7-28 ようじょVSじゃしん
「いい?ここに住むってことは私の下につくってことよ!いわば奴隷ね!」
「はぁ……」
人生初めての天敵に遭遇し、心に少なくない傷を負った白いワンピースの幼女が落ち着いた頃合いに、レイの目の前にやって来ては開口一番に放った言葉。
腕を組みふんぞり返り、遥か下から上から目線を繰り広げる姿に、レイは曖昧な返事を漏らす。
「アンタ、名前は?」
「私?えっとレイですけど……」
「レイね!あんたが一番マトモそうだから、基本的に貴方に指示を飛ばすことにするわ! まず第一にあの変態を私の傍に近づけないで!」
「変態……あぁ、ウサのことか」
最優先事項だと言わんばかりに告げられた指令は、天敵であるウサを何とかしろとのお達しであった。
恐らく、これが自身に近づいてきた原因なんだろうなとレイがぼんやりと考えている中、噂の人物がレイの背後から顔をのぞかせる。
「酷い。仲良くしよう?」
「ヒッ!?ほらレイ!あなたの仕事よ!何とかして!」
「はいはい。ウサ、悪いけどちょっと大人しくしててもらえる?」
「がーん……」
ウサを視界に入れた幼女は逃げるように距離を取ると、レイに向けて慌ただしく催促を飛ばす。
それに従うようにレイはから返事をすると、ウサに下がるように伝え、それを聞いたウサは肩を落としながらとぼとぼとレイ達から離れていく。
「べーだ!よくやったわ!褒めてあげる!」
「はぁ、ありがとうございます。えっと――」
「あぁ、自己紹介がまだだったわね!私のことはミーアと呼んで!」
「ミーアね、りょーかい」
ウサの背中にあっかんベーをしたミーアは満面の笑みでレイを褒め称えると、先んじて自身の名前を紹介する。
随分と早く懐かれたものだとレイは苦笑しつつ、ミーアに対して次の指令を求める。
「それで、他には何をすればいいの?ラフィアさんからは基本的にミーアの相手をしてあげてって言われてるんだけど」
「うーん、そうね。今は遊びたい気分だわ。何かいい案はない?」
「遊びかぁ」
二つ目の指令にレイは頭を悩ませる。
彼女にとって遊び=ゲームのことであり、自分より小さい子――しかも外で出来る遊びなどレパートリーはほぼ皆無に等しかった。だが。何もないなどと答える訳にもいかない。
「うーん、だるまさんが転んだ……とか……?」
「だるまさんが転んだ?何それ?」
そんな中、幼少の僅かな記憶を頼りに絞り出した単語に、ミーアが興味の色を示す。
ひとまず話は聞いてもらえそうな雰囲気にレイは安堵しつつ、ゲームの内容について説明すると、それを聞き終えたミーアの顔がぱぁと輝いた。
「良いじゃない!とっても面白そうだわ!今すぐやりましょう!」
「じゃあ私がオニをやりますね」
そうして開始することとなった二人ぼっちの『だるまさんが転んだ』。
レイは端にある木の前まで歩いていくと、一度振り返ってミーアに確認を取る。
「行きますよー?」
「いつでも大丈夫だわ!」
ミーアも定位置についていたようで、元気のいい反応が返ってくる。それを聞いたレイは改めて木の方へと顔を向け、お決まりの言葉を口にする。
「だーるーまーさーんーがー……ころんだ!」
「ふっ!」
「あの、今動いて――」
「動いてないわ!」
振り返った瞬間、ミーアの体に急ブレーキがかかったかと思えば、トテトテと二歩ほど足踏みをする。
ただそれを指摘しても決して認めることはない様子のため、レイは諦めたようにため息を零して顔を戻す。
「……そうですか。だるまさんが――」
その後もいくら動こうとも何のペナルティもない、明らかに接待感満載の『だるまさんが転んだ』を行い、遂にミーアはレイの下に辿り着く。
「タッチ!私の勝ちね!」
「イヤァ、オツヨイデスネー」
背中を触られたことでレイが振り返れば、目の前には嬉しそうに飛び跳ねるミーアの姿。またそれだけに留まらなかったようで、レイの服を引っ張ると再戦を催促する。
