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7-20 想定外もチャンスに変えて


「お、おい!あれって【怪演のアラクネー】じゃ!?」


「なんでこんな所にユニークモンスターが!?」


「ミナちゃん、下がって!」


『うふふふふっ』


 目の前に現れた禍々しい雰囲気を持つモンスターに、ミナと愉快な仲間達は驚きの声を漏らす。


 だが、そんな中でも彼らの動きは一貫しており、素早くミナを守るように前に出れば、即座に攻撃を開始する。


「【灼熱斬】!」


「【五月雨火炎突】!」


「【火竜の息吹】!」


 恐らく、予め情報を持っていたのだろう。


 各々のプレイヤーが火属性を持つスキルを放てば、【怪演のアラクネー】の目の前にあった見えない()は消え去った。


『……チッ』


 だが、当然その行動は彼女の逆鱗に触れる。


 いつものように舌打ちを鳴らすと、周囲から無数の子蜘蛛が出現し、彼らを取り囲む。


「きゃあっ!? なにこれ気持ち悪いっ!」


「だ、大丈夫だから! 落ち着いて!」


「おいっ、来るぞ!」


 混乱を極める状況の中、それでも必死に陣形を作り上げ、熟練のプレイヤー達は一心不乱に向かってくる【タランチュラベアード】を迎撃する。


「……あれ?これもしかしてチャンス?」


 そんな中、何故か蚊帳の外となったレイがポツリと呟く。


・全然ヘイト向いてないな

・本当だ

・でもこんなんでいいの?


「そうなんだよなぁ。できれば1人で勝ちたいんだけど……」


 視聴者の声に、レイは腕を組み考える。


 確かに今であれば、誰にも邪魔されることなく【怪演のアラクネー】と戦える。だがそれは当初の目的である『自身のスキルアップ』には反することであった。


「……いいや、とりあえず練習の機会をもらったってことにしよう。最悪、もう一回やればいいし。じゃしんいくよ!」


「ぎゃ、ぎゃうっ!」


 幾許か悩んだ末に、レイは戦うことを決めたようだった。


 じゃしんに一言声をかけつつ、ゆっくりと歩きながら【怪演のアラクネー】に近づけば、リスナーから質問の声が聞こえてくる。


・近づいて大丈夫なの?

・また見えない糸にやられるんじゃ……

・もう首チョンパされるの見たくないぞ


「大丈夫、もうそれはしてこないから」


 前回、テリトリーに入った途端、瞬殺されたのを思い出した視聴者が心配の声を上げると、そんなこと百も承知と言わんばかりにレイは解説を挟む。


「火属性の攻撃を喰らった後は、もう一度燃やされるのを嫌って糸の性質を変えるんだよ。ほら、見えるようになってるでしょ?」


・本当だ

・見えるっちゃ見えるけど……

・え?本当に見えてる?


