表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
362/399

8-13 蝉のち爆撃な空模様


「ニャル!後ろ!」


「承知!」


 迫りくるモンスターの群れを、レイとニャルは卓越したコンビネーションで薙ぎ倒す。


 イモムシのような白色の体にキャタピラーを付けた【キャタピラワーム】と呼ばれるモンスターを、前衛を務めるニャルが蹴り上げると、宙に舞った【キャタピラワーム】をレイが打ち抜いていく。


「ぎゃう……」


 その熟練さを感じさせる息の合った連携はじゃしんを嫉妬させるには十分だったようで、少し離れた場所から羨ましそうに見つめていた。

 


・完全にいじけてるな

・元気出せよ

・じゃしんにはじゃしんの良い所があるって


「そう。じゃしんはやればできる子」


「ぎゃう……?」


・え?

・それは……なぁ?

・ちょっと考えるから待って


「……大丈夫、いっぱいある」


「ぎゃう~!!!」


 そこへウサと視聴者からフォローが入るも、『たとえば?』と問いただしたことで、途端にしどろもどろになる。その態度にじゃしんは両腕を上げて怒りを露わすと、『なんでやねん!』とでも言うように地団駄を踏んだ。


「いやぁ、捗る捗る!レベリングがこんなにも気持ちが良いものだとは!」


「ご主人に喜んでいただけて嬉しいですにゃ!」


 一方で、肩慣らしとでもいわんばかりに容易く【キャタピラワーム】の群れを片付けた二人。かつてないほど順調にレベリングを行えていることに満面の笑みを浮かべたレイに向けて、近寄ってきたニャルが胸を張る。


「さてご主人。これで私の方が有能だと分かったもらえましたかにゃ?」


「ぎゃうぅ……!」


 言葉はレイに対してだが、視線はじゃしんに向けて告げるニャル。それを見て悔しそうに歯噛みするじゃしんに満足げに鼻を鳴らすと、今度はゴマをするようにレイへとすり寄った。


「じゃあそろそろ休憩でも……」


「そうだね!じゃあこのまま朝までレベリングね!」


「え?」


 疲労困憊のニャルが放った渾身のおねだりだったが、帰ってきた言葉は『きょうじん』らしいとんでもないモノ。それに呆けた顔をしたニャルは引き攣った笑みで問い返す。


「いやいや、それはいくらにゃんでも……」


「なに?ダメージ負ってないんだし余裕だよね?」


「いやぁ……にゃはは……」


・あっちはあっちで大変そうだぞ

・まぁそうなるだろうよ

・逆に良かったんじゃ?


「ぎゃう……」


 だが、レイにとってそれは冗談などではない。本気度を感じ取ったニャルは乾いた笑みを浮かべ、じゃしんは視聴者に諭されながらも『よかったのか……?』と複雑な表情を浮かべていた。


「お姉様、少しよろしいですか?」


「どうしたの?」


 『早く続きを』とニャルに向けて無駄なプレッシャーをかけるレイ。そんな彼女へとシフォンが心配そうに声をかける。


「化身のレベルアップの仕様についてはご存じですか?」


「え?普通にモンスターを倒すんじゃないの?」


「他のプレイヤーの方に聞いてみたのですが、どうやらそれだけではないみたいです」


 それは化身のレベルに関すること。レイとしてはいつも通り、モンスターを狩り続けるだけだと思っていたが、シフォンは静かに首を振る。


 どうやらレイが【キャタピラワーム】と戦っている間に他のプレイヤーへと情報収集を行なっていたらしく、そこで得た成果を口にする。


「化身レベル……正確にはランクと言うらしいですが、こちらは経験値ではなく条件を満たすことで上がっていくようです。ステータスに経験値がなかったでしょう?」


「……確かに、経験値は私とじゃしんの二人で割り振られてるっぽいね」


 シフォンの言葉に改めて〈ステータス〉を開けば、ニャルの項目に経験値の欄はなく、一連の戦闘で得た経験値はすべてレイとじゃしんに割り振られているようだった。


「ってなると、色んな条件をクリアする必要があるのか……ヘイ、リスナー。今わかっている条件は?」


・すみません。聞き取れませんでした。

・今日の天気は晴れです。

・遺跡を巡ると分かるんだって


「なるほど、じゃあヒント探しには早めに行った方がいいのかな」


 自分から振っておいたにも関わらず、視聴者の小ボケをスルーしたレイは今後の方針について少し考えた素振りをみせる。


「と、という事はいったん休憩ですかにゃ?」


「いや、後回しにしようかな。私もレベリングしたいし」


「……そうですかにゃ」


 それに希望を持ったのか恐る恐る訊ねたニャルだったが、実利をとったレイの言葉にガッカリと項垂れる。


 だがそれも一瞬。レイとニャルはその耳に届いた音に勢いよく顔を上げた。


「ッ、ご主人!」


「分かってる。何か来るよ!」


・あっ!あれは何だっ!

