8-8 確率操作?いいえ、不慮の事故です
しばらく歩いたレイ一行が辿り着いたのは、多くのテントが張られた河原だった。
「おぉ、何だか小学生の頃を思い出すな。懐かしい気分」
「ぎゃう~!」
穏やかな流れの渓流の傍に沿うように設置された、多種多様な色のテント。それを見たレイと視聴者がどこかノスタルジーな感情を抱く中、じゃしんは街中とはまた違う楽しげな雰囲気を感じ取って目を輝かせていた。
「ぎゃう?ぎゃう?」
「……まぁいいけど。あんまり遠くに行かないようにね」
「ぎゃうっ!」
『行ってもいい?』と確認を取るようにチラチラと見てくるじゃしんに、半ば諦め気味のレイが背中を押せば、じゃしんは更に顔を輝かせて綺麗な小川へと一目散に向かっていく。
それを嘆息しながら見送りつつ、レイが本来の目的を達するために改めて周囲を窺えば、ガヤガヤと人混みになっている個所を発見する。
「お、あそこかな?よし、早速――」
「その必要はない」
どうやらそこは仮の宿屋として機能するテント型のアイテムをレンタルできる場所のようだった。
一部の商人がそれで商売をしているのだろう、良い目の付け所だと感心しつつレイが歩き出そうとすれば、その肩をウサが止める。
「え?どういう……ってそっか、そういえばウサは持ってるのか」
「ぶい」
以前似たようなアイテムを借りたことを思い出したレイが納得したように手を打てば、ウサはピースのポーズをした後、<アイテムポーチ>から【カプセルINN『贅沢グランピングセット』】を取り出してレイとシフォンへと手渡す。
「私もいいんですか?」
「そんな意地悪しない」
「ふふっ、ありがとうございます」
多少つっけんどんな態度をみせながらも歩み寄る姿勢のウサに、それを薄く笑いつつも感謝の言葉を返すシフォン。
そんな二人の様子になんだかんだ仲良くなりそうな予感を感じ取ったレイは敢えて言葉をかけることなく受け取ったアイテムを使用する。
「よいしょっと。うーん、どうしようかなぁ」
ぼふんっと煙を上げながら現れた、周囲よりも一回り大きなテント。その中に入りベッドの上でリスポーン地点を設置した後、アイテム整理のために収納箱へと向き合う。
「意外といらないものはたくさんある。それを小分けにするか、いっそのこと全部入れちゃうか……」
一人うんうんと唸りつつ、手持ちの選別を行っていくレイ。たっぷり時間を使いながら悩みに悩みながら作業を進めていく。
「ぎゃう!ぎゃう?」
「あ、おかえり」
その途中、体の濡れたじゃしんが満面の笑みでテントの中へ入ってくる。存分に楽しんできたのだろう、少し疲れた様子でレイの隣に座ると、『なにやってんだ?』とでもいうように作業を興味深そうに眺め始める。
「これはいらない」
「ぎゃう」
「これもいらない」
「ぎゃう」
「これは……ねぇ、なにしてるの?」
「ぎゃ、ぎゃう~」
レイがいらないものを地面に置き、必要なものを収納箱へと戻していると、じゃしんが地面に置かれたアイテムから気に入ったものを自身の後ろへと隠す。
それを指摘すれば、じゃしんは『な、なんのことやら?』とへたくそな口笛を吹き始め、レイは若干イラつきつつも、ふと思い出したことをじゃしんに訊ねた。
「そういえばじゃしんって、なんか装備してたよね?」
「ぎゃう?ぎゃう!」
一瞬首を傾げたじゃしんだったが、その質問の意図を理解したのか腰の辺りをごそごそと触り始めると、樹の棒と羽ペンを両手に持つ。
使う場面はほとんどないものの、それは彼にとって宝物と言える装備。それを自慢するように得意げに掲げれば、レイはさも当たり前と言わんばかりに手を伸ばす。
「それ使ってないでしょ?処分するから返して」
「……ぎゃうっ!」
「あ、ちょっと!」
その言葉を聞いた瞬間、笑顔のまま固まったじゃしんは先程ひっそりと回収したアイテムを腕一杯に抱えながらテントを飛び出していく。
慌ててレイが声をかけるも、止まる様子はない。面倒そうに嘆息したレイはひとまずアイテム整理を続行し、収納箱の中が今後使う可能性がありそうなモノだけの状態になったのを確認してテントの外に出る。
「あ、待たせちゃった?ごめんね」
「大丈夫」
「私達も今来たところです」
外には既にウサとシフォンが待っており、軽く頭を下げたレイに声をかけつつ、ちらりと上空に目を向ける。
「あれはいいんですか?」
「じゃしんと喧嘩した?」
「あー、大丈夫。いつものことだから。それよりも早く行こう」
そこには両手いっぱいにアイテムを抱えたじゃしんがふくれっ面でこちらを睨みつけており、レイはそれを確認して再度ため息を零して歩き始める。
そうして軽く談笑を挟みつつ、数分しない内に先ほどの巨大な猫の石像がある契約の儀の場所へと戻ってくるレイとウサとシフォン、それから少し離れたところにじゃしん。
「誰から回す?」
「それはもちろん、お姉様からでしょう」
「え、私?まぁいいけど」
列に並びつつ、三人の中で順番を決めている中、彼女達の耳に軽快な音が響く。
てれれれってれれてってて~ん!
