8-12 その実力や如何に
・そういえばさ、化身って強いの?
・たしかに気になる
・レイちゃん、ステータスって見れない?
「えっ、化身の?あー、どうだろう」
人気のない場所へと向かうレイ一行。その中で視聴者から上がった質問に同じ疑問を抱いたレイは、すぐさま〈ステータス〉を確認する。
「えーっと……あ、あった」
〈ステータス〉を確認すれば、そこにはレイとじゃしんの他に、『化身』と言う項目が追加されていた。
すぐさまそれを開けば、彼女の目の前にウィンドウが出現し、そこにニャルのステータスが表示される。
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NAME ニャル・キャッド
TRIBE【神種Lv.1】
HP 100/100
MP 100/100
腕力 100
耐久 100
敏捷 100
知性 100
技量 100
信仰 100
SKILL
SP
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・え、強くね?
・レベル1でこれなら全然戦えるな
・というかレイちゃんより強いんじゃ……
「うるさいな。その通りだけど」
スキルはないものの、ステータスだけ見ればレベル1にしては破格の性能をしている。じゃしんのようなデメリットもないため、これは戦力になるとレイが頷いていると、当の本人であるニャルが意気揚々と宣言する。
「お任せくださいご御主人!このニャルが立ち塞がる敵をにゃぎ倒して見せますにゃ!」
「ぎゃ、ぎゃう……」
頭に大きなたんこぶを作ったニャルが刺突剣を掲げて高らかに叫ぶ。その隣では同じようにたんこぶを作ったじゃしんが、悔しそうに歯噛みしていた。
「悪いが、お前の出番はにゃいぞ?まぁ安心していい。ついでに守ってやるにゃ」
「ぎゃう~!?」
「あーもう喧嘩しないの――っと、お出ましだね」
そしてまたニャルが喧嘩をふっかけ、それをじゃしんが買おうとする。
もはやお約束となりつつある流れを、二人を引き離すことで止めたレイは目の前に現れたモンスターに目を細めた。
・なにあれ
・【カゲトカゲ】だな
・地味に強い奴
それは平べったい、黒いトカゲの形をしたモンスター。厚さは靴のインソールくらいしかなく、大きさもそこまで。ただ、怪しく光赤い瞳が言いようのない不気味さを醸し出していた。
「じゃあニャル、あれと戦ってくれる?危なくなったら援護するからさ」
「ふっ、その必要はにゃいですにゃ!」
レイの指示に従って、一切の躊躇なく飛び込んでいくニャル。そのまま刺突剣を【カゲトカゲ】に突き刺すと、キィン!と硬いものに弾かれる。
「にゃにっ!?」
「ぎゃう〜?」
想像と違った手応えに瞠目したニャルは、慌てて距離を取って様子を伺う。そんな姿にじゃしんは『おいどうした〜?』とでも言うように笑顔でヤジを飛ばしていた、
「ちょっと、仲間だってば。……ニャル!そいつ地面に潜るから!」
「地面に潜る……にゃるほど」
レイの助言を聞き、ニャルが改めて【カゲトカゲ】を見れば、ただでさえ薄かった身体は地面と同化し、影のように地面と同化しているようだった。
「あの状態は攻撃が効かにゃい……にゃら――」
・うぇっ!?
・大丈夫?
・おいおい、死んだわアイツ
ぶつぶつと呟きつつ、やがて作戦を決めたニャルは突然構えを解くと、無抵抗で歩き始める。
そのことに視聴者が驚きの声を上げる中、レイだけは口の端を歪めて笑う。
「このビビり野郎。さっさとかかってくるにゃ」
【カゲトカゲ】の目の前に立ったニャルは、不敵に笑って挑発する。その強気な態度が気に障ったのか、地面から飛び出した【カゲトカゲ】は棒立ち状態のニャルに向けて肉薄し――。
「ふんっ、甘いにゃ」
それを読み切ったニャルの刺突剣が、寸分の狂いなく【カゲトカゲ】の顔面を捉える。そのまま飛び込んできた勢いによって頭から尻まで串刺しになった【カゲトカゲ】はあっけなくポリゴンとなって消えていった。
・やるぅ!
・クレバーだな
・え?強くね?
