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7-40 嵐の前の騒乱


「さぁ、我らが神に供物を捧げよ!」


「迎え撃て!聖女様の名の許に全てを滅しろ!」


 クランバトルの開始が全プレイヤーに通達された瞬間、両軍のプレイヤーが一斉に動き出す。


 その様はさながら、飢えた獣。


 目の前に出された馳走に喰らい付くかのように飛び出した黒づくめの軍団は、己が獲物を手に一直線に本丸を目指し、銀の騎士がそれを遮るように立ちはだかる。


「隊列を崩すな!慌てなければ負ける要素はない!」


「こじ開けろ!数では勝ってる!」


 横一列に並んだ騎士の集団は、その手に白銀のランスを構えて切っ先を階段下に向けて迎え撃つ姿勢。


 対する覆面集団の武器は様々。


 遠近問わず、多種多様な武器を使用して攻撃を浴びせ、数の暴力で突破を試みる。


 人数差は圧倒的に【じゃしん教】が優っている。だが戦力差では僅かに【清心の祈り】に分があるようだった。


「う~ん、これでも数は減らせてるんですけどね~」


「私が出る?」


 攻めては倒され、寄せては引く波のように動く人混みを遠巻きに眺めつつ、ウサとスラミンは作戦を話しあう。


「そうですね~、こちらとしては短期決戦の方が――」


 一瞬見えた煌めきに、ウサとスラミンはその場から飛び退く。


 数秒後、騎士の壁の奥から跳躍した何者かによる剣閃によって、二人の立っていた場所に大きな切れ込みが入る。


「……まさか、そちらから飛び込んでくるとは思いませんでした~」


「そうか」


 剣を振り、感情の見えない声で呟くのは、【清心の祈り】の心臓ともいうべき男、トリス。


 その姿にスラミンが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる中、前に押し寄せていた【じゃしん教】の一部がその姿を捕らえる。


「頭だ!潰せ!」


「囲んで一斉にかかれ!」


「ッ、待――」


 見るからに浮いた駒を取ろうと、多くのプレイヤーが同時に襲い掛かる。


 それを冷めた目で見つめるトリスの行動は、たった一つ。


「……何故かと聞いたな。理由は簡単だ」


 一閃。


 手に持つロングソードを横に振り払えば、飛び出した剣から放出された閃光によってプレイヤー達の体が二つに分かれポリゴンに代わる。


 一瞬で五人がやられたことに、少なからず周囲が動揺を見せる中、トリスは努めて事務的に、不変の事実を告げるような口調で話す。


「――私一人で事足りる。ただ、それだけだ」


「……それはそれは」


 圧倒的自信に、それを裏付ける戦闘力。


 分かってはいたが、想像以上に厄介な相手だとスラミンが認識を改める中、一歩前に踏み出したウサが声を掛ける。


「スラ、二人で行こう」


「……了解です~。皆さん構えの事に集中して下さ~い! こちらは何とかしますので~!」


 相変わらずの無表情ではあったが、それがむしろ心強く感じ、スラミンは気持ちを入れ直す。


 対するトリスは雑念を振り払うように剣を鞘へ納めると、腰を低くしてウサへと視線を固定する。


「来い。もう一度力の差を分からせてやる」


「【しゃーくん】。【ハイドロビーム】」


 ウサの背後にいた【しゃーくん】による光線を皮切りに、第二ラウンドが幕を開ける。


 以前レイに見せた時と同様に、スキルを使用した【しゃーくん】を戻し、新たな【しゃーくん】を呼び出してはスキルを繰り返すウサ。


 降り注ぐ半永久的な光線の雨。ただトリスはいともたやすく、最小限の動きで避けてはウサに肉薄する。


「いいのか、前のデカい奴らは出さなくて?」


「手直し中。誰かさんに壊されたから」


「それは済まなかったな!」


 やがてその距離はトリスの射程圏内へと変わり、迷うことなく腰の剣を振り抜く。


 まごうことなき必殺の一撃。だが、それは突如目の前に現れた黒色のスライムによって阻まれる。


「……チッ」


 剣が触れた感覚がしなかったことで、トリスは咄嗟に剣を引いて後退する。


 物理攻撃――特に斬撃に強い類のモンスターなのだろう、恐らく自身の対策のために用意されたと仮定したトリスは、その厄介さに舌打ちをした上で対策を練る。


「スラ、ありがと」


「どういたしまして~。防御はコチラに任せて、火力全振りでお願いします~」


 一方で完全に役割分担に成功した二人は、考える間も与えないように攻めに徹する。


 飛び交う光線を避け、時には剣で逸らすなど、防御に徹し始めたトリスに対して、スラミンが挑発を試みる。


「ん」


「それにしても~。動きが悪くないですか~? もしかして、愛しの聖女様がこの場にいないからだったりして~?」


「……」


 探るような言葉に、トリスは沈黙を貫く。


 だが僅かに動いた目元をスラミンは見逃さなかったようで、ここぞとばかりに攻め立てる。


「あれれ~、図星ですか~?それじゃあこのまま押し切っちゃうかもですね~!」


 その言葉を合図に、トリスの背後に立つ三人のプレイヤー。


 それにトリスが気が付いた時には既に攻撃を開始しており、容赦のなくスキルが襲い掛かる。


「【忍法・火鳥風月】!」


「【エレメンタルスラッシュ】!」


「【竜王の息吹】!」


「【ハイドロビーム】」


 具現化した炎の鳥、七色に輝く斬撃、竜が放つ高温のブレスに高出力の水の光線。


 一つ一つが標準を超えた威力を持ち、すべてが間違いなくトリスに直撃する。


 立ち込める煙の中、半ば勝利を確信した面々は次第に判明する全貌の中、身じろぎ一つしていない人影を見て言葉を失う。


「――それがどうした?」


「おいおい、嘘だろ……」


「マジっすか……!?」


「最大火力だったんですけど……」


 視界が明けると、そこには傷一つない銀の鎧を纏うトリスの姿。


 少なからず全力で挑んだ筈が、全く手ごたえがなかったことにプレイヤー達が冷汗を垂らす中、トリスは不敵に笑って、剣を構える。


「お前の仮説の通り、俺の力が弱くなっているとしても、この前哨戦にすらお前達では勝てん。それくらい圧倒的な力の差があるということを、その身に刻んでやろう」


「これは、参りましたね~……」


 現状、敵は一人。


 だがその圧倒的な力を前に、スラミンの脳裏に敗北が過りながらも、決して諦めることはない。


 何故なら、自らが信じる少女と神が、いつものようにすべてを変えてくれる、そう信じているから。







 ――ただ、これはあくまでも前哨戦。


 有象無象の戦いなどとは比にならない、世界を変えうる怪物の胎動が、産声が、誕生が。


 【ラフィア大聖堂】という母胎の中で、虎視眈々とその時を待っていた。

[TOPIC]

SKILL【忍法・火鳥風月】

世にも珍しき火の鳥は、美しも激しく燃やし尽くす。

CT:300sec

効果①:火属性の魔法属性攻撃(50×<知識>×<技量> dmg)

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― 新着の感想 ―
[一言] ウサ「すまないと思っているなら修理費(または素材費)出して? トリス「ファッ!? 黒スラ「ふっ我が大胸筋の前にはそのような攻撃無力っ!(ムキッ スラミン「うん まぁ うん
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