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7-49 聖者を継ぐ祭祀に偲ぶは⑦


「よっ。失礼」


 大蛇が消え去った後、レイはじゃしんの上に着地して【黄泉の黒翼】を解除する。それと同時に手に持った大槌が光を纏うと、普段通りの拳銃の姿へと戻った。


「ぎゃ~う~!」


「はいはい、お手柄だったよ」


 両手を上げ、どこか勝ち誇るように雄叫びを上げるじゃしんの姿に、レイは苦笑を浮かべる。その時、不意に彼の体から風船の空気が抜けるような音が聞こえてきた。


「ぎゃうっ!?」


「おっと?」


 その音の示す通り、だんだんと萎んでいくじゃしんの体。それがスキルの終わりを知らせるものだとレイが理解する頃には、その視線はいつもの高さへと戻っていた。


「ぎゃう……」


「じゃしん様、かっこよかったですぜィ!」


 強烈な優越感を失ったことにじゃしんががっくりと肩を落とす中、それを励ますようにイブルが声をかける。


 一方でレイの首からするりと降りたミーアが白蛇の姿のまま首を上げて一点を見つめると、彼女の体から淡く優しい光が漏れ始める。


 それとともに彼女の体がレイの良く知る少女の姿となり、漏れ出た光は彼女の視線の先へと集約していく。


『――ふぅ、また戻ってきちゃうとはね』


「ラフィア……」


 その光が形作ったのは金色の髪を靡かせる短髪の女性。レイにとって、どこか面影のある見た目だが、想像していたよりも随分と若く、慈愛の満ちた視線をミーアへと送っていた。


『なぁに?』


「まだ……いなくならないで。ずっと一緒にいてよ……」


『あら、嬉しい誘い。けど、それは出来ないわ』


 俯いて悲痛そうに声を絞り出したミーアに、ラフィアは困ったように眉尻を下げる。


「どうしてっ!」


『それはあなたが一番分かってるでしょう?』


 否定の声に怒ったように顔を上げたミーア。だがそれを真っすぐと受け止めてなお、ラフィアは言葉を続けた。


『時間が経ち過ぎたのよ。私の魂もすり減って、貴方の力でも維持出来なくなっている。一番の問題は貴方の中にある私の記憶が薄れてきていることね。まぁお別れの時間が来たってこと――』


「そんなことないっ!」


 淡々と事実を述べるラフィアの口調に耳を塞ぎたくなったのか、ミーアは癇癪を起こすように叫び声を上げると、いやいやと首を何度も振る。


「私がラフィアの事を忘れるなんてあり得ない!今までもこれからも!」


『嬉しいこと言ってくれるわね。でもね、忘れることは悪いことじゃないわ。だって、それだけ新しいことを覚えてる、ってことでしょう?』


 駄々をこねるミーアに対し、ラフィアは膝をついて目線を合わせると、諭すように声をかける。


『ここ最近の貴方、とっても楽しそうだったわよ。それこそ昔、『勇者』と喧嘩していた時みたいにね』


「そんなこと、ないもん」


『あるのよ。それもこれもきっと、貴方達のお陰よ。改めてお礼を言わせてもらうわ』


「ぎゃう?」


「いやいや、そんな」


 不意に視線を向けられたことで、じゃしんは首を捻り、レイはぶんぶんと手を前で振る。そんな二人の姿にラフィアはクスリと笑うと、改めてミーアへと視線を戻す。


『彼女達みたいに、これからも色んな出会いがあるわ。良い出会いも、悪い出会いも。でもね、そのすべてが貴方を成長させてくれる筈よ。だからいつまでも過去に囚われていないで、そろそろ前を向きなさい』


「いやだよ、そんなことできない……」


『もう、そんな顔しないで。あぁそうだ、これあげるわ』


 踏ん切りがつかないのか、遂には目尻には涙を浮かべてしまうミーア。そんな顔を見かねたのか、ラフィアは懐からある物を取り出した。


「これは……」


『私の一番好きな花よ。貴方に似合うと思って。貰ってくれる?』


 それは、白色の紐が付いた薄ピンクの花飾り。それを見たミーアの目が見開いたのを確認すると、ラフィアは大きな帽子にその花飾りを取り付けて顔を綻ばせる。


『うん、やっぱり似合うわ。最高に可愛い!』


「……ねぇ、ラフィア」


『どうしたの?』


「私、ラフィアみたいになりたい。なれるかな……」


 大きな鍔の帽子で顔を隠しながら、ミーアは顔色を窺うように訊ねる。それに呆れたように目を細めたラフィアは、さも当然と言いたげに答えを口にする。


『なれるわよ。当たり前じゃない』


「……そっか、うん。えっと、それからお願いがあるの。最後に、その……」


『はいはい、しょうがないわね』


 そしてミーアの考えを先読みしたのか、願いを口にする前に彼女の体を抱きしめると、その耳元で囁くように別れの言葉を口にする。


『大好きよ、ミーア。またね』


「うん、うんっ、またね……!」


 その言葉を聞いて、ミーアの両目から大粒の涙が溢れ出す。


 そんな二人のやり取りを遠巻きに眺めていたレイの前へと、突然大量のウィンドウが展開された。


[〈ワールドアナウンス〉プレイヤーネーム:「レイ」、「シフォン」がワールドクエスト【聖者を継ぐ祭祀に偲ぶは】を初クリア致しました。※これは全プレイヤーに伝達されます]

[称号【聖なる想いの継承者】を獲得しました]

[ITEM【白蛇の抜け殻】を入手しました]

[ITEM【破れた設計図】を入手しました]

[ITEM【巳の紋章】を入手しました]

[ACCESSORY【神秘の花飾り】を入手しました]

[デスペナルティ中のため、経験値は取得されません]


「これで終わりか。うん、どう考えてもこれ以上は野暮かな。行くよじゃしん」


「ぎゃうっ」


 それは、通算七度目となるワールドクエストをクリアしたことを示すゲーム内アナウンスであった。


 前人未到の記録ながらも、今はこの余韻に浸っていたいレイは踵を返しつつも、じゃしんに声をかけ――ふと、その顔を見て立ち止まる。


「ぎゃうっ?」


「どうかしたんですかィ?」


「……いや、なんでもないよ」


 二人のやり取りに当てられたのだろう、確実に終わりへと向かう道筋の中で、じゃしんとの別れを想像し、すぐさま取り繕うように歩き出す。


 その時はいつやってくるのだろうか。自分は笑っていられるのだろうか。その自問自答に、ついぞ答えは出ないままだった。


[TOPIC]

MONSTER【ミーア】

狡猾で知られる白き蛇は、同時に人々に施しを与えた。

ただひたすらに純なる者を愛し、その力は聖者の元へと辿り着いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなん泣いちゃうやろ! 早くじゃしんに不憫な目にあってもらわなければ!!
[一言] じゃしんとの別れ・・・サービス終了かな? あの「神」だしやりかねん気がなぁ・・・
[一言] じゃしんとお別れとか読んでて絶対泣く自信あるわ
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