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1-25 月の光に激しく昂る⑩


「ごめん、今なんて言った?」


 もしかしたら自分が聞き間違えたのかと、そう思ったレイは念のためラビーに問いかける。


「ん、なんだ急に?」


「いいから!満月の夜がなんだって!?」


「お、おう。だから満月の夜になればあいつの事倒せるんだよ」


「それってまさか本当の力を隠してるって事?」


「いや隠してるって訳じゃなくてだな……」


 何故レイがそこにこだわるのか分からないラビーは不思議な顔をする。


「俺たちは満月の夜以外は周りへの影響を考えて力を抑えてんだよ。リボッタの奴から聞いてないのか?」


「そう言うことか……あの野郎……!」


 ラビーの解答にレイは俯くと低い声を出す。


 わざとかどうかは分からないが、中途半端な仕事をした奴に必ず仕返しをするとレイは心に決めたようだった。


「ちなみにそれって月の光も必要?」


「光?いやそんなこと気にしたことないが……満月じゃないと発動しないから関係ないんじゃないか?」


「なるほどなるほど、じゃあ視覚的に満月が見えれば良いってことね……あー!こんな有用な情報あらかじめ教えといてよ!」


 納得したように頷いたレイは何かに怒るように地団駄を踏み出した。


「それ知ってればもっと楽に勝てたのに!【時限草】も5個使っちゃったよ!」


「ぎゃう!ぎゃう!」


 レイが叫んだ後にじゃしんも同じように怒り出したが、彼女達以外の人物はぽかんとしたまま誰一人ついていけていないようだった。


「なぁ、何言って――」


「これから満月を出します」


 ラビーの問いかけを遮ってレイがとんでもないことを口にする。全員驚きで一瞬固まったが、いち早く立ち直ったローブの男が馬鹿にしたように言葉を吐いた。


「そんなことが出来るわけないでしょう?何様のつもりですかぁ?」


「何様かって?そうだね――」


 男の言葉に涼しい顔をしたレイはあえて言葉を溜める。


 そして一呼吸置いてからニヤリと笑って溜めた言葉を口に出した。


「――もちろん、じゃしん様だよ!」


「ぎゃう!」


 レイの言葉とともにじゃしんは呪文を唱え始める。


「いけ!【じゃしん結界・月満(filled)ちた時(moon)】!」


「ぎゃう~!」


 レイがそう叫ぶとじゃしんは両手を高々と掲げる。


 ――瞬間、世界が塗り替えられた。


 そこは以前レイが【ビッグフット】と戦った【スーゼ草原】をイメージして作られた世界であり、レイが言っていたように満月が闇夜を照らしている。


「なっなっなっ……!」


「ほう、やるじゃねえか嬢ちゃん」


 突然の出来事に何が起きたのか理解できない男に対して、ラビカポネは感心したようにレイに話しかける。技名の宣言が格好良く決まって満足げに頷いていたレイは、その言葉に満面の笑みでこう返した。


