8-25 決戦直前ダヨ!全員集合!
【レイちゃんねる】
【第三十三回 レイーズブートキャンプ十一日目】
[条件を達成しました。化身のランクが上がります]
「よし、ノルマ達成!二人とも、お疲れ様!」
・おつかれ~
・おつ~
・おつ~
ニャルの振るった刺突剣が【カゲトカゲ】の喉に突き刺さり、ポリゴンへと変える。その瞬間、レイの目の前にウィンドウが現れれば、レイと視聴者から労いの声あがった。
「ぎゃう……」
「にゃあ……」
だが、当の本人たる二人はそれに反応している余裕がないらしい。ニャルとじゃしんはくたびれた鳴き声と共に力を抜くと、背中合わせのままずるずるとその場にへたり込んだ。
・死んだ魚の目してるじゃん
・地獄だったからな……
・何故か筋トレとかさせられてたし
・よく頑張ったよ……
「そうだね……っと」
憐みの含んだ視聴者の言葉にから返事をしつつ、レイはウィンドウを操作する。しばらくしてその画面にはニャルのステータスが表示された。
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NAME ニャル・キャッド
TRIBE【神種Lv.8】
HP 800/800
MP 800/800
腕力 800
耐久 800
敏捷 800
知性 800
技量 800
信仰 800
SKILL 【じゃしん拝火】
SP
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そこに表示されたのは、十日前とは比べ物にならないくらいに上昇した数値。すべてが倍以上になったステータスに、レイは改めて満足そうな笑みを浮かべた。
「うん、これで追いついたかな。あとは謎を解明するだけっと」
・謎?
・残り二つのランクアップ条件のことだろ
・大空に目を向けろとすべてを手に入れて~のやつ
・今なら継承の儀クリアできそうじゃない?
「いや、どうやら無理だったみたいだよ。いくつか報告が上がってたけど、全部失敗だったんだって」
レイの呟いた言葉に、視聴者が目敏く反応する。投げかけられた質問に対して、コメント欄で答えられなかった片方については、あらかじめ調べていた情報を提示した。
「でも良かった、何とか間に合って。これからそれ所じゃなくなるだろうし」
・ん?どういうこと?
・それな
・行けないのが悔しいわ
・予定がなければ……
続けざまに呟いた一言は、視聴者へとさらなる謎を与える一方で、中にはその意味を正しく理解している者も一定数存在するようだった。それを見ながら薄く笑ったレイは、地面に座る二人に目を向け――そこで目を丸くする。
「……まさか、お前までついてこれるとは思わにゃかったにゃ」
「……ぎゃう、ぎゃう」
「ふっ、生意気にゃ奴め……」
「……何してんの?」
いつの間にか大の字になって地面へと寝ころんだ二人。じゃしんはともかく、ニャルが煽るような口調で話すものの、二人から険悪な雰囲気は感じ取れない。
どころか、寝転がったまま相手を認めるような笑みを浮かべあっている。そんな、なにやら熱い友情を感じる臭いやり取りに、レイは困惑しながらも、当初の目標であった仲の悪さは改善できたのだろうと、ポジティブに考えることにした。
「おーい、そろそろ時間だし移動するよ」
・ん?
・どこ行くの?
・誰かと待ち合わせ?
