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8-24 化身強化計画


「……うん、申し訳ないけど言えることはないかな」


回想を終えたレイは最低限のジャックへの義理立てとして、その内容について口を噤む。対する視聴者達はお預けを食らった形となり、名残惜しそうな声を漏らした。


・えー

・気になる

・ジャックの配信行ってくるか


「そういうの禁止で。まぁどうしてもって人は【じゃしん教】に入っておくといいかもね」


・そうだぞ

・鳩行為とかマナー違反だからな

・【じゃしん教】入ります!


 ジャックに迷惑をかけようとする視聴者にも釘を刺しつつ、ぼんやりと匂わせるように誘導すれば、不満の声は残りつつも、視聴者からそれ以上追及されることはなかった。


 物わかりの良い視聴者にレイが笑顔で頷いていると、遠くにいる二人から何やら声が聞こえてくる。


「ぎゃ、ぎゃうぅ」


「……ふん、いっちょ前に疲れた振りをして。一体も倒してにゃいくせに」


 レイと視聴者がやり取りを行なっている間、地面に仰向けになって寝転び、大きく深呼吸を繰り返してたじゃしん。


『どうして俺もこんなことを……』とでも言いたげな彼から弱気とも取れる声が漏れれば、片膝をついて一足先に起き上がったニャルが嫌味をぶつける。


「ぎゃう~?ぎゃうぎゃうっ!」


「にゃんにゃ!やるかにゃ!?」


 それに引っ張られるように立ち上がったじゃしんが『やんのかコラ!』とでも言うように威嚇すると、ニャルもまた受けて立つように睨み付ける。


 目と鼻の先で睨み合う両名。少し前であればこのまま放置されていたのだが、今この場においての絶対の権限を持つ者がそれを許すはずがなかった。


「あれ、まだまだ元気そうじゃん。じゃあ続きを始めようか」


「ち、違ッ!悪かったにゃ!そんなつもりじゃにゃいんだにゃ!?」


「ぎゃ、ぎゃうぎゃう!」


「そっか。じゃあ次は【カゲトカゲ】30体倒すまでね。はい、ダッシュ」


「サ、サーイエッサーにゃ……!」


「ぎゃ、ぎゃうぁ……!」


 必死で言い訳を探す二人の声を華麗にスルーしたレイは満面の笑みを浮かべると、両手を合わせてパンッと音を鳴らす。


 それによって、背筋をこれでもかと伸ばした二人が敬礼すると、涙を流しながら駆け出していく。その姿はさながらパブロフの犬、条件反射で動いてしまう、哀れなロボットのようであった。


「ったく、隙あらば喧嘩するんだから」


・仲良しじゃん

・分かりやすくていいと思う

・ニャルはどれくらい強くなったの?


「こっちは大変だけどね。あぁ、今見せてあげるよ」


 二人がヤケクソ気味に【カゲトカゲ】に突撃していく姿を呆れた表情で見送ったレイは、コメント欄にあった要求に沿うように〈ステータス〉を開く。


=======================

NAME ニャル・キャッド

TRIBE【神種Lv.4】

HP 400/400

MP 400/400

腕力 400

耐久 400

敏捷 400

知性 400

技量 400

信仰 400

SKILL 【じゃしん拝火】

SP

=======================


 現れたウィンドウに表示されたのは、自身の化身であるニャルについての情報。それを見た視聴者は感心したようなコメントをあげた。


・もう4レべルか

・早いな

・なにクリアした?


「まぁ簡単なやつだからね。クリアしたのはすべての石碑に到達するのと、10回以上MPを0にする……あ、あとは【深淵から覗く番犬】の撃破だね」


・なるほど

・まぁ安パイだな

・今やってるのは何だっけ?


「さっきも言った通り、モンスターを1000体討伐するのとHP10000回復するっていうのを二つ並行で進めてる感じかな」


 褒め言葉に謙遜を返しつつ、レイは現在着手している項目を挙げていく。そのうえで視聴者から問われた質問に対して、顎に人差し指を当てつつ、目線を上にあげて返答する。


・なるほど

・まぁ妥当だな

・残りの条件は?


