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7-35 聖女の近衛騎士


「うふふ。ようやくお会い出来ました。ご案内してくれてありがとうございます」


 指先に止まったアゲハ蝶に向けて、『聖女』――シフォンがお礼とともに口づけをすると、紫色のアゲハ蝶は光となって消えていく。


 その一連の行動が絵画のように美しく、呆気に取られていたレイであったが、やがてハッとすると目を細めて睨みつける。


「それ、スキルだったんだね」


「はい、【幻惑の紫蝶】というスキルです。可愛いと思いませんか、ねぇじゃしんくん?」


「ぎゃ、ぎゃうぅ……」


 レイの問いかけに対し、返す刀で話を振られたじゃしんはバツが悪そうに口をもごもごさせる。


 その様子がおかしいのか、シフォンはニコニコと柔和な笑みを浮かべており、それにレイは少し不気味さを覚えつつ問いかけを続けた。


「それで、何しに来たの?」


「うふふ、わざわざ聞くんですね」


 だが、その問いかけに応答はない。むしろ意味深に笑みを深めるだけで、ますますその腹の内にある考えが読めず、レイの不信感は強まっていく。


 ――その時だった。


「『聖女』様、お待たせいたしました」


「いえ、私も今到着したところですよ」


「……は?」


 シフォンの背後、金属が擦れるような音を響かせながら現れたのは銀の甲冑を身に纏った騎士団。


 その先頭にいる男を視界に入れた途端、レイは目を見開いて震えた声を出す。


「なん、でここに……」


「それなりに手強い相手ではあった。まぁ、生産職としてはだが」


 なんてことはないという様子のトリスに、レイは今度こそ言葉を失う。


 ウサとは『ToY』の中でも付き合いが長く、その強さを十分に理解している。だからこそここまで早く決着がついた事が信じられず、同時に目の前のプレイヤーが今まで会ったプレイヤーの中でもトップクラスの力を有していると直感する。


「ぎゃう……」


 恐らく、このままぶつかっても勝てないであろう。それを理解しているのか、隣にいるじゃしんが不安そうな表情を浮かべている。


 しばしの長考を挟み、レイが出した結論は。


「……はぁ、降参。私の負けだね」


「ぎゃ、ぎゃうっ!?」


・レイちゃん?

・本気!?

・いやしょうがないよ


 両手を上げて降参のポーズを取ったレイがそう告げれば、そのらしくない態度にじゃしんはひどく驚いた様子を見せており、視聴者の多くも同様に驚きのコメントを残していたが、その中には決断に納得する声もあった。


「もう何処へでもついていくからさ、手荒な真似はやめてくれる?」


 レイの頭の中にあるのは、どうにか穏便にこの場をやり過ごすこと。


 ミーアとラフィアの物語は十中八九ワールドクエストであると仮定しているため、それの邪魔だけはされないことを最優先に、どうにかこの場を離れようと試みる。


「素晴らしい姿勢です。――ただ、もうその必要はありませんよ」


「え?」


 だが、その打算は脆く砕け散る。


 くすくすと手を口に当てて笑ったシフォンは、まるで幼子に言い聞かせるように優しく言葉を述べる。


「先ほど何しに来たかと、訊ねましたよね?」


「……それが?」


「端的に言えば、もう貴方のことはどうでもよくなったんですよ。それ以上の大物を見つけて、教皇様はそちらにご執心のようなのです」


「大、物……? ――まさか」


 心の底から楽しそうなシフォンの口から洩れる言葉。


 その単語にレイは眉を顰め、やがてその意味に辿り着くと、シフォンはゆっくりとレイ達の背後、ログハウスを指さす。


「えぇ、私達がお連れしたいのはラフィア様の方です」


 その名が出た瞬間、レイの背後から飛び出た白い蛇がシフォンに向かって襲い掛かる。だが、その蛇はシフォンに辿り着く直前でトリスによって掴まれ、一瞬でポリゴンに姿を変える。


