7-47 聖者を継ぐ祭祀に偲ぶは⑤
※重要!※
・レイちゃんの装備について、大変勝手ながら大きく変更を加えました。
お手数ですが、詳しくは活動報告をご覧ください。
「何だこれは……?」
突然の出来事に、教皇はスッと目を細めて身構える。
その間にも爛々と煌めくレイの体は次第にその光を収束させ、新しいシルエットを形作っていく。
「……なるほど、こういう感じか」
やがて完全に光が収まれば、レイは自身の姿を眺めつつぽつりと呟く。
上半身は黒色のノースリーブのみ。それだけならスリムで涼しげなイメージを抱かせるが、対する下半身は膝下辺りから大きく膨らんだいわゆるボンタンと呼ばれるタイプのズボンとなっており、藍色の龍のような刺繍が入っているのも相まって、どちらかと言えば一昔前の不良を連想させた。
「こういう格好はなぁ。見てる分には好きなんだけど自分ではあんまり……。まぁ動きやすいからいいのかな」
普段とは大きく異なる様相に、どこかそわそわと落ちつかない様子を見せるレイ。全身を見渡しながらぶつぶつと呟くも、未だに気になって仕方がないようだった。
「なにかと思えば……行け」
「ちょっと、もっと時間くれていいのに。でもそんなに油断していいのか――なっ!」
その姿に、教皇は拍子抜けしたように嘆息すると、静止していた二体の騎士へと差し向ける。
機敏な動きで接近し、容赦なく突き出されたランスを懐に入り込むことで躱したレイは、その胸部めがけて拳を握り――。
ドンッ!
「なにッ!?」
「お~、思ったよりも飛んだね」
目一杯振りぬかれた一撃は激しい殴打の音を響かせて【狡猾な堕天使】の体を宙に浮かせ、後ろから追ってきていたもう一体を巻き込みながら吹き飛ばす。
そんな到底信じられない光景に教皇が目を剥けば、それを行った本人はどこか他人事のように呑気な呟きを漏らしていた。
「貴様、なにをした!」
「なにって、変身だよ変身」
拳を開いたレイは、ストレッチを行うように手首を振りながら教皇へと正解を告げる。だが、その軽薄で馬鹿にするような物言いに、教皇の顔が憤怒で歪む。
「チッ、面倒な……!だがその程度で――」
「なに言ってるのさ。まだ私のターンは終わってないよ」
唾を飛ばして叫んだ教皇の言葉を、レイはにべもなく遮る。そして、このモードの真骨頂たるスキルの名を高らかに叫んだ。
「【武神機巧『破天』】!」
その言葉とともに、今度はレイの手の中にある【RAY-VEN】が青色の光りを放ち、眩い輝きにぼやけた輪郭は次第に肥大化し、銃から別の武器へと姿を変えていく。
グリップの部分は中心にずれた後に縦に伸び、両手で握るような柄へ。
銃身の部分は形はそのままに純粋に巨大化し、撃鉄の部分がより鋭利に尖る。
そして銃口部分には蓋のようなものが装着され、片手で握れていた銃は自身の身の丈に迫るほど巨大な大槌へと姿を変えた。
「これが『武神機巧システム』……」
『武神機巧システム』。
ぺけ丸が作成したマニュアルの372ページから823ページに記載された、レイの新装備の肝とも呼べるスキル。
曰く、【モードチェンジ】による過剰なステータス上昇を如何なく、これまで以上に発揮するために、専用武器である【RAY-VEN】を最適化、文字通りの進化をさせる効果があり、武器と防具、その両方を極めたぺけ丸だからこそ実現できた、まさしく最高傑作たる所以であった。
「すごい、これなら……!」
手に持った感触は、重過ぎず軽過ぎず。初めて持ったにもかかわらずこれ以上なく手に馴染む感覚に、その効果を見ずともレイは確信する。
「くっ、行け!」
明らかに纏う雰囲気の変わったレイに教皇は動揺しながらも、杖を向ける。
それに従うように【狡猾な堕天使】達が動き出せば、レイも手に持った大槌を強く握りしめ、迎え撃つどころか一歩前に踏み出す。
「いいね、試運転に付き合ってもらうよ!」
【狡猾な堕天使】の肩口に突き刺さった一撃は、素手で殴った時よりも数倍は悲惨な音を奏でながら鎧の一部をひしゃげさせ、2メートルを超える体を野球ボールのように吹き飛ばす。
そのままの遠心力を利用してレイはもう一回転し、残された【狡猾な堕天使】を薙ぎ払う形で大槌を振るう。
