7-31 おつかいついでに井戸端会議
不気味な獣の鳴き声が鳴り響く【へティス大森林】、そこへ一発の発砲音が響く。
「ギャッ!?」
[経験値を獲得しました]
「うーん、でないか」
放たれた弾丸は、額に一本の角を持つ狸のようなモンスター【アルラクーン】の額を貫き、一撃でポリゴンへと姿を変える。
一方で銃弾を放った犯人は生い茂る草むらに身を隠しつつ、目の前に表示されたウィンドウを見て肩を落としていた。
・残念
・まぁ多少はね
・ドロップ率20%とかだっけ
・戦い自体は苦戦しなさそう
「まぁ【スライム】とかと同レベル帯のモンスターだからね。今更苦戦することはないかな」
レイが経験値的にもおいしくない【アルラクーン】を狙う理由はただ一つ、【一角獣の直角】を手に入れるためである。
幸い【アルラクーン】は【へティス大森林】の至る所に生息しているため、目立つことなく狩りを行えているのだが、それに一人不満そうな表情を浮かべる者がいた。
「ぎゃう~」
「ちょっと、そんな顔しないでよ。万が一があるかもしれないじゃん」
レイの袖をくいっと引くと、『なんで俺連れて来られたん?』とでも言いたげに目を細めるじゃしん。
ただ、レイとしてももしプレイヤーとの戦闘になった場合の保険は必要なため、困ったように頬をかいた。
「そんな事より、さっきの話どう思った?」
・さっきの話って?
・【アルミラージ】のこと?
・レイちゃんの写真集2巻について?
「待って、何の話?それもめっちゃ気になるんだけど……ってそうじゃなくて」
じゃしんから話題を逸らすようにレイが視聴者へと問いかければ、何とも気になる単語が視界に映ってくる。ただ、それが訊ねたい本題ではなかったため、レイはぐっと堪えて話を戻す。
「ほらラフィアさんが言ってたこと。何か隠してる……のは間違いないと思うんだけどね。流石にあれだけじゃなぁ」
・あー
・確かにね
・確かに意味深ではあった
・もう一回聞いてみたら?
「聞くって言ったって誰に……あ、そっか」
簡単な作業の合間に雑談がてら始めた考察。レイとしては何かヒントが得られればラッキー程度の認識であったが、一人、有識者がいることを思い出した。
「呼ばれて飛び出て――」
「静かに。それからこれで【簡易召喚】よろしく」
「……了解でさァ」
ベルトを外した瞬間叫ぼうとしたイブルを制しつつ、レイはすぐにスキルの発動を命じる。
出鼻を挫かれ少し意気消沈したイブルだったが、その指示に従うように【未の紋章】を口にすると、彼女の目の前に魔法陣を出現させた。
「我が名はゴードン、全知全能の観測者――」
「だからうるさいってば。あと目立つからしゃがんで」
「理不尽なのである。だが、それもまた快感である」
紫電とともに現れたのは、【バベル】で出会った人型の羊のゴードンであった。
彼も登場と共に仰々しく名乗ろうとしたため、レイはすぐさま牽制を入れると時間を無駄にしないためにも本題へと入る。
「久しぶり。ゴードンをここに呼んだのは――」
「聞きたいことがあるのであろう。全て見ていた」
「――さすが、じゃあ遠慮なく。ゴードンってたしか千年前の英雄達と知り合いなんだよね?その中にいた『聖女』の名前ってわかる?」
「いかにも。彼女はラフィアと名乗っていた」
レイの質問に対し、ゴードンは淡々と頷いて答えてみせる。
「やっぱり。じゃああそこにいたのは同一人物ってことになるのかな」
「いいや、それは真実ではない」
ただ、その様子に仮説が間違っていないことをレイが確信しようとすると、すぐさま否定の言葉を口にした。
そのなんとも意味深な一言にレイは怪訝そうに目を細めて問い返す。
「どういうこと?」
「彼女は既に亡くなり、亡骸はとある場所に保管されている。故に我の知っている『聖女』はこの世にはもう存在しない」
「え?じゃああそこにいるラフィアさんは別人ってこと?」
「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える」
・は?
・何言ってんだコイツ
・哲学かな?
「ぎゃう~!」
だが、その質問に対する答えも要領を得ないモノであり、レイの考察を進めるどころか余計に混乱させてしまっていた。
当然視聴者も同様に脳内にクエスチョンマークを浮かべており、レイの隣ではそもそも興味がないのか、じゃしんが宙を舞う紫色のアゲハ蝶に目を輝かせていた。
「意味分かんないんだけど……」
「悪いが、観測者として答えを教えてやることはできないのである。ただ助言を出すのであれば、彼女は間違いなく『聖女』ラフィアである」
「はぁ?」
「大いに悩むと良い。その姿が我を興奮へと誘うのだ。あぁ、その苦悶に歪んだ表情何とも言い難い――」
「……イブル、さっさと送り返しちゃって」
「アイアイさァ」
これ以上得るものがないと感じたのか、気味の悪いことを口にし始めたゴードンを細めで見つめつつ、レイは送り返すようイブルに命令する。
今度はしっかりと小声で返事したイブルが、再び召喚を呼び出したタイミングで、ゴードンはレイの目を見てぽつりと呟く。
「何とも冷たい反応である。まぁ良い、では――過去に囚われたままの我が友人達を救ってやってくれ」
・今なんて?
・ちょっと待て
・気になる言葉残してったなぁ
「……してやられた。これじゃ謎が深まっただけだよ」
最後の最後に爆弾を落として消え去ったゴードンに悪態を付きつつ、レイは改めて入手した情報を精査する。
ただ思いつくものは妄想の域を出ないものばかりであり、やがて諦めるように顔を振って思考を切り替えた。
「まぁ分からないものを考えても仕方ないか。取り敢えずさっさとおつかい終わらせちゃおう」
・おけー
・それがいい
・まぁいずれ分るよ
そうしてレイは雑談を止めて狩りへと戻る。
【アルラクーン】を見つけては脳天に一発打ち込みポリゴンに変え、ウィンドウを見てはまた次の獲物を探す。
[経験値を獲得しました]
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[経験値を獲得しました]
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[経験値を獲得しました]
[レベルが上がりました。ステータスを確認してください]
「あ、レベル上がった」
・おめ~
・早いな
・森燃やしたお陰か
「……なんか素直に喜べないんだけど」
道中で複雑な感情を抱えつつも、それでも足を止めることなく作業すること約一時間。ようやくその時が訪れた。
[経験値を獲得しました]
[【一角獣の直角】を入手しました]
・お
・キター!
・やっと出たな
14体目の【アルラクーン】を撃破したタイミングで、念願のアイテムを入手した通知が目の前に現れる。
それを確認したレイはもう用はないと言わんばかりに足早に去ろうと――。
「よしゲット。さ、さっさと戻ろ……う……」
――したところで、いつの間にか一人になっている事に気が付く。
・ん?どうした?
・あれ?
・まさか……
・じゃしんは?
「あのバカ……!」
勝手に動くのはいつもの事、だが今回ばかりは状況が悪すぎる。
いつも以上に嫌な予感が過ったレイはすぐさま駆け出すと、迷子の捜索を開始した。
[TOPIC]
ITEM【一角獣の直角】
一角獣からとれる真っすぐな角。雌の方が長く、硬くて良質。
効果①:素材アイテム