「楽しいわ!ねぇレイ、もう一回!」
「はいはい、じゃあまた離れて――」
「ぎゃう~」
だがそこに待ったをかけるように割り込んでくる人物――もとい、神の姿があった。
「……なによ?何か言いたい事でも?」
「ぎゃうぎゃ~う」
訝し気に目を細めたミーアに何やら意味深に鳴いて見せたじゃしん。それを聞いたミーアは驚愕に目を見開く。
「何ですって!?レイ、貴方まさか忖度していたの!?」
「えっ」
その一言はレイにとっても同様だったようで、『なんでわざわざそれをいうの?』と『むしろ気付いていなかったの?』という感情で半々になる。
ただ、当の本人達はそんな心情知らぬと言わんばかりに舌戦を繰り広げていた。
「ぎゃう!ぎゃうぎゃ~う!」
「くっ、そこまで言うなら勝負よ!私と貴方、どちらが先にオニに辿り着けるか!」
「ぎゃう!」
ミーアの売り言葉に『望むところだ!』とでもいうようなじゃしんの買い言葉。
こうして幼女とじゃしんによるまさかのマッチアップが決定したわけだが、それに巻き込まれる形のレイはどこか達観した表情を浮かべながら木へと向かう。
「……いくよ~。だるまさんが……ころんだ!」
「ぎゃうっ」
「くっ……なかなかやるわね」
レイが振り返ると同時に、ミーアとじゃしんの動きがぴたりと止まる。
先に経験していたミーアはともかくじゃしんも思ったより機敏な動きを見せており、お互いが『やるなお前』といった視線を向け合っている。
「だるまさんが……ころんだ!」
そして、二回目のコール。
変わらず二人が動きを止める――と思いきや、ここでミーアが仕掛ける。
「今よ!」
「ぎゃうぁ!?」
「なにあれ、白い蛇?」
ミーアの被っている大きな帽子の隙間から小さな白い蛇が出たと思えば、一人でに動き出してじゃしんのお尻へと噛みつく。
突然走った鋭い痛みにじゃしんが跳びあがると、オニの首を取ったかのようにあくどい笑みを浮かべる。
「動いたわね!さぁ戻ってやり直しなさい!」
「ぎゃう!ぎゃうぎゃう!」
「ふん、負け犬の遠吠えね!さぁレイ!はやく次のコールをしなさい!」
反則すれすれの行動をじゃしんが非難するも、ミーアは知ったことかと言わんばかりに次を要求し、もう面倒になってきたレイはそれに従うようにコールを始める。
「はいはい……。だるまさんが……ころんだ」
「ふ、この勝負貰った――」
「ぎゃ~う~!」
「痛ぁ!?」
鳴り響く3回目のコール。
もはや覆せまいとミーアが勝ち誇っていると、コールが終わった後もなお動き続けていたじゃしんがミーアの背中へと突撃する。
「ちょっと、何するのよ!」
「ぎゃう~」
倒れ込んだミーアが声を荒げれば、『いやぁ悪いね』と言うように謝罪のポーズをするじゃしん。だがその眼は全く悪びれておらず、余計にミーアの神経を逆撫でる。
もはや嫌がらせとも取れる行動にミーアは馬鹿にするような言葉を投げかけるも――。
「全く野蛮ね。暴力を振るった所で――」
「あ、二人とも動いたから下がってね~」
「何ですって!?」
「ぎゃうっ!」
その瞬間、オニ兼審判でもあるレイからやり直しとの通知が飛び、一方は目を見開き、もう一方はガッツポーズをして見せる。
そこでようやく、一連のじゃしんの行動の意図を理解したミーアは悔しそうに顔を歪ませた。
「ちょっとずるでしょ今の!」
「ぎゃうぎゃう!」
「……あぁ、平和だなぁ」
そうして始まるなんとも醜い言い争い。
そんな二人の様子にレイは、ついつい自身を取り巻く状況を忘れるかのように雲一つない青空を見上げていた。
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OTHER【ミーアが着た服一覧】
・ゴシックドレス
・体操服
・黄色帽子+スモック
・スク水
※すべて撮影済み