「やった、Sレアだ!」
「なるほど、今のがSレアの音なんだ」
「みたい」
「お姉様はこういうシステムは肯定派ですか?」
「ガチャのこと?まぁ嫌いじゃないけど、お金払ってまではやりたくない、かな」
「分かります。でも、私は好きなキャラなら集めちゃいますね」
「私も。気付いたら課金してる」
三人寄れば何とやら、友人と楽しく歓談していれば、長蛇だったはずの列もあっという間に進んでいく。そうして体感数分ほどで、レイ達の順番が回ってきた。
「私からだっけ。よし、入れるよ」
最初に決めていた通り、一歩前に躍り出たレイは<アイテムポーチ>の中にあるアイテムをすべて尻尾の先端にある穴へと投入していく。
「あとは……おーいじゃしん!」
「ぎゃう……?」
あとはハンドルを回せば抽選が開始される、そのタイミングで未だふてくされている相棒の名前を呼ぶ。
「ほら回さなくてもいいの?楽しいよ?」
「ぎゃ、ぎゃう……!?」
おそらく、罠――。
じゃしんの脳裏にはどうしてもその言葉が浮かんでくる。だがそれは、抗うことの難しい魅惑の提案。
「どうしよっかな~回しちゃおっかな~もう我慢できないな~」
「ぎゃ、ぎゃうっ!」
しかも追い打ちをかけるようにレイはわざとらしく声をあげながらハンドルへと手を伸ばしており、考える余裕のなくなったじゃしんは、さながら誘蛾灯に集まる虫のようにレイの元へと飛び込んでいく。
「はい、捕まえた。ほらアイテム出しなさい!」
「ぎゃう~!」
当然それを見越していたレイはまんまとやってきたじゃしんを捕まえて、零れ落ちたアイテムを投入口へと放り込む。
だが、じゃしんも黙っているわけにはいかない。せめて宝物の【世界樹の杖】と【魔法の羽ペン】だけは守り抜こうと、必死で身を捩り――。
「ぎゃーうー!」
「こら、暴れるな――あ」
するりと、レイの腕から抜け出して――。
「ぎゃう?」
――大事そうに宝物を抱きしめながら、じゃしんごと投入口へと吸い込まれていった。
「え……?あれ、ちょどうなるのこれ!?じゃしん、聞こえる!?」
あまりにも突拍子のない何が起きたか分からず固まってしまったレイだったが、慌てて投入口をのぞき込んで手を伸ばす……も、何か掴めるどころか声すら聞こえない。
てれれてっててててててててててててててててててて――
「えっ!?何で勝手に回って……本当に大丈夫これ!?」
しかも手動で回さなければ動かない筈のハンドルが勝手に動き始め、本格的に収拾がつかなくなる。
完全にパニック状態に陥ったレイにできることは、もはや祈ることしかない。そう考えても普通でない、どこかバグったような音を奏でつつ起動する石像を凝視すれば――。
「ぎゃうっ」
やがて排出口から目を回したじゃしんが、宝物の代わりに赤い卵を抱えて転がり落ちてくるのだった。
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