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8-20 不審者を問い詰めて

 

「いつつ……一体何だってんだ――げっレイ!?」


「こんな所で何してるんですかぁ、ジャックさん?」


 レイの蹴りによって、勢いよく吹き飛んだジャックは、ごろごろと地面を転がる。なんとか静止した後、突然の襲撃に苛立たしげに顔を上げれば、満面の笑みを浮かべる従姉妹の姿を見て顔を歪ませた。


・どういう関係?

・従兄妹なんだって

・確かに、レイちゃんと同じ匂いするかも


「な、なんでお前がここに――」


「ねぇ、その格好辞めてって言ったよね?」


 会話するつもりがないのか、言葉を被せて圧をかけてくるレイ。長年の付き合いもあるのだろう、それだけでレイの機嫌がすこぶる悪いことを感じ取ったジャックはなんとか怒らせないように下手に出ながら調子を窺う。


「い、いやそんなこと言われても。ちゃんとこう言う装備が存在するんだからおかしくはないだろ?」


「やめてって言ったよね?」


「あ、あのレイさんちょっと?」


「今すぐやめて」


 だが、致命的なまでにタイミングが悪かったようで、説得の言葉を悉く潰されたジャックは困ったように頭をかく。


「でもこれでバズったわけだし、今更やめるのも……」


「もういい。じゃあおばさんに報告するから」


「ちょ、それは関係ないだろ!?分かった!やめる!やめるから!」


 そして切られる伝家の宝刀。それを聞いた瞬間に分かりやすく取り乱したジャックは、すぐさま〈アイテムポーチ〉から青と水色のグラデーションが綺麗な甚平を装備する。


「ほら、これでいいか?」


「……うん、少なくとも私の前ではずっとそれでいてね」


「はいはい」


 ギリギリのところでレイの機嫌を保ったジャックは疲れながらもほっとしたように胸を撫で下ろす。そこへ、入れ替わるようにして背後にいた女性がレイへと声をかけた。


「相変わらずだのようだね、レイちゃん。あんまりジャックのことを困らせないでやってほしいな」


「あ、ミオンさん。ご無沙汰してます」


「そんな他人行儀な。お姉ちゃんと呼んでくれてもいいんだよ?」


「いや、それはちょっと……」


 相変わらずマイペースで頓珍漢なことを宣うミオンの姿に、図らずしも少し落ち着けたレイは、さらにその奥に見知った顔があることに気がつく。


「あれ、ミナトさんも?」


「おう、久しぶりだな。後ろの二人も」


「久しぶり」


「えぇ、お久しぶりです」


 それは『欲望渦巻く街』で随分とお世話になったプレイヤーの一人。レイやウサだけでなく、シフォンとも面識があるようで、レイは意外そうに訊ねる。


「あれ、二人は知り合いなの?」


「まぁな。二人とも『八傑同盟』だったんだよ」


「決起集会の時にお話をさせていただいたんです」


「あぁ、なるほど」


 その説明に、レイは納得の声を漏らす。言われてみれば確かに、かつてレイの前に立ちはだかった組織に二人の姿があったのを思い出した。


 そんな中、ふと視線を彷徨わせたミナトがニャルの姿を見つける。


「お、この猫がお前の化身か?また珍妙な見た目をしてる――」


「にゃんだと?私を愚弄する気かこの無礼者」


「わぉ、喋りもすんのか……相変わらずとんでもねぇな……」


「お恥ずかしい限りで……。ミナトさん達の化身は?」


 まさか怒声を浴びせられると思わなかったミナトは顔を引き攣らせながら少したじろぐ。それにレイは申し訳なさそうに頭を下げた後、今度は彼らの周囲を見渡して問いかけた。


「あー、俺らは召喚してないんだよ」


「え?どういうこと?」


「お、おい!」


 返ってきた答えにレイが首を傾げて再度訊ねると、何故か慌てた様子のジャックが会話に割り込んでする。


「ほ、ほら!今からやりに行こうかって話をしてたんだよな!な!」


「え?あ、あぁ」


「ふふっ、そうだね」


「……怪しい」


 いまいち理解できていないミナトの生返事に、全てを分かった上でくすくすと笑いながら肯定するミオン。


 そのすべてに不信感を抱いたレイは、少し目を細めて問い詰めるようにジャックをじっと見つめる。


「ねぇジャック。ここで何してたの?」


「い、いや別に?ただ散策してただけだけど?」


「こんな何もない所を?下層には行かないの?」


「今のところ行く予定はない――ってなに?尋問されてる?」


 レイの詰問にジャックは冷や汗を垂らしながらこれでもかと目を泳がせ、どうにか話を逸らそうと戯けてみせる。


 そんな態度をますます怪しく思ったのか、レイはさらに顔を寄せ、絶対に逃さないよう目線を合わせた。


「ワールドクエストなんていう目の前の一大イベントを無視するなんて、ジャックらしくなさすぎる。それにこのメンツ……なにを隠してるの?」


「べ、別に何も――」


「鼻が動いてる。嘘つくときの癖が出てるよ」


・異議あり!が決まっていくぅ!

・これは決定的ですね

・観念してお縄につくんだな!


 身内にしか分からない癖を指摘され、ついにジャックは閉口する。その表情は露骨に歪んでおり、レイはもう一押しだと確信した。


「ねぇ、早く教えてよ」


「………………」


「いいんじゃないか、教えても?」


「うんうん、こうなった以上、仲間に引き込んだ方が楽だと思うよ」


「ぐぐぐぐぐ……!」


 その上、味方であるはずの二人からも背中を押されてしまい、ジャックは苦しげな表情で声にならない唸り声をあげる。だが、それでも状況は変わらないと悟ったのか、疲れたようにため息をこぼしてレイの目を見つめた。


「……はぁ、分かった。その代わり、配信をきってくれ。それが出来ないなら――」


「はい、切ったよ。それで?」


 その言葉を聞いた瞬間、目にも留まらぬ速さでメニュー画面を開いて配信を終了したレイ。そのまま目を輝かせながらジャックの言葉の続きを待つ。


「はぁ、本当は教えたくないんだが……」


 あまりの潔さに唖然としたジャックだったが、ささやかな抵抗もあっさりと返されてしまったことで、覚悟を決めたようにレイの目を見つめ返し、ついに本題へと触れる。


「二週間後、ここにあるモンスターが現れる。その下見に来てたんだ」


「あるモンスター?」


「【雷霆公主シャクラ】。『災害級の支配者達』イベントのレイドボスモンスターだよ」



[TOPIC]

WORD【災害級の支配者達】

20XX年11月下旬に発表されたイベント。『ToY』としては初の大型アップデートとして大々的に宣伝され、『レイドボスモンスターの追加』、『称号の追加』、『スキルの調整』など、その名に恥じないボリュームであった。しかし、数か月経った現在ではそれを話題にするものはほとんどおらず、レイドボスモンスターでさえも半ば忘れられた存在と化している。

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