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7-50 戦いの後で


「おかえり、レイ」


「お疲れ様でした〜」


 戻ってきたレイ達に向けて、いつものメンバーが労いの言葉をかけながら向かい入れる。


「じゃしんが大きくなってた。あれはなに?」


「新しく覚えたスキルだよ。ほら、これ」


 そんな中、ウサから出た質問に対してレイはメニューを操作すると、スキルの詳細を表示する。


SKILL【じゃしん巨影】

『尊き御方』とは偉大な存在である。矮小な我々では見上げることしか出来ないのだ。

CT:666sec

効果①:全てがひれ伏す姿へと変貌を遂げる


「ふむ、中々強そうなスキルでは〜?」


「どうかな、結局ダメージはないわけだし。まぁでも盾としての性能はかなり上がったかも」


「ぎゃうっ!?」


 その効果を確認したスラミンが感想を口にすれば、それに答える形でレイがボソリと不穏なことを呟き、側にいたじゃしんが驚愕の面持ちで目を向く。


「あの、俺たちも質問いいっスか!?」


「服装と武器について教えてもらえたり……」


「じゃしん様、ホントごめんねっ、この通り!」


 そんな雑談モードに歯止めが効かなくなったのか、ここまで黙っていた他のプレイヤー達が我先にとレイ達に詰め寄る。


 ただそれにレイが応じる前に、スラミンが両手を広げて立ち塞がった。


「まぁまぁ、一旦落ち着いて〜。そんなことよりも、やるべきことがあるんですよ〜」


「そうだね、余計な横槍が入っちゃったけど……。どうする?続きやる?」


 スラミンの言葉に頷いたレイは、ある方向に目を向ける。そこにはトリスに支えながらも立つ、シフォンの姿があった。


 彼女の言葉に、緩んでいた空気が再び張り詰める。思わぬ乱入でなぁなぁになっていたが、今はクランバトル中。回答次第では再び戦うことになるため、誰もが固唾を飲んでシフォンの言葉を待つ。


 そんな周囲の視線を釘付けにしたシフォンがトリスから離れて自身の足で立つと、やがてゆっくりと口を開く。


「……いいえ、これ以上戦う理由もありません、私達の負けです。皆さん、よろしいですね」


「はっ、聖女様の御心のままに」


 その言葉とともに、【清心の祈り】の面々が一斉に傅く。そして、その場にいた全プレイヤーに向けて、ゲーム内アナウンスが表示された。


[クランバトルに勝利いたしました。これにより、【清心の祈り】の全権限が【じゃしん教】に譲渡されます]


 瞬間、覆面を被ったプレイヤーから一斉に勝鬨が上がる。その声は次第に彼らの神を讃えるものに変わり、それを聞いた神が嬉しそうに顔を綻ばせて飛び上がった。


「ふぅ、よかった。これ以上は流石にお腹いっぱいだったよ」


「負けていた、とは言わないんですね〜」


「まぁね。それよりも、一つ提案があるんだけど」


 ようやく肩の荷が降りたと言わんばかりにため息をついたレイは、スラミンの軽口に肩をすくめつつ訊ねる。


「この権限さ、放棄ってできるの?」


「え?まぁ可能だと思いますが……本気ですか〜?」


「うん、正直絡んでこないならそれで文句ないし。そもそも貰っても、そんなに面倒見きれないよ」


 彼女にとっては勝ったという事実が重要であり、目的を達成した今、その報酬については不要、どころか邪魔とすら考えていた。


 そのため早々に元の状態に戻そうと提案したわけだが……。


「というわけで、【清心の祈り】はそのまま――」


「いえ、その必要はありません」


「へ?」


 それを、あろうことか得しかない筈のシフォンに止められる。訳もわからぬままレイが呆けた表情を浮かべると、シフォンは穏やかに言葉を紡ぐ。


「これより我々【清心の祈り】は【じゃしん教】傘下の騎士団として活動したいと思います」


「いや、だからその必要は――」


「大丈夫です。信仰先がじゃしん様とレイ様に変わっただけ。なんの問題もありません」


 レイが口を挟もうとするも、もはや決定事項と言わんばかりに頑なな態度を取るシフォン。それにレイは頭を抱えつつも、なんとか説得を試みようとする。


「いやいや、問題はないけどさ……」


「私がそうしたいんです。レイ様ーーいや、お姉様」


 だが、その感情すらも強烈なインパクトを放つ単語によって吹き飛ばされてしまったようだった。


「お姉……様……?」


「はいっ!実は取り込まれた後も、一部始終は見れていたんです。私を救ってくださったレイ様の勇姿に、すっかり虜になってしまいました」


「いやいやいやいや」


 瞳の奥にハートマークを宿すシフォンに、レイは慌ててツッコミを入れる。だが、その程度では彼女の暴走は止まらない。


「これからは私の人生をレイ様に捧げます!しかも、じゃしん様への愛も捨てる必要がない!あぁ、なんで幸せなんでしょう……!」


「ちょ、ちょっと!トリスはいいのこれで!?」


「我らは聖女様の意向に従うのみ。ただ白騎士というのは些か違和感があるな。これを機に装備の一新を……」


「ちくしょうこいつもダメだ!」


 恍惚の表情を浮かべるシフォンをそうそうに説得相手から見限ったレイは、比較的マトモそうなトリスに声をかけるも、彼も彼で否定はなく、自分の世界に入ってしまっているらしい。