「大丈夫ですか?」


「はい、ありがとうございます」


「ミーア!?なにして――」


「教会の手先め……! そんなことさせないわ!」


 突然の凶行にレイが慌てて振り返れば、そこには今まで見たことがないほどの憎悪を込めて睨みつけているミーアの姿。


 その尋常じゃない様子に一度落ち着かせようと声を掛けようとするが、レイ一人を置いて事態は彼女を置いて加速していく。


「ちょっと落ち着いて――」


「トリス」


「はっ」


 ミーアの言葉を宣戦布告と受け取ったのか、シフォンが短く名を呼ぶと、数いる騎士の中からただ一人、トリスがだけが一歩前に出る。


 それに対して対抗するようにミーアも一歩前に躍り出ると、敵意剥き出して声を張り上げた。


「ここで全員追い返すわ!レイ、じゃしん!手伝いなさい!」


「……やるしかないか!」


「ぎゃ、ぎゃう!」


 もはや自分の言葉で軌道修正できる段階ではないと悟ったレイは、諦めて銃を引き抜き、トリスと対峙する。


 見かけ上は三対一、だが少数側であるはずのトリスはゆっくりと余裕のある動作で剣を引き抜くと、その剣を掲げて口を開く。


「我が名はトリス!『聖女』シフォン様の最強の剣であり、最硬の盾なり! 完全なる勝利と永遠の栄光を捧げん!」


「……は?」


「……ぎゃう?」


 突然響き渡る謎の口上。それにレイとじゃしんが困惑する中、トリスの体が光り輝いたかと思うと、一瞬にして目の前に現れる。


「ぎゃうっ!?」


「前よりも……ってちょと待――!?」


 トリスはじゃしんに向けて剣を振るい、じゃしんごとレイを力技で吹き飛ばす。


 最初の攻防でいきなり二人離脱したことで、焦ったミーアは慌ててスキルの名前を口にする。


「レイ! っく、【白蛇の逆さ雨ホワイト・ストリーム・スネーク】!」


「ほう、面白い。――だが、弱いな」


「そんな……!?」


 ミーアが地面に手をつくと、大地から無数の白い蛇が飛び出してトリスに向かって襲い掛かる――が、まるで子蠅でも払うかのように手を振るい、剣すら使わずに白い蛇を吹き飛ばした。


「【属性付与・雷】!」


 そこへ、戦線に復帰した少女の声が響く。


 無防備に佇むトリスに放たれたのは、雷を纏った弾丸。だが今度はその場を動かないどころか、防御の素振りすら見せずに正面からその攻撃を受ける。


「……ノーダメはちょっとへこんじゃうんだけど?」


「いや、力の差があり過ぎるだけだ。気にすることはない」


 頭に直撃したはずが、微塵も変化した様子がないトリスにレイが疲れたように肩を落とせば、トリスは至って当たり前のことのように言葉を吐く。


「シフォン様の加護によって強化されているんだ。単純なステータス上昇だけでなく、HPと状態異常の自動回復までついているのだ、万が一にも負けんよ」


「……わざわざどーも。【聖女】のバフってわけね」


 心を折るためなのか、わざわざ口にした強化の内容にレイは舌打ち混じりに皮肉を口にする。その奥ではシフォンがレイとじゃしんの様子を見て微笑んでいるのがやけに癇に障った。


「悪いが、弱者をいたぶる趣味はない。手加減は出来んぞ」


 だがその感情を発散する間もなく、トリスが再び進軍を開始する。


 さながら象と蟻。強者による容赦のない蹂躙が始まった。


 


[TOPIC]

SKILL【白蛇の逆さ雨】

地の底より現れるは白蛇の群れ。その雨は悲しみではなく怒りの証。

CT:-

効果①:神聖属性の固定ダメージ(100dmg/one)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イビルのオソラトンデル!って対象レイだけだっけ いや対象敵にして適当に飛びまわせばhp0にならんかなて (発動中(嚙みついてる間)hpにダメージなかたけ) あでも複数人相手の時は意味な…
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