「残りは4つだね。スキルの100回使用は時間をかければ簡単だし、親愛度もまぁなんとかなるとして、問題はなぁ……」


 前半はまだ予定があるのか、ぼかしながらもスラスラと答えるレイ。だが返答の途中から言葉が濁ると、途端に頭を抱えて悩ましげな声を上げる。


「『千尋の谷へと自ら飛び込め』と『すべてを手に入れて』何ちゃらかんちゃら……だっけ。私も考えてみたけど、現状サッパリなんだよねぇ」


・なんだろう?

・むずい

・谷へと踏み入れろってことは崖から跳ぶとか?


「うーん、じゃあバンジージャンプでもしてみる?」


「にゃ、にゃふん!にゃんにゃ……?急に寒気が……」


「ぎゃう?」


 視聴者から上がった半ば冗談めかした提案にレイも同様のトーンで笑って答えれば、それを聞いたか聞かずか、ニャルのいる方角からくしゃみをするような声が聞こえる。


 そこでは戦闘を行いつつも、嫌な予感を受信したニャルが自身の肩を抱き、それをじゃしんが珍しく心配したような顔で見つめていた。


「まぁたとえそれが分かったとしても最後の一つは推測も難しそうだし、まだしばらくは猶予がありそうかな。継承の儀をクリアしたって話は聞かないし、ひとまずゆっくりランク上げするよ」


・おけ

・久しぶりにまったり配信だ

・これを待ってた


 結局レイとしては、焦らずにじっくりと進めることにしたようだった。


 若干二匹にとっては悲報と言っても差し支えのない宣言であったが、それでも視聴者のほぼすべてが肯定のコメントを流しており、レイは満足げに頷く。


「まぁとは言っても、今分かってるランク上げの方法についてはさっさと済ましておきたいかな。新情報が出た時についていけるためにね」


・なるほど

・でもこれが最速なんじゃないか?

・これが1番早いと思います


 絶賛【カゲトカゲ】との戦闘に明け暮れるじゃしんとニャルの姿を眺めつつ、レイもまた久方ぶりのまったりとした空気を楽しむ。


 そこにいる全員がしばらくはこの空気が続くのだろうと想定していたのだが、そんな想像上の平和は何とも脆く、呆気なく崩壊してしまうらしい。


・【じゃしん拝火】とHP回復同時の方が効率よくない?


「……その手があったか!おーい、ニャル~!」


それは、多くのなんてことないコメントによって流される筈であった。だが、タイミングがいいのか悪いのか、偶然レイの目に止まる。……いや、止まってしまった。


 その瞬間目の色を変え、ポンっと手のひらに拳を乗せたレイが目から鱗だと言わんばかりに溢れんばかりの笑顔を浮かべると、足早にニャルの元へと走っていく。


・あーあ

・これは……

・もしかして僕なんかやっちゃいました?


それを見送った視聴者達は、今後の展開を見据えて画面の向こうで天を仰ぐ。


その後、彼らの懸念通り哀れな化身の悲鳴が響き渡り、条件の一つである親愛度上げに酷く苦労したらしいが、それはまた別のお話。


[TOPIC]

ANOTHER【レイーズブートキャンプメニュー】

【カゲトカゲ】30体撃破⇒インターバル(1分)⇒【退魔草】摂取⇒インターバル(1分)⇒【カゲトカゲ】30体撃破⇒【じゃしん拝火】使用⇒【ポーション】摂取⇒インターバル(1分)⇒【カゲトカゲ】30体撃破⇒……以下、ランクが上がるまでループ。

※このメニューはニャル及びじゃしん両名に課す。なお、じゃしんのみ【ポーション】摂取は免除とする。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実際ポーションってどうなんだろう あ いや使用した感覚がね キモチガイイッ!って感じなのかなって じゃしんは苦行のみかなーって
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