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1-23 月の光に激しく昂る⑧


「GYAOOOOOOOOO!!!!!!」


 【月喰龍】の咆哮で空気が振動し、大地が揺れる。


「……ねぇ、これ勝てるかな?」


「それでもやるしかねぇだろうよ!」


 あまりの力量差についつい弱音が零れるレイだったが、ラビーは自身を奮い立たせるように大きな声で叫ぶと一気に前方へ加速する。


「フッ!」


「GYA!?」


 10メートル近くある【月喰龍】の顔まで飛び上がると、右足で薙ぐように蹴り抜く。強烈な一撃が直撃した【月喰龍】はたまらず悲鳴を上げると、ずしんと地面に倒れこんだ。


「え、強いじゃん。これもしかして余裕?」


「いや、なんかおかしい」


 着地したラビーはバックステップでレイの隣まで下がると、違和感を覚えたのか眉間に皺を寄せて答える。


「おかしい?」


「あぁ、多分効いてねぇな」


「GRUUUU……!」


 砂埃が晴れた先では【月喰龍】がすでに起き上がっており、低いうなり声をあげながらこちらを睨みつけていた。その頭上にあるHPバーは確かに緑のままであり、僅かも減少していないことが窺える。

 

「無駄ですよぉ!あなた方ごときが月喰龍にダメージを与えることなどできません!」


 そう言うとローブの男が高笑いをする。


 それを見たラビーは悔しそうに顔を顰めたが、レイは腕を組むと少し考え始めた。


「ボス戦でダメージなしってことは負けイベ?可能性はなくはないけど正直低そう……となるとギミックボスの線で考えた方がいいかな」


 次の行動を決めたレイはよしと頷くとラビーに向かって話しかける。


「ラビー、次私が行ってくるね」


「は?おい!」


 制止の声を振り切って【月喰龍】の方に駆け出していくレイ。そのまま足元にたどり着くと懐から【撃鉄・因幡】を取り出して突き付ける。


「鬼さんこちらっと!」


「GYAOOO!!!」


 レイが一発だけ撃った弾は吸い込まれるように【月喰龍】の顔面に吸い込まれていく。


 当然ダメージにならない一撃ではあったが、それでもヘイトを買うには十分だったようで、【月喰龍】はレイに向かって襲いかかる。


「前足の攻撃は右手だけ、羽ばたきは腹下に入れば影響なし、のしかかりは左前足の前の脇の下が安地で、尻尾攻撃はジャンプじゃなくてしゃがむのが正解――」


 レイはぶつぶつと呟きながら危なげなく攻撃を躱していく。その何十時間もかけて研鑽された動きは、歴戦の猛者であるラビーの目をもってしても無駄がなく美しかった。


「うん、基本動作は【スカルドラゴン】と変わんないかな。体におかしなものも見当たらないから……ラビー!ちょっとヘルプ!」


 ある程度戦闘を行ったレイはラビーに対して救援を求めると、呆れたようにため息を吐きながらも、懐からレイの持っているものより一回り大きな拳銃を取り出して発砲する。


 ズドンッ!と大砲のような轟音を纏いながら放たれた弾丸は【月喰龍】の眉間にヒットし、大きくのけぞらせることに成功した。


「何その銃、私のより強くない?」


「特別仕様だからな――じゃなくて、何がしたかったんだ?」


 その間に戦線を離脱していたレイにラビーは問いかける。


「検証。もう一個調べたいとこがあるから次はアレの相手任せてもいい?」


「それは構わないが……」


 あまりピンと来ていないラビーだったが、レイはそれに構わず魔法陣に目を向ける。


 ぱっと見は違和感がないレイだったが、よく目を凝らしてみると六芒星となっている先に何か靄のようなものがあるのを感じた。


「あれかな?」


「何をっ!?」


 そこに対して銃を向けると、フードの男が焦った声を出したのが聞こえたため、レイは迷わずトリガーを引く。そして着弾と同時に靄が晴れ、隠されていたものが露わになった。


「はは~ん、この台座がギミックかぁ」


 思ったより分かりやすかったなと感じたレイはもう一度銃を放ち台座を完全に壊す。


「【月喰龍】!あの女を止めろ!」


「GAOOO!!!」


 あからさまに取り乱し始めたフードの男は慌てた様子で【月喰龍】に指令を出す。

 