「うん、まぁそんな所かな。大丈夫、すぐに分かるからさ」
寝転がった二人を呼びつつ、レイはどこかに向かって歩き始める。その行く先を視聴者が訊ねれば、唇に人差し指を当てながらウインクを返してみせた。
そうして答えを濁してから数分後、前方に見えたとある人物が彼女の姿を見つければ、レイは大きく手を振ってみせる。
「お、いたいた。ちゃんと約束は守ってるみたいだね、感心感心」
その人物はいつも通りの全裸――ではなく、青と水色のグラデーションが美しい甚兵衛を身に着けていた。
以前レイに言われたことを律儀に守っているのだろう、レイがそれにしたり顔で頷いていると、件の人物――ジャックは酷く苦々しい顔を浮かべて応対する。
「……はぁ、本当に来たのか」
「なに?来ちゃ悪いの?」
「うん。来ないでくれると嬉しかったなって――って無言で脛蹴るのやめてくれる?」
正直な感想を述べたジャックの脚をガシガシと蹴るレイ。痛みはないが、ジャックの中に精神的なダメージが蓄積されていると、ジャックの傍にいた人物がレイへと声をかける。
「やぁレイちゃん。配信見たよ、ランク上げは間に合ったかい?」
「あぁ、一応は。本当にさっきのさっきですけどね」
「おぉ、おめでとう。でも凄いことだよそれは」
「10日だろ?たったそれだけでちゃんと間に合わせるなんて……やっぱゲーム上手いんだな」
「いやぁ、それほどでも」
声をかけてきたミオンとミナトは連日連夜行っていたレイの配信を視聴していたらしく、先程配信で掲げていた目標を達成したことを告げれば、心からの賞賛を送ってくれる。
それに満更でもない様子でレイが答えていれば、悲しそうに脛を擦っていたジャックがふとあることに気が付いた。
「なぁ、あの黒白コンビはいないのか?」
「あぁ、もうすぐ来ると思うよ」
「もうすぐ……?」
その言葉に、ジャックが怪訝そうに目を細めるが、レイはそれに取り合うことなくコメント欄へと目を向ける。
「というわけで、スペシャルゲストのジャック、ミオンさん、ミナトさんでーす」
・またこのメンツか
・前の配信終わりの話かな?
・結局なにするの?
・今回は配信アリ?
「あ、そうか。ねぇジャック、配信しててもいい?」
「あ、あぁ。どうせ今から来たって間に合わないだろうし」
困惑するジャックへと配信の有無を訊ねたレイは、許可を経た後再度コメント欄へと向き直る。
「ん、了解。まぁもうちょっとのお楽しみってことで」
・なんだろう?
・ワールドクエスト関連と見た
・楽しみ
まだまだ内容を引っ張るレイに対し、視聴者の期待も加速度的に上がっていく。中にはその内容を予想する者も存在し、レイがそれを楽しそうに見つめる中、そんな彼女に向けて正気に戻ったジャックが声をかけた。
「レイ、時間だ。そろそろ移動するぞ」
「あ、ごめん。ちょっと待って」
歩き出そうとしたジャック達を引き留めたレイは突如ウィンドウを開くと、何やらぼそぼそと語り掛ける。
「……うん。うん。そうそう、前いた場所……あ、見えた?了解」
「おいおい一体何だって――」
その内容を正確には聞き取れなかったが、ジャックの胸中に強烈な嫌な予感が駆け巡る。それを確かめるように、ジャックがレイに声をかけた――その時がった。
・ん?なんだあの人だかり
・こっち向かってきてない?
・あ、あれはっ!?
息を飲んだジャックの見つめる先、地平線に黒づくめの集団が現れる。数十、いや、数百にも及ぶ人の群れの中には、ウサとシフォンの姿、そして漆黒のよろいを身に纏った、元【清心の祈り】のメンバーの姿もあった。
「こ、これは……?」
「なにって助っ人だよ。好きなだけ呼んでもいいんだよね?」
「嘘……だろ……」
震える声で問いかければ、レイはしてやったりと言った様子でニヤリと笑う。そして、彼女を慕う【じゃしん教】の面々がレイ達の前に辿り着いた時、ジャックは全てを理解したのか、絶望したように膝から崩れ落ちた。
[TOPIC]
ANOTHER【※最重要※教祖による通告並びにその内容について】
敬虔なる信徒諸君に告ぐ。以下の日時にて教祖からの協力要請あり。手が空いている者、興味がある者、教祖様にすべてを捧げる覚悟のある者は参加されたし。
・日時:20XX年XX月XX日
・場所:【アーテナ―渓谷】ポータルステーション
尚、詳細については別途スラミンの限定配信にて行う。チャンネル登録をして待て。