「うん、また一人でレベリングしなきゃと思ってたけど、これならある程度任せても大丈夫そうだね」
ニャルの性能を把握したレイは、そのステータス以上の有能さを理解して満足げに頷く。ただ、それを面白く思わない存在もその場にいるようだった。
「ぎゃう~~~ッ!」
「にゃ?」
「えっ、ちょっとじゃしん!?」
ぷくーっとふくれっ面をしたじゃしんは、『俺だって!』とでも言うように咆哮を上げると、ニャルを押しのけて前に出る。
そして新しく出現した【カゲトカゲ】と対面すると、真剣な表情で睨みつけて腰を落とした。
「ぎゃう……!」
そのまま両腕を前に突き出して、じりじりと距離を詰めるじゃしん。先ほどのニャルとは違い洗練のかけらもない動きだったが、当の本人は気付かない。
ただその集中力には目を見張るものがあったようで、一定の距離まで近づいたじゃしんに向けて【カゲトカゲ】が飛び込むと、それをギリギリで躱して身体を掴む。
「ぎゃうっ!ぎゃーう!」
「えぇと……【じゃしん拝火】!」
全身を使って暴れる【カゲトカゲ】を抑え込むじゃしんは、レイに向けて何かを要求するように叫ぶ。それを受けてレイはしばし悩んだ後、唯一の攻撃手段であるスキルの名を口にする。
「ぎゃっ!?ぎゃ、ぎゃうぎゃう!」
ここまではじゃしんの想定通り。だが、すべてが思惑通りに進むには、残念ながら少し時間が足りなかったらしい。
スキル発動のすんでの所で腕から逃れた【カゲトカゲ】は、燃え盛るじゃしんを嘲笑うかのように地面に溶け込んでいく。
それに対して『逃げるな卑怯者!』とでも言うように喚くじゃしんだったが、次第に熱くなる全身にその余裕もなくなっていき、ついには走り回るしかなくなってしまった。
「ぎゃ~う~!」
・知ってた
・このよわよわマスコットは……
・親の顔より見た光景
・なんか【カゲトカゲ】集まってね?
・モンスタートレインじゃん
好き勝手に動き回ることで、周囲に散らばっていた【カゲトカゲ】が集まってきていた。
相変わらずの情けない姿に視聴者が呆れのコメントを残す中、それを見かねた三人が動く。
「コハク、出番です」
「ユエ、頑張って」
「はぁ、ニャルよろしく」
「ふん、世話が焼けるにゃ」
指示に従って、三匹の化身が集まってきた【カゲトカゲ】の群れに飛び込むと、カウンターの要領で一匹ずつ処理していく。
・おぉ、余裕だな
・やっぱニャル強いわ
・他の化身も悪くないな
「だね。これは信頼できるかも」
その危なげのなさに感心したような声を漏らすレイ。そこへ【じゃしん拝火】の効果がきれたじゃしんと、すべての【カゲトカゲ】を撃破した化身達が帰ってくる。
「ぎゃ、ぎゃう……」
「ふっ、怪我はにゃいか?」
「お疲れ様。ニャル、やるじゃん」
「ありがたきお言葉。ただ、彼女達のお陰もあるにゃ」
レイに褒められ、両手に花の状態で格好をつけるニャル。それを地面に這いつくばり、羨ましそうに目を細めるじゃしん。
「「みゃお」」
「にゃにゃ、くすぐったいから離れてくれないか。いやはや、困ったものだ」
・モテモテだな
・化身界の中ではイケメンなのでは?
・まぁなんとなく気持ちは分かる
「ぎゃ……」
しかも二匹の猫は好意を示すようにニャルの両頬を舐めており、その圧倒的勝ち組のオーラにじゃしんは顔を顰める。
「いやぁ、これからレベル上げが捗るなぁ。ちょっと本当に嬉しいかも」
「えぇ、遠慮にゃくお申し付けくださいにゃ」
「ぎゃ……ぎゃ……」
さらには、一番の眷属であるレイの一言。心底嬉しそうな言葉にじゃしんは絶望したように目を見開いて――。
「ふっ」
「――ぎゃ、ぎゃう~~~~~!!!!!」
とどめは、ニャルによる憐みの視線。これ以上ない苦汁を舐めさせられ、じゃしんはこの時初めて、悔しさのあまり男泣きをするのであった。
[TOPIC]
MONSTER【カゲトカゲ】
地を這う日陰者は見えぬところで牙を研ぐ。数え切れぬ、太古の昔から。
爬虫類種/影竜系統。固有スキル【遊影】。
≪進化経路≫
<★>ブラックマイト
<★★>カゲトカゲ
<★★★>ダークゲーター
<★★★★>シャドウラプター
<★★★★★>恐黒暴竜




