1-24 月の光に激しく昂る⑨
時は少し遡る。
「あ、先にラビカポネ達はどうしよう」
ウサからお金を受け取った後その勢いで飛び出そうとしていたレイだったが、次に起こるイベントを想像して足を止めた。
「多分十中八九ラビー・アルカッドが出てくるだろうし、先に呼んでおくのも……でも今昼だから会えないのかな?」
先程ラビカポネのアジトにたどり着くためには満月の夜という条件が必要だったのをレイは思い出す。
前例がないため定かではないが、もう一度入る場合でも条件の達成が必要かもしれないとレイは推測した。
「ぎゃう!」
どうしようかと考えていた時、後ろからじゃしんの声が聞こえレイは振り返る。
そこにはいつの間にか復活したじゃしんが『俺に任せろ』と言わんばかりに目を輝かせて手を挙げていた。
「それはいい考えかもしれない」
「え、本当に言ってる?あれに?」
「そう、あれに」
じゃしんの言葉を肯定し、こくりと頷くウサに胡乱な表情をぶつけるレイ。
「本当かなぁ?というかそもそも別行動したら場所分からなくならない?」
「それについては前例がある」
「前例?」
「ぎゃう?」
ウサの言葉にレイが首を傾げれば、それを真似するようにじゃしんも首を傾げる。
「そう。レイみたいな連れ歩き系の場合、召喚獣はプレイヤーの位置を把握できるらしい」
「え?そんな便利なことできるの?」
「そうでもないと思う」
「え?」
思ったものとは違う反応にレイの首はさらに曲がっていく。ただこれ以上深掘りしても意味がないと判断したレイは、改めてじゃしんの方に向き直った。
「じゃしん、本当にできる?」
「ぎゃう!」
「うーん……」
『任せてください』と言わんばかりに背筋を伸ばすじゃしんだったが、やはり全幅の信頼を寄せるには少し心許ないようだった。
レイが腕を組んで悩んでいると、隣にいたウサがこしょこしょ耳打ちする。
「レイ、一回任せてもいいと思う」
「くすぐったい……。で、その心は?」
「じゃしんがいてもいなくても変わらない」
「……なるほど。よし、じゃしん、任せた!」
「ぎゃう?ぎゃう!ぎゃうぎゃーー」
◇◆◇◆◇◆
「まさかこんな状況になると思わなかったけどね」
駆け寄ってきたじゃしんに対して頭を撫でてやりながらレイは困ったように笑う。
レイの想定ではもっと早く、それこそラビーと会話している最中に対面してもらう予定であったが、今でもタイミング的には完璧なので些細な問題だとレイは判断していた。
「っていうかよく出会えたね」
「ぎゃう!」
『当たり前だろ!』とでも言うように誇らしげな顔をするじゃしんだったが、レドから横やりが入る。
「俺達ノアジトノ入口デ挙動不審ニウロウロシテイタゾ」
「ぎゃう!」
レドの一言に慌ててその口を押さえに行くじゃしん。
どうやら真実はじゃしんの方から入ったのではなく、偶然通りかかったレドの方から声をかけたようだった。
「じゃしん……」
「ぎゃ、ぎゃう」
レイの残念な子を見るような視線にじゃしんはたまらず目をそらす。
「今、じゃしんと言いましたぁ?」
そんな風にいつもの調子でやり取りをしていると、ここまでほったらかしにされていたローブの男がレイの一言に反応した。
「ほら、これがあんたが信仰してるじゃしんじゃないの?」
「ぎゃう!」
一応、レイは確認するようにじゃしんをずいっと前に押し出すと、ローブの男によく見える位置に移動させる。それを見た男はふんっと馬鹿にしたように笑った。
「そんなのが邪神様ですって?そんなわけないでしょう、馬鹿言わないでください」
「それはそう」
「ぎゃう!?」
いきなり馬鹿にされ、しかもそれに同意されたじゃしんは驚愕の表情で振り返る。
レイにとっては自身の知っているじゃしんと男の言う邪神があまりにもかけ離れているため、同名別種の何かだろうと推測していた。
「それよりも邪神様の名を騙るなんて万死に値しますねぇ……」