・鳥だ!

・飛行機だ!

・UFOだ!

・いや、セミだ!?


 やけにノリのいい視聴者が指す通り、地鳴りのような爆音と共に現れたのは2メートルは超えるだろう巨大な銀色の蝉だった。


 五体で一個小隊、それが五組。それこそ戦闘機のようなどこかメタリックな雰囲気を纏うそのモンスターは、戦闘機のような爆音を響かせて真っ直ぐにレイ達の上空へと訪れると、腹部から赤色の何かを投下する。


「ぎゃうぁっ!?」


「ご主人っ!あぶにゃいにゃ!」


「なにこの弾幕ッ、数が多すぎる……!」


 慌てて飛び退いたレイ達がいた場所へと落下したのは、髑髏のマークが描かれた爆弾。着弾と同時に爆炎を巻き起こすそれを見て、レイはもし留まっていたらと考えてゾッする。


 ただ、思考と足を止めるわけにはいかない。降り注ぐ爆撃は未だ止むことはなく、むしろ逃げる彼女達を追いかけるように旋回してくるため、立ち止まった瞬間に蜂の巣にされることが分かり切っていた。


「お姉様!どうしますか!」


「このままだとまずい」


「分かってるけど……!」


 突如訪れたピンチに焦りを募らせるプレイヤー達。必死で足を動かしながらもできることを探す中、やられっぱなしの状況に痺れを切らす者が現れる。


「にゃんとかやり返さねば……おい、ぽんこつ!力を貸すにゃ!」


「ぎゃうっ!?」


 突如じゃしんの尻尾を掴んで振り返ったニャルは、勇ましく声高らかに叫びながらその背中に飛び乗る。


「さぁ飛べ!近付きさえすれば私が全員屠ってやるにゃ!」


「ぎゃ、ぎゃうぅ……!」


 だが彼らの間に、突貫で考えた作戦がうまく行くほど信頼関係があるわけではなかった。


 渋々ながらも頑張って浮こうとしているじゃしんだったが、背中にニャルが乗っているせいでうまくバランスが取れず、ふらふらと空中を蛇行する。


「おい、真っすぐ飛ぶにゃ!そっちじゃにゃっ!?」


「ぎゃうっ!?」


 当然そんな状態では思う通りに動けるはずもなく、むしろ余計なことをしたせいで爆風に巻き込まれて地面へと不時着する。


「じゃしん!ニャル!」


 その瞬間、レイ達を追いかけていたはずのセミ達が一斉に進路を変える。向かう先はもちろん、地面に転ぶニャルとじゃしんの元。


 それを見たレイが急ブレーキをかけ、即座に銃を引き抜く。間に合うかは紙一重、だがそんなことを言ってられる状況でもない。一か八か、最強スキルを発動しようとした、その時だった。


「【ソーラーレイジ】!」


 蝉の艦隊よりもさらに上空より、一筋の光が降り注ぐ。その閃光は、蝉の艦隊の一部を覆いつくすと、いとも簡単に葬り去る。


「ごめん、助太刀させてもらうよ!」


「イ、イッカクさん!?」


 やがて光が晴れ、じゃしん達を庇うように立ち塞がったのは、一人のプレイヤー。


白銀の龍に跨った騎士は弱者を守るように立ち塞がり、それに呼応するように大きな咆哮が鳴り響いた。


[TOPIC]

MONSTER【キャタピラワーム】

地面を這う幼虫は、大いなる空を夢見て荒野を駆ける。

昆虫種/爆撃虫系統。固有スキル【砲撃】。


≪進化経路≫

<★>キャタピラワーム

<★★>クラッシュローラー

<★★★>タンクラバーズ

<★★★★>CKダイバー

<★★★★★>ファントム・ホーネット

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