それを見た【狡猾な堕天使】が迎撃を試みたのかランスを突き刺せば、その穂先と大槌の平の部分が真正面からぶつかり合う。
だが、その攻防も一瞬。
力で勝ったレイの一撃がランスごと【狡猾な堕天使】の片腕を吹き飛ばせば、上半身の半分を失った【狡猾な堕天使】がふらふらと後退しながら倒れ込んだ。
「攻撃は最大の防御、ってね」
辛うじて動いてはいるものの、既に虫の息となった二体の【狡猾な堕天使】。そこに近寄ったレイは容赦なく大槌を振り下ろし、ポリゴンへと変える。
「さてと」
「ッ!?」
そのまま視線を教皇に移せば、次は自分だと悟ったのか機敏な動きで飛び退いてみせる。だがそれを一瞥だけで留めたレイは、ゆっくりとした足取りでシフォンの元へと向かう。
「なっ――貴様ッ!」
「これ、返してもらうね」
彼女の体に纏わりつく肉塊をブチブチと手で強引に剥がしつつ、彼女の体を開放する。そして未だ意識のない彼女の体を抱きとめつつ、血走った目を向ける教皇と視線を合わせた。
「『器』を返せ!」
「やだよ。悔しかったら取り返してみたら?」
「減らず口をっ!」
べぇと舌を出したレイに怒りの沸点を超えたのか、教皇は唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。そして、手に持った杖をレイ達に向けた所で、彼の背後に何かが揺らめいた。
「捕まえた……!」
「ぐぅ、おぉ……は、離せ――ごぉ!?」
「え? この声って……」
突如彼の背後に現れたのは、1メートルほどの白い蛇。
いつの間にか足元から忍び寄っていたその蛇が、教皇の体に巻き付いてギリギリと締め上げたかと思えば、大きく開いた口に自身の頭を突っ込んで体内へと侵入する。
「う、うわぁ。意外とえげつないことするね。ミーア、でいいんだよね?」
「ぎゃ、ぎゃうぅ」
声からなんとなく正体を察知したレイが隣に立っていたじゃしんに問いかければ、現在進行形で行われている凄惨な光景にドン引きしながらも恐る恐る頷く。
そうして、口に突っ込んだ白い蛇を引っこ抜こうとするオジサンという、微妙にシュールな光景を観戦していると、やがてズルルッという音と共に、ミーアの頭が再び顔を出した。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
「やった!やったわレイ!」
「あ、う、うん。おめでとう……?」
絶叫を上げて膝をつく教皇を放置し、ミーアは蛇の姿のままレイの下へとやってくる。
その口には教会で見たラフィアであった光の球を咥えており、レイは感情が迷子になりながらも賞賛の言葉を口にした。
「お、おのれ……!」
「あ、大丈夫?」
口から垂れる涎を拭いて立ち上がる姿に、レイは少々の同情を込めて声を掛ける。それを恨めしげな眼で睨み返すと、教皇は大声でがなった。
「何年待ったと思っている……!我が悲願の邪魔をするな!」
その咆哮と共に、教皇の体から黒い靄が噴出する。それは煙のように周囲に漂い、壁や地面を浸蝕すると、再び顔のない黒い蛇が無数に湧き出てくる。
「あぁ、そういえば。ここって貴方のお腹の中だったりする?」
「……何が言いたい?」
「いやなに。一つ教えといてあげようと思って。あんまり変なものお腹に入れない方がいいよって」
それを一通り見渡したレイはふと脈絡がないことを問いかける。それに怪訝な声を出した教皇に対し、意味深に返した後、今度はじゃしんへと視線を向ける。
「じゃしん!行くよ!」
「ぎゃ、ぎゃうっ!」
突然呼ばれたことで驚いたように跳びあがったじゃしんだったが、すぐさま『やるんだな、今ここで!』とでも言わんばかりに覚悟を決めた眼で頷く。
それを見たレイが満足そうに頷くと、不敵な笑みを浮かべながら謎のベールに包まれたスキルの名を口にする。
「――【じゃしん巨影】!」
瞬間、世界が揺れた。
[TOPIC]
SKILL【モードチェンジ『青彗星』】
戦場を空虚に変える破壊の彗星。それは天空の名を冠する青龍の如く。
CT:1500sec
効果①:<信仰>を<腕力>に置換
効果②:一定時間経過後、形態解除(300sec)
効果③:SKILL【武神機巧『破天』】




