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7-26 ぅゎょぅι゛ょっょぃ


「なんだろうあの子……?じゃしん、またなんかやらかした?」


「ぎゃうっ!?ぎゃうぎゃう!」


「いやいや、私だって初めて会ったもん」


爬虫類のような大きな瞳は鋭く歪み、親の仇を見るかのように眉間に皺を寄せる少女。


 それに対してまったく心当たりのないレイとじゃしんがひそひそと責任の所在を押し付け合っていると、不意に少女は背中を向けて去っていく。


「あ、いなくなっちゃった」


「レイ、追いかけよう」


「え?」


 その後ろ姿を呆然と見送ったレイに、ウサが少し焦ったような様子で声を掛ける。


「もしかしたらプレイヤーかもしれない。位置がバレる可能性がある」


「いや、それはどうかなぁ……」


 確かに可能性としてはなくなないが、レイとしては襲ってこなかった以上、その可能性は低いと感じていた。


 それよりも手元にある【道なき道のコンパス】の影響か、もっと別のイベントだと今までの経験が告げているようだった。


「でもさ、もしプレイヤーなら追うのは危険じゃない?罠かもしれないし、さっさと離れたほうがいいんじゃ――」


「意味はある。とにかく行こう」


「……まぁそこまで言うなら」


 一応口にした正論も、やけに頑ななウサによって却下される。


 そのことに不審そうな目を向けつつも、先ほどの少女が気になるレイはその言葉に頷く――が、そんな二人に待ったをかける者がいた。


「ぎゃ、ぎゃう!ぎゃうぎゃう!」


「そうですよぉ!キャンプはどうなるんですかィ!?」


 それはキャンプの魔力に取り込まれてしまった二人組であり、危機を感じ取ったのかギャーギャーと喧しく騒ぎ立てる。……だが。


「また今度。片付けて」


「ぎゃ、ぎゃう……」


「そ、そんなァ……」


 主催者であるウサが一考の余地もなくピシャリと言い捨てると、犬と猫のぬいぐるみがてきぱきと片づけを始める。


 それを見ていることしかできない二人は、やがて地面に手をついて項垂れ、さめざめと泣き始める。


「さ、行こう」


「あ、うん……」


 ただ、そんなこと知った事ではないと言わんばかりにウサは先ほど少女がいた方向に向かって歩き始める。


 そのあまりにも容赦がない姿にどこか鬼気迫るものを感じたレイは、彼女の内心が分からず首を捻る。


「……ま、いつものことか。ほら、行くよ二人とも」


「ぎゃうぅ……」


「お肉……」


 とはいえ考えても答えは出なかったようで、レイは未だに落ち込む二人に声を掛けると、ウサの背中を小走りで追いかけた。


「えーっと、これに従えばいいのかな?」


「そう思う」


 先ほど少女が立っていた場所に辿り着いたレイ達はぐるりと周囲を見渡し、その姿が見えないことを確認すると、手元にあるコンパスへと視線を落とす。


 恐らくこれが彼女に続くキーアイテムだろうと結論付けた二人は、真っすぐとその針が示す方に向けて進んでいく。


『タチサレ……タチサレ……』


「ん?なんか声が……」


「可愛い」


 しばらく歩いたところで、どこからともなく舌足らずな可愛らしい少女の声が耳に届いた。


『コレイジョウハユルサヌ……ソッコクタチサレ……』


 その内容は警告を促すものであったが、いかんせん声が可愛すぎるため、恐ろしさが微塵も感じられない。もっとも、相手が相手なためどの道通用していないと思われるが。


「ふむ、だってさ。どうする?」


「もちろん、決まっている」


「まぁ、だよね」


 声が聞こえた時点でこの道が正解だと確信した二人は、互いに頷き合うと、一切の迷いなく再び歩を進めだす。


『タチサレ……タチサレ……』


 その間も声は聞こえてくるが――。


『タチサレ……ハナシヲキケ……!』


 さながらBGMであるかのように二人は聞き流し――。


『トマレ……!ホントウニオコルゾ……!』


 そんな二人の様子に少女の声は焦りを纏い始め――。


『サイゴノチャンスダゾ……!イマスグヒキカエセ……!ヒキカエシテヨ……!』


 やがて懇願ともとれるような、涙声へと変わる。


『モウシラナイカラナ……!ナイテモユルシテヤラナイゾ……!』