「でしょ?じゃ、あとはよろしくお願いしますね」


「おう、任せときな」


 そう言ってニヒルな笑みを浮かべたラビカポネは、満月を見ながらまるで百獣の王のように高らかに吠えると、それに共鳴するようにラビーとレレ、ルーブ、ロイエが続く。


 それによって彼らの身体がどんどん肥大化していき、以前レイが戦った相手よりも一回りほど大きいビッグフットの姿となった。


「格好良い……!」


「そうかい?ありがとよ」


 思わず呟いたレイにラビカポネは獰猛な顔で照れたように笑う。


「ふ、ふざけるな!こんなこと許されるとでも思っているのか!」


 ここまで呆然としていた男はなりふり構ってられない様子で騒ぎ出す。レイはそれを見て初めて男の本心が見えたような気がした。


「認めない!認めないぞ!邪神様の加護が貴様らなんぞに負けるなどぉ!」


「GYAOOOOOO!!!!!」


 男の咆哮と【月喰龍】の咆哮が重なる。


 そしてラビカポネにブレスを放とうと口を開けた瞬間、地面に叩き伏せられる。


「誰ニ向カッテ汚イ顔向ケテンダ?」


「調子ニ乗ルナヨ」


「礼儀ガナッテイマセンネ」


 どうやらレド、ルーブ、ロイエが【月喰龍】の頭の上に移動して踏みつぶしたようだったが、レイにはその姿が全く見えず、瞬間移動したのかと錯覚するほどであった。


「ヤムチャ視点ってこの事なのか……」


「ぎゃう……」


 そう呟くレイと同調するように鳴いたじゃしんは、ぽかんと口を開けることしかできない。その間にも3匹の兎達の手によって【月喰龍】どんどんとHPを削られていく。


「さぁ、そろそろ年貢の納め時じゃねぇのか?」


「ヒ、ヒィ!!!」


 ラビカポネの凄みのある声に腰を抜かして尻餅をつく男だったが、もうどうしようもないと悟ったのか、壊れた声で笑い出す。


「ひ、ひひひひひひ!!!!!こうなったらお前らも道づれだ!」


 男以外の全員が怪訝な表情をする中、男は焦点の定まっていない笑い顔で続ける。


「その龍には死の直前、辺りに同様の死をまき散らす力がある!お前らは戦った時点で終わりだったんだよぉ!あははははははは!!!」


「なっ!」


 その言葉を聞いたレイが咄嗟に動き出そうとした時、ラビカポネがそれを止めるように手を前に差し出すと首を横に振った。


「わりぃが、ここは譲ってやってくれ」


「譲るって……誰に?」


 その問いにラビカポネが答える――前に横から誰かが一歩前に出た。


 それを見たレイはなるほどと納得し、レド、ルーブ、ロイエも【月喰龍】の上から退く。


「させるかよ」


 強い思いをこめてそう呟いた彼、ラビーは銃を構えると引き金を引く。


 その弾丸が【月喰龍】に直撃すると、拡散し黒い球体を形作る。直後にその球体に引きずり込まれるような突風が吹き、レイは慌てて踏ん張った。


 遠くにいるレイですら感じ取ったのだ、ゼロ距離でそれを浴びた【月喰龍】になす術はなく、ベキッゴキッという骨が砕ける音を鳴らしながら球体に吸い込まれていく。


 それに合わせて黒い球体も小さくなっていき、やがて【月喰龍】ごと完全に消滅した。


「邪神様バンザーーーーーーイ……あ?」


 何時までも死が訪れず、それどころか最後の切り札が消えたことにフードの男は茫然とし脱力する。


 それを見届けたラビーは葉巻を一本吸うとカツカツと男のもとに歩いていき、その額に銃を突きつけた。


「どうする?お前も試してみるか?」


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 絶望でどうしようもなくなり、絶叫を上げた男は白目をむいて気絶する。その様子にラビーはつまらなさそうに銃をしまうと、視線を外して満月を見上げた。


「敵はとったぜ……」


 ラビ―が感慨深くそう呟いた後、レイの頭の中にファンファーレが鳴り響く。


[<ワールドアナウンス>プレイヤーネーム:レイがワールドクエスト【月の光に激しく昂る】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]

[称号【月光組織の一員】を獲得しました]

[ITEM【月の石】を入手しました]

[ITEM【謎の地図】を入手しました]

[ITEM【卯の紋章】を入手しました]

[WEAPON【Crescent M27】を入手しました]

[レベルが上がりました。ステータスより確認して下さい]


「あー、疲れた!」


 そのウインドウを確認したレイはガッツポーズをすると安堵のため息をこぼすのだった。


[TOPIC]

MONSTER【ムーンライトファミリー】

平原を永住地に選んだ聖獣達は信頼できる仲間達と共にその地を守護する。

世界の破滅に対抗する、その種を育てるために。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回のお話で少し気になったのはNPCが主体になり過ぎているのではないか?という所。NPCに丸投げしているように見え、主人公の魅力がだいぶ薄いように感じた。 [一言] じゃしんかわいい。…
[一言] 更新お疲れ様です
[良い点] レイちゃんやっとレベルアップした……、よかったね(しみじみ) [気になる点] 新スキル……邪教徒、あっ(察し)
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