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8-21 お祭りの予感


【レイちゃんねる】

【第二十三回 レイーズブートキャンプ一日目】


「ほら!ニャル足止まってる!じゃしんもサボるな!」


「にゃ、にゃうぁー!」


「ぎゃう〜!」


 【アーテナー渓谷】に存在するとある崖の前。見晴らしのいい少し開けたスペースを陣取るのは一人の少女と二匹のモンスター。


 腕を組んで仁王立ちする少女――レイの視線は鋭く、見るからにヘトヘトなじゃしんとニャルに喝を入れている。そして、その声に押されるようにして気合を入れ直したニャルとじゃしんは、残り一体となった【カゲトカゲ】に攻撃を与えて、見事撃破してみせた。


「――よし!じゃあちょっと休憩!ちゃんと回復薬は飲むようにね!」


 ポリゴンに変わっていくモンスターの残骸を見つめながら、レイは大きく手を鳴らして声を張り上げる。それによってモンスターと戦闘を繰り広げていたじゃしんとニャルが、脱力するようにその場に倒れ込んだ。


「にゃ、にゃあ……」


「ぎゃ、ぎゃう……」


・おつかれ

・スパルタすぎ

・これ初日ってマ?

・これなにしてますか?


 か細い鳴き声を上げる二人に、一部始終を見ていた視聴者から労いの声がかかる。そんな中、丁度今というタイミングで視聴を開始したと思しきコメントが流れ、レイがそれに答えた。


「あぁ、化身のランク上げだよ。『モンスターを1000体討伐』と『HPを10000回復』っていう条件の為に、ひたすら【カゲトカゲ】と組手してもらってる感じかな」


・非人道的……

・鬼教官すぎる

・レイちゃんって感情捨ててきたの?


 初日にしては上々の成果に対して満足げな笑みを浮かべていたレイだったが、視聴者からの責めるようなコメントに、少しだけ膨れっ面をして言葉を返す。


「失敬な。ちゃんと最低限の安全には配慮してるってば」


・最低限……

・やっぱりダメじゃん

・まぁ急ぐ理由は分かるけどな

・そういえばこの前の配信後はどうなったの?

・あ、その話聞きたかった


「え?あー、そうだなぁ……」


 そんな中、前回の配信終わりの件について言及するコメントが散見される。それを受けてレイは一人、あの後にあったことについて思い返していた――。


 ◇◆◇◆◇◆


「ねぇ、ジャック~?」


「……」


「あれ、聞こえてないの?ねぇてば」


「……」


「しょうがない。ジャックが小学生の時、近所のお姉さんに告白した話でも――」


「あぁ、もうなんだようるせぇな!?」


 足早にこの場をさろうとするジャックの背中に、さながらカモの親子のようにピッタリとつけたレイ。


 初めは無視していたものの、レイが大昔の恥ずかしい思い出話を始めようとしたため、慌てて振り向いて言葉を遮る。


「やっぱり聞こえてるじゃん。ほら、早くレイドボスについて教えてよ」


「何で教えなくちゃいけねぇんだ!自分で調べろ自分で!」


「あれは、セミの鳴き声が響く夏のことだった……当時、わんぱく真っ盛りだったジャックは、花壇で水をやる深窓の令嬢系お姉さんに一目ぼれをして――」


「おぉい!?その話はやめろ!いや、やめてくださいホントに!」


 邪険に扱おうとしてくるジャックに対して、レイは容赦なく伝家の宝刀を抜く。こうなってしまってはジャックに対抗する術はなく、苦しそうに顔を歪めていた。


「ねぇ、今更遅いってば。あんな面白そうな話を聞いて、私が今更逃すと思う?」


「ぐっ……」


「おーい、もういい加減諦めたらどうだ?」


「そうだよジャックくん。残念だけど、年貢の納め時じゃないかな」


 チェックメイトだと言わんばかりに詰め寄るレイに対し、ジャックは抵抗するように後ずさる。ただ、どう考えても趨勢は決しているようで、彼の仲間達からも勧降の声が聞こえてきた。


「……分かってますよ」


「大丈夫、レイちゃんがいたって、君の作戦が失敗するとは限らないさ。だからここはさっきの話の続きを――」


「それは絶対にしません」


 しれっと思い出話の方に興味を示すミオンへと、ジャックはしっかりNOを突きつける。それに口を尖らせて不平不満を口にし始めたミオンを無視すると、真剣な表情でレイと目線を交わせた。


「ただ約束してくれ。可能な限り協力するのと、俺達の邪魔だけは絶対にするな」


「邪魔?私がそんなことすると思う?」


「めちゃくちゃ思う」


「おい」


 至極当たり前のように頷いたジャックに、思わずツッコミを入れるレイ。だが、彼にとっては冗談などではないようで、言い聞かせるように再度条件を突きつけた。


「約束できないなら絶対に話さない。これが最大限の譲歩だ」


「……邪魔の定義は?どこから?」


「三人で倒す算段がある。それの邪魔だけはしないでくれ。それ以外は好きにしていいから」


 その言葉に、少し考え込むレイ。何をしようとしているか分からない以上、これといった決め手にもかけるため、探るように意地悪な問答をふっかけた。


「算段ねぇ。私がいても問題ないの?」


「あぁ。そもそもレイドボス戦を三人でこなせると思ってるほど驕り高ぶっちゃいない。ある程度は人数もあったほうがいいしな」


「じゃあ仮に、その作戦とやらの前に私達で倒しちゃえそうだったら?待ったほうがいいの?」


「その場合は遠慮なく倒していい。まぁ、できるもんならな」


「へぇ、そんな大口叩いていいんだ。たくさん助っ人連れてくるよ?」


「待て。たくさんってどれくらいだ?」


 多少の難色は示しつつも、大まかには寛容な態度を見せるジャック。その姿がますます気になったのか、レイは好奇心を満たすために提案を受け入れることに決めた。


「まぁいいよ。その話で乗ってあげる」


「……本気か?」


「本気本気。邪魔しなければいいんでしょ?大丈夫、絶対に邪魔しないから!」


「ごめん、やっぱナシ!無理無理お前信用できないもん!」


 だがどこか深みを持たせる態度にジャックは早くも後悔するのだった。



[TOPIC]

ANOTHER【ジャックの初恋】

通学路にて毎日見かける大学生のお姉さん。黒髪ロングで儚げな、大和撫子を体現したような姿に一目惚れした当時小学生のジャックは、道端で拾ったタンポポを片手に、意を決して告白を試みる。困ったように笑いながらもその花を受け取ったお姉さんにジャックは目を輝かせたが、それと同時に彼女の家から現れた金髪ピアスのイケメンが親し気に彼女の腰を抱き、彼女も満更でもなさそうな表情をしたため、全速力で家へと帰り、大量の涙で枕を濡らす事となった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 憐れジャック いいぞもっとやれ(無慈悲 [気になる点] 自分の軍隊(クランメンバー)いるし分隊(シフォンの元クラン)いるしなぁ・・・ 文字通りのフルメンバーでフルボッコしそう
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