「おいおい、無視しないでもらえるか?」


 だがそれは無惨にもラビーの手によって阻まれ、レイによって台座がどんどんと壊されていく。


「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!」


 フードの男の慟哭が響くが、レイは止まらない。やがて最後のひとつをレイが打ち抜くと、バキンッとガラスが割れるような音とともに魔法陣が消え【月喰龍】が苦しみだした。


「あぁぁぁ……よくもやってくれましたねぇ!万死に値するぞぉ!」


 その様子を見たローブの男は怒り狂い、唾を飛ばしながら叫びだした。それに対してレイは薄く笑みを浮かべながら飄々と返す。


「ようやく焦ってくれた?」


「殺す殺す殺す殺す殺すぅ!」


 レイの言葉にローブの男が咆哮する。それに合わせて、【月喰龍】は赤黒いオーラを纏い出した。


「発狂モード……」


 ポツリと呟いたレイはここからが本番だと言わんばかりに気を引き締め直す。何がきてもいいように半身になったレイに対して、【月喰龍】は口を開けると、高温度の熱光線となったブレスを発射した。


「はや――」


 【スカルドラゴン】の時にはなかった予想外の攻撃に反応が一瞬遅れ、レイは死を悟る。ただ、何秒経ってもその瞬間がレイに訪れることはなかった。


「よぉ、大丈夫、か……」


「ちょっと何やってッ!?」


 【月喰龍】のブレスが消えた後、レイの視界に入ってきたのは体中がポリゴン状態となり、今にも消えかかっているラビーの姿だった。


「なんでこんなこと……!」


「もう、目の前で誰かがいなくなるのを見たくねぇんだわ……」


 はははと自虐的に笑うラビーに対して、レイは怒りを滲ませると自身のアイテム欄をスクロールする。

 

「これで向こうでもあいつらに――「ちょっと静かにしてて!」」


「フハハハハハハァ!どうあがいても君た――「お前も黙ってろ!」」


 ラビーと男が何か言っているが、取り合っている余裕のないレイは全力でその言葉を遮る。


「【ポーション】――じゃ間に合わないか!?もういいや、これを使うしかない!」


 そう決意したレイは【満月印の養命酒】を取り出すと、今にも消えかかっているラビーに飲ませる。その瞬間、ラビーの体をポリゴンが覆うと元の姿に戻っていき、HPバーも全快していった。


「あぁ、懐かしい味だぜ……」


「ばか!」


 目を覚ましておどけるように言うラビーに、びしと手刀を入れるレイ。


「いった……!?」


「何格好つけてんの!?助かったのは素直にありがとうだけどそんなの望んでないから!」


 鬼気迫る様子で怒っているレイにラビーはきょとんとした顔をしたが、心当たりがあるのかやがてバツが悪そうな顔をする。


「え~と、悪かった?」


「うん、許す!……で、これからどうしようか?」


 レイの手を取って再び立ち上がったラビーだったが、状況は変わっていない。


「……無礼な奴等だ。まぁいい、今度こそ死ね」


「GUAAAAAA!!!」


 無感情になった男の声と【月喰龍】の咆哮が耳に届く。


「やる気満々って感じだね……」


「正直、あのブレスをなんとかするのは結構厳しいぞ」


 開始時と同じような状況、むしろ事態は悪化しており、流石のレイでも万事休すかとそう諦めかけた――まさにその時だった。


「ぎゃう!」


「やっと来た!」


 待ち望んでいた声が聞こえたレイは後ろを振り返る。


「よう、楽しそうなことしているじゃねぇか、ラビー」


「アニキ……!?」


 そこにはふよふよと浮いているじゃしんに『ムーンライトファミリー』の面々がいた。


[TOPIC]

MONSTER【月喰龍】

肉体を得た骨の龍は、飢えを満たすために咆哮する。彼にとっては空に浮かぶ月すらもただの餌。

獣魔種 固有スキル【瘴気再生】


《召喚条件》

【スカルドラゴンの魂】1つ、【聖獣の魂】2つで召喚

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[一言] じゃしん来たら終わったりしない?
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