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8-1 好かれるのも楽じゃない

お久しぶりです。

これからしばらく毎日投稿(予定)ですので、またゆるりとお付き合いよろしくお願いします。


【れいちゃんねる】

【第21回 次は何をしようか】


 【リヨッカ】での宗教戦争が無事終幕し、少しの休息を挟んだ今日この頃。レイは今日も今日とて、いつも通り配信を行っていた。


「――じゃ、戦利品でも確認しますか!」


・いえーい!

・待ってました

・え?後ろはほっといていいの……?


「ぎゃう……」


 彼女がいるのは戦争跡地とも呼べる【ラフィア大聖堂】内。ただし復旧はすんだのか、建物内は傷一つない状態であり、ここだけ見れば先日のワールドクエストが夢だったのではないかと思うほど。


 そんな中、やけにテンションの高いレイが宣言すれば、それを待ち望んでいた一部の視聴者が盛り上がりを見せる。……ただし、その中にはちらちらと背後の様子を窺っているじゃしんの気持ちを代弁するかのようなコメントも混じっていた。


「まずはこれ!【白蛇の抜け殻】!」


 それを知ってか知らずかレイは特に言及することなく、〈アイテムポーチ〉から戦利品を取り出すと、その詳細を確認する。


ITEM【白蛇の抜け殻】

神聖な白蛇は選ばれし者の前にのみ姿を現し、幸運を分け与える。

効果①:モンスターからのドロップ率増加(※効果は重複しない)


「ドロップ率が増加……これ〈アイテムポーチ〉にいれておくだけでいいのかな?」


・そうだと思う

・なんか似た効果の奴なかった?攻撃上げるの

・【鬼神のお守り】とかそういう系だな


 手にしたのは透明な薄い革のようなモノ。光にかざせばキラキラと反射し、よくよく観察してみれば蛇の形をしているようにも見える。


 レイはその効果を確認して考えるように顎に手を当てた後、笑みを浮かべて満足気に頷く。どうやら有用なアイテムだと認識したらしい、ほくほくした顔で次のアイテムの確認に移ろうとして――。

 

「だから言ってるではないですか。私の方がお姉様に相応しいと」


「寝言は寝ているときに言うべき」


 背後から聞こえてきた冷静なのに圧のある言葉に、レイはピシリと固まる。


 そのまま油の差していない機械のような固い動きでゆっくりと振り返れば、そこには向かい合って立つ二人の少女の姿。


「私の方が付き合いは長い。それこそ、初配信から見てる」


「それは今までご苦労様でした。これからは私がお姉様と共に歩みますので、貴女は視聴者に戻ってもらって構いませんよ」


「ぎゃ、ぎゃうぁ……」


・モテモテですなぁ

・羨ましい

・羨ましいかこれ……?

・レイちゃんどうするの?


 二人の距離は目と鼻の先。かたや黒のゴシックドレスに身を包み、表情の読めない真顔で淡々と詰め寄り、かたや白色の法衣のような服を着た少女はあくまでも穏やかな笑みを浮かべながら容赦ない毒を吐き捨てる。


 まさしく一触即発。今にも殴り合いに発展しそうな、そんなドロドロした女の闘いを見たじゃしんが若干怯えた目で後ずさりする中、視聴者から訊ねられたレイはというと……。


「……よーし、次はこれ!」


・あ、逃げた

・卑怯者!戦え!

・触らぬ神に祟りなしとはこのことか


 どうやら関わったら酷い目に合うと本能が告げたらしい。当事者としての責務を放棄したレイは、急いで視線を外して次のアイテムを取り出す。


ITEM【破れた設計図】

古びた設計図の断片。見たことのない文字が使われている。

効果①:なし


「何だろうこれ?車……いやバイクかな?」


 続いて手にしたのは半分に裂けた古びた紙の設計図であった。少ない情報から察するに何か乗り物を示しているようだが、説明通り欠損しているのに加えて、書かれている文字が読めないため、全貌を掴むことはできない。


「入手アイテム的にはワールドクエストのヒントアイテムかな?」


「論外。むしろにわかは半年ROMった方がいい」


「ご忠告ありがとうございます。流石リスナーでしかない人の言葉、参考になりますね」


「おっとぉ!これはやっぱり変わらないんだね!」


 考察を深めつつも、背後から聞こえるトーンが一段階下がったことを感じ取ったレイは、不自然に大声を出して話題を切り替える。


ITEM【巳の紋章】

蛇の形をした銀色の紋章。なにか特別な力を感じる。

効果①:???

※譲渡不可アイテム


「これって一体何に使うんだろう!ね、じゃしん!」


「ぎゃうっ!?ぎゃ、ぎゃう~!」


「ね~、気になるよね~……ははっ……」


・どうしてこうなった

・なんだこれ

・地獄か?


 銀色の蛇の形に切り取られたエンブレムを見つつ、なんとか空気を変えようとレイが試みれば、突然キラーパスを投げられたじゃしんは『お、俺!?』とでも言いたげに大きく戸惑い、ぎこちない笑みを浮かべる。


話題を振ったレイも困った様子で同様の表情を返せば、二人の間に何とも言えない空気が流れ、それを誤魔化すように次のアイテムを取り出す。


ACCESSORY【神秘の花飾り】

聖女の祈りが込められた花の髪飾り。その想いはただ一つ、大切な人の未来を願って。

効果①:神系統からのダメージ半減

効果②:神系統へのダメージ上昇(+100%)


「これって、最後にラフィアが渡してた……」


 レイの手のひらに載っているのは、薄ピンクの花飾り。まさしく前回のワールドクエストの最後にラフィアからミーアに向けて送られたものと酷似しており、レイはその時のことを思い返して少し感傷的になる。


・エッモ

・能力も強くない?