 その姿に悪態を付けば、今度はレイの右腕が後ろにいた人物に引っ張られた。


「レイの隣は渡さない」


「ウ、ウサ!?」


「あら、宣戦布告ですか?受けてたちますよ」


 シフォンをじっと見て、そう宣ったウサ。そんな二人の間にバチバチと火花が走ったのを感じ取ったレイは、諦めたようにがっくりと肩を落とす。


「……もう勝手にして」


「ぎゃう〜!」


 レイの苦労を知ってか知らずか、じゃしんは信者が増えたことで嬉しそうに小躍りを行う。


 突然始まった宗教戦争は存外穏やかに、そしてこれ以上なく丸く収まる。その場にはいがみ合いなどなく、未来に思いを馳せるプレイヤー達だけが残っていた――。


「……チッ」


 ――そんな彼等を遠目から見つめる一人の男。


 何かが気に喰わないのか、黒い革ジャンにピアスを開けた金髪の青年――スカルは苛立たしげに舌打ちを零して、忌々しそうに眼下の光景を見つめている。


「望んだ結果にはならなかったようだな」


 そんな彼に、背後から忍び寄る影。


 スカルが首だけを動かして振り返れば、そこには薄汚れた外套を身に着け、フードで顔を隠した男の姿。


「このクエストにはもう一つゴールがあった。それが、大蛇が完成体になること」


 スカルの反応を待つことなく、声をかけてきた男は淡々と言葉を紡ぐ。一見、突拍子もない内容だが、それを聞き進める度にスカルの眉間に皺が寄っていく。


「そうなれば。大蛇は邪神となり、このゲームは強制的に終焉へ向かっていた。全プレイヤーを巻き込んだ、最後の戦い(ゲームの終わり)に」


「……お前は誰だ」


「『復讐者』」


 それは、関係者でなければ……いや、関係者であっても一部の者しか知る由がない内容。


 それを受け、スカルが目を細めて名を訊ねれば、ただ一言、端的に答えのみ返ってくる。


「お前の存在は知っている。あの女曰く、この世界の裏の支配者だと。そして、このゲームの終わりを望んでいると」


「だったらなんだ?」


「俺と手を組まないか?」


 その名を聞いて、碌な存在ではないと確信するとともに、その相手を理解したスカル。そして、その後に続いた提案に、僅かに目を見開いた。


「何だと……?」


「この世界にはもう()を仕込んである。それを使えば物語のレールに従わずとも終焉を呼び、この世界を終わらせることができる」


 一方的に言葉を滑らせる『復讐者』に対し、スカルは黙って耳を傾け続ける。だがその姿勢とは逆に、表情はどんどんと無表情に変わっていく。


「もちろん、奴にも一泡吹かせられる。悪い話ではないだろう?」


「くだらん、失せろ」


 そして一通り聞き終えた後に、ピシャリと切って捨てて視線を外す。まるで話は終わりだと言わんばかりの態度、だが『復讐者』は微塵も動揺を見せない。


「そうか、まぁいい。所詮データの中でしか生きられない哀れな存在、いようがいなかろうが変わらない――」


 その一言で沸点に達したのか、スカルが怒りの形相で振り返って腕を振れば、『復讐者』の体が斜めにずれる。だが、それでは彼の口を塞ぐことが出来なかったようだった。


「無駄だ、今のお前では何も成せない。所詮はあの女の操り人形、それはお前も分かっているんだろう?」


「黙れ!」


「これは警告だ、俺の邪魔だけはするな。最も、お前一人になど出来ることなど、高が知れているようだがな」


 地面に倒れた『復讐者』の体は砂に変わり、風に乗って夜空に飛んでいく。その間にも聞こえる自身を舐め切った台詞に、スカルは睨みつけることしか出来ないでいた。


[TOPIC]

WORD【支配者】

表の支配者は、理の外側から世界の全てを管理する。

裏の支配者は、理の内側で世界の不具合を調整する。

その関係は表裏一体。だが、その間には塞ぎきれないほどの溝があった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いあいあじゃしん!いあいあじゃしん!
[一言] ふっ、神とは常に完璧であるべきなのに完全体に時間をかけるようではじゃしん様に勝てるわけないんだよなぁ?
[良い点] ちくしょうこいつもだめだ!のとこ [気になる点] 気になったけど誤字かなぁってことでここに書く人=うち いや、お姉さま というより いえ、お姉さま の方がいいかなって いや だとなんか男…
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