後まで楽しんでってね」
・まじか!?
・おぉぉぉぉ!!!
・それならこの人数も納得かも
ここでようやく、視聴者が今回の敵を知ることとなる。にこりと笑ったレイは先の二匹と同じように【天ノ空豆】を口に含み、周囲にいるプレイヤーもまた同じようにアイテムを使用する。
「レイさん、ここは景気づけに一言お願いします~」
「え、私?」
降りかかる雨の勢いが強まる中、スラミンがふとレイに話題を振る。困惑気味に自分を指差したレイが周囲を見渡せば、何かを期待するように視線が集中していた。
決戦の時まで、もう間もなく。レイは一瞬固まりながらも、その期待に応えるように大きく息を吸う。
「えー、こほん。じゃあ一言だけ。私に遠慮する必要はないからね!誰がとっても恨みっこなしだよ!……と言っても難しいと思うから、ラストヒットした人には一つ、なんでもお願い聞いてあげるよ!じゃしんがね!」
「ぎゃうっ!?」
急にやり玉に挙がったじゃしんが、『えっ俺!?』とでも言うように勢い良くレイを向く。それを無視したレイは、【じゃしん教】の中から上がった手に反応する。
「ニャルくんでもいいですか!?」
「許可しよう!」
「にゃうっ!?」
そして、ニャルも先ほどのじゃしんと同様に『なんで!?』とでも言いたげにレイを見る。その訴えかける視線をすべて無視したレイは最後に一言、締めの言葉を大声で叫ぶ。
「じゃあみんな、楽しんでいこう!」
「「「いあ、いあ、じゃしん!」」」
「さぁ、お出ましだ……!」
活気ある大絶叫が世界に響く中、ジャックだけがただ一人黒雲の一点を鋭い視線で見つめている。その時、余韻を掻き消すかのように雷鳴が轟いた。
[TOPIC]
ITEM【天ノ空豆】
雲を貫く樹の先端に成る豆は、神すらもその極上の味に舌鼓を打つ。
効果①:状態異常【帯雷】の発生を抑制
STATE【帯雷】
効果①:必中状態
効果②:雷属性の被ダメージ増加(+1000%)