・あれ、じゃしん特攻じゃないこれ?


「ぎゃうっ!?」


「いや、じゃしんはダメージ受けないし与えられないから関係ないでしょ。それよりも今後、神系統のモンスターと戦う可能性があるってことだよね……」


 能力面に目を移せば、まだ見ぬ強敵が存在することを示唆しているようで、レイは不安と期待の入り混じった何とも言えない感情で手元の花飾りを見つめる。

 

「……ま、今考えても仕方ないか。強い装備なのには変わりないし」


 数秒じっと見つめた後、あっさり思考を切り替えたレイは【神秘の花飾り】を<アイテムポーチ>に仕舞い、最後のステータスを確認する。


称号【聖なる想いの継承者】

伝説の月の組織の一員としてその力を認められた証。

取得条件:ワールドクエスト【聖者を継ぐ祭祀に偲ぶは】をクリア

効果:一定確率でダメージを半減(5%)


「なるほど、悪くはないかな」


・半減って強くね?

・でも5%か~

・体感お守り程度かな


 称号による効果を確認すれば、リスナーから可もなく不可もなくといったコメントがあがる。それにレイは同意するように頷くと、ふと思い出したかのように、少女の名前を呼んだ。


「だね。発動したらラッキーって感じで。あ、そうだ。シフォン!」


「はい、お姉様!」


 その声を聴いた瞬間、直前までいがみ合っていたのが嘘かのような甘い声をだすと、一目散にレイの目の前にやってくる。


「お姉様はやめてってば。それよりも、シフォンもワールドクエストをクリアしてたよね?この称号ってもらった?」


「はい、もらいましたよ?」


 気になる点について訊ねれば、シフォンはすぐさま自身のステータスを開いてレイに公開する。


 その躊躇のなさに若干の困惑を感じつつも、レイはそこに記載された内容が自身のものと相違ないことを確認できた。


「同じ……ってことはやっぱり称号はみんなもらえるんだね。アイテムも?」


「そうですね、先ほど仰っていたアイテムと同様の物は持っています」


「あっ、聞いてたんだ……まぁありがとね」


 頬に手を当て、『お揃いですね』と微笑むシフォンに引いた様子を見せるレイ。とはいえ、手に入れた情報は相違ないようで、感謝の言葉を口にする。


「レイ」


「ウサ?どうしたの?」


「……」


 そこへ突然、くいっと後ろに引かれる袖。その違和感にレイが背後へと振り返れば、目の前にはもう一人の少女の姿。


「えっと……」


「……」


 突然の行動に理由を訊ねるも、返ってくるのはジトッとした視線のみ。一体何事だとレイがたじろげば、突如隣にいたシフォンがレイに腕を絡ませる。


「ふふっ、そんなに見ても変わりませんよ。お姉様は私だけに用があったんですから。貴女はお呼びじゃないんです」


「ッ……」


「えっ、あぁいやそういう訳じゃ……」


・これが修羅場って奴か……

・両手に花じゃん

・愛が重いんよ……


 シフォンの勝ち誇った声に、珍しく悔しそうに歯噛みするウサ。そこでようやく合点がいったレイが口を挟もうとするも、それを遮るようにウサが強い口調で尋ねる。


「レイ、どっちを取る?」


「い、一体どういう……?」


「私と【聖女】どっちと一緒にいたい?」


「……え?」


「あぁ、いいですね。はっきりしてもらいましょう」


・おっと

・流れ変わったな

・盛 り 上 が っ て ま い り ま し た


 一人を置いてどんどんと進んでいく会話。コメント欄がこれ以上ない盛り上がりを見せる中、額に冷や汗を垂らすレイに向けて甘い囁きが届く。


「お姉様。私は全てをお姉様に捧げます。お姉様の仰る事ならば、神にだって背いて見せましょう。ですから、どうか私を選んでください」


「レイ。私達はもう親友以上の関係。だから、信じてる」


 右側から囁かれたと思いきや、気付けば反対側の腕もウサに掴まれており、今まで聞いたことがないような真剣な声音で告げられる。


「は、はぁ?そんなのどっちでも――」


「レイ」


「お姉様」


 なんとか誤魔化そうと発した言葉も、有無を言わさない二人の圧に押されて途切れてしまう。


 何故こんな時だけ息が合うんだと頭を抱えたくなったレイだったが、それが出来る状況でもない。期待の込められた二つの視線に追い詰められたレイが出した結論は――。


「――じゃしん!任せた!」


「ぎゃうぁ!?」


・また逃げたぁ!

・レイの みがわりが あらわれた!

・最低で草


 一瞬の隙をついて腕を引き抜くと、近くにいたじゃしんを代わりとでも言うように二人に押し付けて、一目散にその場から去っていく。


 背後から聞こえる悲痛な鳴き声にレイは心の中で謝罪するも、ついぞ振り返ることはなかった。



[TOPIC]

ITEM【鬼神のお守り】

神を喰らい、神へと至った鬼の角は、封じられてなお禍々しい力を宿している。

効果①:攻撃力増加(3%UP)(※効果は重複しない)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 称号の説明が違うと思います。
2023/07/20 15:47 ちよこれいと
[一言] ACCESSORY【神秘の花飾り】 聖女の祈りが込められた花の髪飾り。その想いはただ一つ、大切な人の未来を願って。 効果①:神系統からのダメージ半減 効果②:神系統へのダメージ上昇(+100…
[良い点] しょっぱなカオス いいねぇ!これを待ってたんだよぉ! [気になる点] Q:目と鼻の先の距離のとこで思ったとこ A:どっちかを後ろから頭小突いたら鱚しそうだなぁて   あいやその前に鼻当たる…
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