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7-30 魔女のお使い


「それって一体どういう……」


「なに、そのまんまの意味さ」


 突然の一言に硬直したレイが何とか絞り出した言葉を、ラフィアは口の端を歪ませながら笑い飛ばしてみせる。


「こんな老いぼれ、いつポックリいってもおかしくないだろう? お先なんて真っ暗さ。ひっひっひ」


「いや笑えないですよ?」


・何という自虐ネタ

・ブラックが過ぎる

・滅茶苦茶反応に困る奴な


 恐らくジョークのつもりだろう、ただいくらゲームの中と言っても流石に不謹慎過ぎたのか、レイは顔を歪ませ、視聴者からも非難とも取れる指摘コメントが流れ出す。


「そりゃ悪いね。でも、冗談で済まないからアンタに相談してるのさ」


「まだまだ元気に見えますけどね」


「おや、嬉しいこと言ってくれるじゃないかい。でもね、それはそう見えてるだけさ」


 それを受けてラフィアは軽く肩を竦める。ただ、そんな態度の中にも確かに悩んでいることはあるようで、愁いを帯びた表情を浮かべながら言葉を続ける。


「自分のことは自分が一番良く分かっている。宿る力もどんどん弱くなってるし、あの子の負担もどんどん大きくなっている」


・負担?

・そんなにか……

・ヤバい泣けてくる


「……それは抑えられないんですか?」


「無理さね。私にはどうしようもない」


 その言葉にレイが問い返せば、ラフィアは静かに首を振る。


 その様子が嘘には思えず、レイが押し黙ると、落ち込んだ空気を和らげるようにラフィアは声のトーンを上げた。


「という訳で。私がいなくなった後に彼女が一人で歩いて行けるように手助けをお願いするよ。あんたには懐いているようだし、これ以上なく適任さね」


「急にそんなこと言われても……」


「なに、ずっとそばにいてくれと頼んでいるわけじゃない。ミーアが立ち上がるフォローをしてくれないかい?」


 そうして、改めてラフィアは願いを口にする。


 だが、現在の状況とお願いとやらの内容が把握できていないため、レイは安請け合いをすることが出来ず、少し躊躇ってしまう気持ちが強かった。だが、そんな感情はラフィアの次の一手によって、いとも簡単に取り払われてしまう。


「頼む、年寄りからの一生のお願いだよ」


「……はぁ、重すぎますよ」


 これ以上ないくらいに真剣な表情で、レイの目を見つめるラフィア。その一言に抗う術がないことを悟ったレイは、恨みがましそうにその眼を見つめ返して返答する。


「分かりました。私にできる範囲であれば手伝いますよ」


「ひっひっひ、契約成立だね」


・これはずるい

・これが年の功か

・してやられたね


「はぁ、本当だよ」


 レイが肯定を返せば、ラフィアは嬉しそうにニヤつく。


 気付いた時には逃れられる状況ではなくなっていたことに、まるで狐につままれたような気分になりつつも、レイは具体的な内容について尋ねる。


「それで、具体的に何をすればいいんですか?」


「別に今すぐには――あぁ、そういえばあれがあったさね」


「あれ?」


 一度悩んだそぶりを見せたラフィアは、一つ思い出したかのようにレイにお願いを口にする。


「とある薬をを作りたくてね。その材料をお願いしてもいいかい?」


「材料……ちなみになんですか?」


「【曇りなき黒眼】【不可視の極糸】【一角獣の直角】の3つさ。なに、どれもこの森で採れる材料だよ」


・だっる……くない?

・それで作る薬とは……

・もしかして新アイテム!?


 提示された材料名は有名ではあるが、取得方法が高難易度の物も混ざっており、その使用方法も併せて視聴者達が沸き立つ。


 一方で、3つのアイテムの名前を耳にしたレイは少しの間思考すると、今後の算段を付けた上で一度大きく頷いた。


「分かりました。すぐ採ってきますね」


・え?

・無理じゃね

・位置バレするぞ


 当然視聴者からは心配の声が上がるが、レイはそれを踏まえた上で移動の準備を開始する。


「いや、多分大丈夫。【曇りなき黒眼】【不可視の極糸】は持ってるし、【一角獣の直角】くらいなら一瞬で採って来れるはず。それに、首を突っ込むと決めたならとことんやるしかないでしょ」


・何で持ってるん?

・タランチュラベアードとか倒してただろ

・難しいアイテムは集まってるのか


「よし、この情報が広まる前にさっさと行っちゃおう。おーいじゃしん! 仕事だよ!」


「ぎゃう?」


 視聴者の疑問に答えつつ、レイは自身の相棒の名前を呼べば、ミーアを抑えていた手を放しながら顔を上げて小首を傾げていた。


 それを手招きして呼び寄せつつ、レイは改めてラフィアへと一言告げる。


「じゃ、早速行ってきます」


「あぁよろしく頼んだよ」


「はい。あ、そうだ」


 振り返って歩き出したレイは、ふと思い出したように立ち止まると、もう一度ラフィアの顔を見て一つ尋ねる。


「ラフィアさんが邪神を倒した『聖女』ですか?」


・え?

・聞くんだ

・な、なんだって~!?


 それは先ほど飲み込んだ質問の一つ。


 掌の上で転がされていたことに対する意趣返しでもあるが、同時に首を突っ込むことになった以上、曖昧なままで終わらせる理由もなくなっていた。


 それに対する回答は。


「……さぁ、どうだろうね。ただここにいる私は聖女じゃない。強いて言うなら……魔女とでも思ってくれればいいよ」


「……なるほど。ありがとうございます」


 なんとも要領を得ない、人によっては誤魔化しているようにも感じる回答。勿論レイもその感想を抱いたが、わざわざそれを問い詰めたりはしない。


 その秘密はまた後で語られるのだろうと一人でに結論付けると、じゃしんを引き連れて森の中へと入っていった。


[TOPIC]

NPC【ラフィア】

【へティス大森林】に住まう自称魔女。その姿を見た者はほぼいない。

齢80近くの老婆であり、隣には常に白いワンピースの幼女の姿があり、彼女の世話をしているらしい。

【リヨッカ】の街に存在する【聖ラフィア大聖堂】との関連性は不明だが、大聖堂に飾られている肖像画に映る『聖女』の面影にどことなく似ているような気も……。


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[一言] 直球いいぞ~
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