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7-44 聖者を継ぐ祭祀に偲ぶは②


「クソッ、剣が通らない!」


「魔法も効かないぞ!どうなってんだ!」


 戦場には、変わらず怒号と悲鳴が鳴り響いている。ただ、場の支配者は確実に移り変わっていた。


「おい、来るぞ!」


「逃げろ!下がれって!」


「逃げるったって、何処に!」


 迫りくる黒い巨体は人々に抗う間も与えず飲み込んでいく。


 顔がない故に、死角もない。そもそも隙をつこうともこちらの攻撃が通ることはない。


 一方黒い大蛇はその体を揺らすだけで、塵芥のようにプレイヤー達を薙ぎ倒していく。その凄惨たる光景は、威勢の良かったプレイヤー達の心を折るには十分だった。


「全員下がれ」


「トリス様!」


 その場にいる全員の顔に怯えが見え始める中、毅然とした声が戦場へと響き渡る。威風堂々と黒き大蛇に対面する姿は騎士達はおろか【じゃしん教】の面々ですら頼もしく感じる。


「シフト『(イージス)』だ。対象は『きょうじん』の隣に立つ少女」


「え?しかし……」


「説明している暇はない。これもすべて聖女様のためだ」


「は、はっ!」


 有無を言わせぬ態度に、命令を聞いた騎士達が一斉に引いていく。それと同時に戦場に間の抜けたのんびりとした声が響いた。


「【じゃしん教】の皆さんも~、命大事にでお願いします~。下がっても大丈夫ですよ~」


 スラミンの声によって、【じゃしん教】の面々も戦線を下げていく。そうして遂に、トリスがただ一人先頭に立ち、大蛇と睨み合う形となった。


「まるでヒルだな」


 自身の十数倍はあると思われる大蛇を前に、トリスは微塵も臆した様子を見せない。


 口を大きく開いて飛び込んでくる大蛇に対して剣を構えれば、両者が交錯するタイミングでスキルの名を口にする。


「【天地返上】」


 放たれた技は、洗練されたカウンター。目にも止まらぬ絶技に触れた瞬間、大蛇の顔が大きく跳ね上がり、そのまま青天井を向く。


「『きょうじん』、これは倒してしまっていいのか?」


 一矢報いたことで【清心の祈り】が湧き、【じゃしん教】がどよめく中、涼しい顔をしたトリスが首だけ振り返って尋ねる。


「えっと、ミーア?」


「……倒せるものならね。聖女の力はそんなに甘くないわよ」


 答えの知らないレイが回答を隣にいる少女に託せば、苦々しい表情でそんな答えが返ってくる。


「どういうこと?」


「ほら見て。あそこ」


 それに首を捻ったレイが再度訊ねれば、ミーアは頃い大蛇の一部を指さす。そこには先ほどつけられた切り傷が物凄い勢いで修復されている姿があった。


「……回復効果か、忌々しい」


「なるほど、じゃあ大丈夫かな」


 その光景に自身の敬愛する『聖女』を思い出したのか、トリスが眉間に皺を寄せる。そんな中、一人納得した様子のレイが、今度はトリスへと問いかけた。


「トリス、何秒欲しい?」


「何の話だ」


「いや、何秒回復を止めればアイツを倒せるのかなって」


 突拍子もない言葉に、トリスは呆気にとられる。ただ、こんな状況で笑えない冗談を言うとも思えず、頭に浮かんだ数字を口に出す。


「……10秒。それで十分だ」


「了解。じゃあちょっと待ってね――」


 それを聞き届けたレイはどこからともなくアイマスクを取り出すと、躊躇うことなく装着する。


「なんだそれは……?」


「【邪ナル封具《神隠》】。10……9……8……」


 目元のみじゃしんの顔となったかなり間抜けな姿にトリスの中に不安が渦巻く。ただ、それを指摘している時間は無いようだった。


「ッ、【天地返上】!」


 体を起こした大蛇が、再びトリスへと肉薄する。それを再びカウンターで返しつつも、隙だらけのどてっ腹に斬撃を叩きこむ。


「……ダメか」


 ダメ元ではあった一撃は外殻を僅かに傷つけるだけに留まり、すぐさま修復されていく。頭上に小さく表示されているHPゲージにも変化がなく、削り切るのは相当困難であることが窺えた。