 そして、負け惜しみのような言葉を最後に少女の声は聞こえなくなる。


 もはや恐怖どころか聞こえなくなったことに名残惜しさを感じつつ、レイ達はコンパスの指す方向へと進んでいくと、木々のない少し開けた空間へと辿り着いた。


「レイ、あれ」


「家だね。あれを守ってたのかな」


 その中心部分にはポツリと木で出来たログハウスが一軒だけ建っていた。


 レイ達は唯一の手掛かりの下へと進むと、その扉を数回叩く。


「すいませーん!誰かいませんかー?……反応はないね」


 敵対する意思はない事を示すために挨拶をするも、中から返事はない。


 どうしたものかと悩みつつドアノブに手を掛ければ、何の抵抗もなくくるりと回転して扉が奥へと開いていった。


「あ、鍵かかってないね」


「入ろう」


「まぁ、それしかないか。お邪魔しま――」


「そこまでよ!」


 少し申し訳ないなと思いながらもレイが家の中に入ろうとした瞬間、屋根の上より可愛らしい声と何かが跳躍する音が響く。


「ぎゃうっ!?」


「じゃ、じゃしん様!?」


 大の字になってボディプレスを仕掛けた少女はそのままじゃしんの上へと覆いかぶさり、じゃしん諸共ごろごろと地面を転がると、仰向けになったじゃしんを両手で捕まえる。


「このっこのっ!悪しき者はこの私が成敗するわ!」


「ぎゃうっ!?ぎゃう~!」


 向かってくる小さな手に対して当然じゃしんも抵抗を試みており、両手からするりと抜け出すと。隙を見て少女の顎へと渾身の頭突きを喰らわせる。


「いたっ――くない?なんにせよチャンスだわ!」


「ぎゃう~!?」


 だが悲しい哉。その唯一無二のスキルの影響か、少女に一切のダメージもなく、多少怯んだだけで終わってしまったようだった。


 そのお返しと言わんばかりに再び伸びてきた手に、随分と呆気なく掴まってしまったじゃしんは、『どうしてこんなことに……』と言わんばかりに項垂れる。


「ぎゃ、ぎゃうぅ……」


「ふぅ……ふぅ……。私の勝ちね!聖女の力を思い知ったかしら!」


「聖女……?」


 両手でがっしりと捕まえた獲物(じゃしん)を掲げて高々と空に掲げる少女。そんな彼女が放った一言にレイが疑問符を浮かべると、その大きなエメラルドの瞳がレイ達を向く。


「貴方達もこうなりたくないったらさっさと消えなさい!」


「いや、別に戦いたいわけじゃ――」


「見つけた」


 今のやり取りを見て、戦闘する意義がないと感じ取ったレイは両手を上げて降伏の意志を示す……のだが、隣にいたウサは何やら不穏な事を一言呟く。


「ウ、ウサ?」


「な、なに?目が怖いわよ……」


 その異様な雰囲気にレイと少女が警戒する中、ウサはアイテムポーチに手を入れると、とあるアイテムを天高く掲げて見せる。


「これを着て欲しい。大丈夫、怖くない」


「あー……」


 それはウサの来ている服に似た、真っ黒のゴシックドレスであった。


 鼻息荒く興奮した様子でじりじりと詰め寄ろうとするウサに、ようやくレイは合点がいく。


「なにっ!?こ、来ないで!」


「大丈夫、優しくする」


「や、やだぁ!」


「ぎゃ~う~!?」


 近づいてくるウサに対して身の危険を感じ取ったのか、少女はじゃしんを放り投げると、一目散に逃げていく。


「待って」


「よっと。まぁ、ほどほどにね」


「ぎゃう~……」


 飛んできたじゃしんを受け止めたレイは、その背中を追いかけるウサへと注意を促す。その胸元ではじゃしんが『えらい目に合った』とでも言いたげにぐったりと脱力していた。

[TOPIC]

OTHER【謎の幼女】

【へティス大森林】に現れた白いワンピースに大きな鍔の帽子を被った幼女。

身長130cmほど、腰まで届く金髪にエメラルドの大きな瞳が特徴的。

なにやら聖女と縁があるらしく、その強さはじゃしんさえも容易に封印してしまうほど。っょぃ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり幼女は最高だぜ!(定型文
[一言] 聖女がどういう事かは置いといて・・・ 被害者の予感!!(集中線)
[一言]  緑◯光「かわいい!」
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