男は目を細めながらレイとじゃしんに向かってねっとりとした口調で話しかける。それに連動するように【月喰龍】が唸り声をあげた。
「あいつか?リングとプルパをやったのは」
「アニキ……」
一方で急な対面になんといっていいか分からない情けない声を上げるラビーと、それを見たラビカポネは若干の怒りをにじませながら言葉を続ける。
「そんな顔すんじゃねぇよ。懺悔なんてしてる場合か?」
「それは……」
「おやおや、感動的ですねぇ」
会話に茶々を入れようとしてきたローブの男へと、ラビカポネは無言で銃を向けるとズドンッとためらいなくトリガーを引く。
「部外者が口挟んでくるんじゃねぇよ。あぁ!?」
「ヒィッ!?」
ラビカポネのドスが利いた声に初めて男は怯んだように後ずさる。ただ、すぐに気を取り直すと、声を震わせながらも【月喰龍】に指示を出した。
「そ、そんな脅しで私は屈しませんよぉ!?行きなさい【月喰龍】!」
「GYAAAAA!!!」
【月喰龍】が大きく咆哮すると先ほどのように口を開く。
「まずい!ブレスが来る!」
「レド、ルーブ、ロイエ」
焦るレイと対照的に、冷静なラビカポネは『ムーンライトファミリー』の3人に声をかける。すると、彼らはすぐに行動を始め、【月喰龍】に向けて駆け出していく。
一瞬で【月喰龍】に肉薄すると、まずロイエが左足を蹴り抜きバランスを崩した。続いてレドが首を蹴り、捻るように【月喰龍】の上体を浮かせると、トドメと言わんばかりに残った足をルーブが払う。
その結果、ズシンと仰向けに倒れ込んだ【月喰龍】から放たれたブレスはドーム状になっている壁を一部崩壊させる。
「おぉ」
「ぎゃう」
その光景に拍手をしながら見ている1人と1匹。完全に蚊帳の外になっているようだった。
「テメェに言いたいことは沢山あるが今は一つ。『ムーンライトファミリー』なら負けてんじゃねぇ、死んでも勝て」
「……そう、だな。俺が馬鹿だったよ」
一方で兎組は実にハードボイルドなやりとりを行っており、ラビカポネの言葉に吹っ切れた様子を見せたラビーは【月喰龍】へと視線を戻す。
そこからは圧倒的だった。
『ムーンライトファミリー』総出による蹴りと銃弾の嵐は【月喰龍】を完封しており、まさしく何もさせなかった。
レイも微力ながらじゃしん爆弾で援護したりしていたのだが、残念ながら大したダメージになっていないうえ、寧ろ邪魔してるような気さえしていた。
「余計な事するのやめよ……でもこりゃ見てるだけで余裕かな――ってあれ?」
しばらくの間【月喰龍】を完全に圧倒していたラビカポネ達であったが、レイはその様子に違和感を抱き始める。
何度攻撃しても【月喰龍】が倒れる様子がないのだ。それどころかHPゲージを見ると、少しずつ回復しているようだった。
「ふ、ふはははは!甘いんですよぉ!いくら魔法陣を壊したところでここに漂っている瘴気がある限り付き【月喰龍】が完全に死ぬことなどありえません!まさに不滅ぅ!」
その様子を見たフードの男は勝ち誇ったかのように高笑いする。
「だめだ、決め手がねぇな……」
その後も全員で攻撃を続けたが一向に倒せる様子はなく、ラビカポネが代表して舌打ちをしながらぼやく。
「いや、完全に私の火力不足だね……」
足を引っ張ってしまっている状況を自覚し、さてどうしたものかと考えるレイだったが、不意にラビーの独り言が彼女の耳に入る。
「満月の夜だったら、俺一人で倒せるのによ……」
「は?」
その言葉にレイは耳を疑った。
[TOPIC]
OTHER【モンスターの種類】
『連れ歩き型モンスター』
・じゃしんのように常に召喚者と行動を共にする。
・MPなどの消費するものはないが、デスした場合、プレイヤーと同じようにリスポーンする
『召喚型モンスター』
・スキルの発動によってモンスターを召喚する。
・召喚獣に応じたMPが必要だが、MPが尽きない限り何度でも再召喚可能である。