「『きょうじん』、まだか!」


「3……2……1……よし、行くよ!」


 再び首を擡げた大蛇の姿に、トリスが『きょうじん』の名を呼ぶ。それに応えるように、レイはスキルの名を叫ぶ。


「【封神邪眼】!」


 瞬間、アイマスクが発火し、彼女の目に灯る青い炎。その視線の先にいる大蛇には同じような炎と共に六芒星が刻まれる。


「【天地返上】!」


 十。大蛇による三度目の突撃。


 九。それを合図と受け取ったトリスが放つ、巧みなカウンター。


 八。刹那、浮かび上がる大蛇の巨躯。


「全員チャンスですよ~!打ち方はじめ~!」


 七。スラミンによる、砲撃指令が響く。


 六。一拍遅れて放たれる、無数の魔法攻撃。


 五。着弾。絨毯爆撃のような雨霰は、大蛇のHPを確実に奪っていく。


「はぁぁぁぁぁ!!!」


 四。雄たけびを上げながらもトリスは距離を詰める。


 三。がら空きとなった腹部に斬撃を繰り出せば、次第に刀身が光り輝いていく。


 二。やがて大蛇の腹部に砂時計のようなマークが描かれれば、トリスは今一度大きく振りかぶり、光り輝く大剣を横に薙ぐ。


「【英雄の証たる七連斬ソード・オブ・オリオン】!」


 一。剣閃による煌めき。それに沿うように大蛇の体に一筋の切れ込みが入る。


 そして、零。


 【封神邪眼】の効果が切れた時には、大蛇の体は二つに裂け、事切れた肉塊へと変わっていた。


「うおぉぉぉぉ!すげぇ!」


「流石トリス様!」


「あれと戦ってたってマジっスか……?」


「いやいやいや、勝てるわけないじゃん……」


 クランの垣根を越え、大蛇の上に立つ一人の騎士に向けて称賛の声が飛び交う。ただその騎士と戦った者は、その愚かさに畏怖の念を抱いて肩を震わせていた。


「結構呆気なかったな。取り敢えず後は――」


「――まだよ!」


 勝利ムードに包まれる戦場にて、レイもその空気に流されるように大きく伸びをする。だが、それは油断以外の何物でもなかった。


「え?」


「『聖女』の力はこんなものじゃない!」


 何かを訴えるような切羽詰まった声に、レイは困惑しつつも改めて大蛇を見やる。


 そこには確かに横たわる大蛇に亡骸。ピクリとも動く気配のないそれを怪訝そうに睨みつければ、空から降り注ぐ何かに気が付く。


「こ、これは……?」


 それは一枚の羽根だった。


 漆黒に染まったそれは、なにかの祝福のように天から降り注ぎ、大蛇の体を覆っていく。


「……まさか『聖女』様の――」


 その光景に強烈な既視感を覚えたトリス。そして、それは寸分の狂いもなく現実となる。


「クソッ、蘇生(・・)された! 『きょうじん』退け!」


「はぁ!?」


 突如感じた振動に、トリスは声を張り上げて忠告する。


 いつの間にか二つに斬り裂かれていた体は接合され、ズルズルと身体を地面に擦らせながらも活動を再開させる。


「退くったってどこに――」


「どこでもいいッ!早くその少女を連れて――」


 空中から飛び退きながらも鋭い声を上げるトリスだったが、その声は大蛇が地面に潜る音にかき消される。


 そして、襲い来る地震のような強烈な揺れ。立っていられない程には激しいそれに全員が膝をつけば、数秒後それを引き起こしている犯人が地中から姿を現す。


「あ――」


 勢いよく飛び出たことで、瓦礫と共に宙に舞う有象無象(プレイヤー)達。


 そんな中、大きく開かれた口の上にいるのは、身を投げ出された白いワンピースの少女。


「ミーア!」


 レイが手を伸ばすも、届くことはない。悲痛に歪んだその顔に諦めの感情が浮かぶ中、その場に女性の声が響き渡る。


「じゃしん様、ごめんなさい!」


「ぎゃう?」


 彼女は、スラミン達と共にトリスに挑んだ【魔術師】の一人であった。


 謝罪の言葉を口にしながらも、首を傾げるじゃしんに触れてスキルの名を口にする。


「【トランスポート】!」


「えっ」


「ぎゃう?」


 瞬間、入れ替わる身体と身体。


 ミーアがいた場所へじゃしんが、じゃしんがいた場所へミーアが現れる。そして、その結果。

 

「ぎゃ――」


「じゃ、じゃしーん!?」


 『嘘だろ……』と絶望の表情を浮かべたじゃしんが、大蛇の腹の中へと吸い込まれていくのだった。

[TOPIC]

SKILL【天地返上】

武を極めし者の見切りの極意。受けた者は空の青さと自身の弱さを知る。

CT:100sec

効果①:強烈なノックバック効果(有効フレーム:3F)

効果②:成功時クールダウンを極大減少(1/10)


※アプデ前

効果①:強烈なノックバック効果(有効フレーム:10F)

効果②:なし


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― 新着の感想 ―
[一言] こんなん草生えちゃう
[良い点] やっぱじゃしんはそういう運命なんだね いいぞもっとやれ(無慈悲 [気になる点] イベント動物(動物?)の登場はいつかな あるいはミーアか・・・? それと今回召喚されるイベント仲間も気になり…
[一言] 次回:じゃしん死す!デュエルスタンバイ!!
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