 そう言って指さした先には、きらりと光る一本の糸。


 耐火性を上げた代わりに見えやすくなった……とは言うが、画面越しでは目を凝らしてようやく見えるほどの些細な変化。


 ただ、戦闘強者(レイ)にとってはその変化だけで十分だったようだ。


「見えてる見えてる。その代わり炎で燃えなくなるみたいだけど――ねっ」


 警戒するまでもないと言わんばかりに軽い足取りで前に進むレイは、遂に【怪演のアラクネー】のテリトリーへと侵入する。


 瞬間、振るわれた糸で出来た白剣を仰け反って躱すと、お返しと言わんばかりに銃を引き抜いて発砲する。


『……うっとうしい』


「それはお互い様だよ!」


 言葉通りにイラついて顔を顰める【怪演のアラクネー】に対して、レイは不敵に笑う。


 張り巡らされた()を躱し、剣を避け、隙だらけの体に銃弾を撃ち込む。


 およそ危なげない試合展開で有利に戦闘を進めていると、背後からはもはや聞きなれたもう一体のモンスターの鳴き声が響く。


「グラァ!」


「おっと、それは不味いね」


 それは二体目の【タランチュラベアード】であった。


 普段であれば、一度距離を開けて体勢を立て直すところだが、今回ばかりは事情が異なっている。


「おーい、おかわりね!こいつの相手もよろしく!」


「は!?」


 距離を開けるところまでは同じ。ただ向かう先は、現在進行形で一体目の【タランチュラベアード】と戦っているミナ達の下。


 押し付ける形でその場所へと突っ込めば、彼らも迎撃せざるを得ないようで、二体目の【タランチュラベアード】へと攻撃を開始する。


 そうしてヘイトが外れたレイは、しれっとその場を離れ、再び【怪演のアラクネー】の前へと立つ。


『……チッ』


「ふぅ、おまたせ。続きやろうか?」


 再び舌打ちを漏らした【怪演のアラクネー】に、レイは挑発するようにニヤリと笑って見せる。それを見て、【怪演のアラクネー】は更に顔を歪めた。


 一番厄介な糸の攻撃も、邪魔をしてくる二体の【タランチュラベアード】も封じている。


 最早、ここまでくれば力と力のぶつかり合い。純粋な強者を決める戦いが始まろうとしていた。


『しんで!』 


「それは無理な相談かなっ!」


 そして、その条件であれば、『きょうじん』の右に出る者など存在しないのだ。


 糸の剣をもう一本増やし、両手に持って滅茶苦茶に振り回す【怪演のアラクネー】の攻撃を、レイは最小限の動きで躱す。


「ぎゃう~」


 それはもはや、親と子のプロレスごっこのような、戦いと呼べるかも怪しい一方的なものとなっていた。


 近くではじゃしんが『これすることないなぁ』とでも言いたげに傍観しているが、その余裕があるくらいにはレイが圧倒している。


「【属性付与・氷】」


『いやだ!やめて!』


 時には、氷を纏った弾丸で【怪演のアラクネー】の腕を凍らし――。


「【属性付与・雷】」


『いたい!なんでそんなことするのっ!』


 雷を纏った弾丸で全身を痺れさせ――。


「【属性付与・炎】」


『ひどい……ひどいよ……』


 糸には効果がなくなったとはいえ、弱点であることには変わりない炎の弾丸を顔に直撃させる。


 そんな多彩な攻撃の前に、【怪演のアラクネー】のHPはみるみると減少していく。


 漏らす声は弱気なものへと変わっていき、音声だけであれば弱い者イジメのようにも映るが、そんな声に惑わされることなく、レイは攻撃を浴びせ続ける。


・容赦なくて草

・タイマンなら余裕そう

・あとはあのクマ共をどうするかだな


「まだだよ、【怪演のアラクネー】にはアレがあるから」


 コメント欄も既に勝利ムードをを漂わせており、レイの勝ちを一切疑っていないようだった。 


 ただ、そんな中でもレイは何かを警戒するように【怪演のアラクネー】へと鋭い視線を向ける。


『……い』


 そして、その警戒が正しかったと言わんばかりに、【怪演のアラクネー】に変化が訪れる。


 両手から剣を放し、代わりに顔を覆って俯いたかと思えば、ぶつぶつと呟き始める。


『うざいうざいうざいうざいうざい――』


 その声は次第に大きく、勢いをまして怨嗟へと変わる。


 頭上のHPゲージは残り僅か。最終最後、この戦いの大一番が始まろうとしていた。


[TOPIC]

SKILL【灼熱斬】

全てを切り伏せる剣豪の一閃は、灼熱すらも分断する。

CT:30sec

効果①:炎属性の大ダメージ(<腕力>+<知識>/2dmg)

取得方法:【剣豪】Lv3


SKILL【イフリートスピア】

その一撃は神の怒り。後悔と懺悔と共に灰となれ。

CT:120sec

効果①:炎属性の極大ダメージ(<腕力>+<知識>×3dmg)

取得方法:【暗黒騎士】Lv15


SKILL【火竜の息吹】

龍へと成る第一歩。それは『できる』と思い込むことだ。

CT:90sec

効果①:炎属性の固定ダメージ(300dmg)

取得方法:【酔拳家】Lv3

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