7-17 怪物の正体
「これで終わりだぁ!」
「グ、グルルァ……」
一方的に叩き込まれた弾丸によって、【タランチュラベアード】は力なく地面に倒れ伏す。
それと同時に、レイの目の前にはウィンドウが浮かび上がった。
[ITEM【曇りなき黒眼】を入手しました]
[WEAPON【熊手八爪拳】を入手いたしました]
[経験値を獲得いたしました]
「ふっ、儚い命だった……」
「ぎゃう……」
・なんていうか……その……
・おめでとう、でいいのか?
・素直に祝えないんだが
手に入れたアイテムの名前と、ポリゴンとなって消えていく【タランチュラベアード】を見つつ、レイは勝利の余韻に酔いしれる。
ただ一部始終を見ていたじゃしんと視聴者としては、なんとも言えないもどかしい感情を抱いており、【タランチュラベアード】に同情までしているようだった。
「いや、勝てば官軍って言うでしょ? この世は弱肉強食だよ」
しかし、そんな声もレイには届かない。
まったく悪びれる様子もなく、むしろ『弱点を持っている方が悪い』と言わんばかりの態度で、じっと【タランチュラベアード】がいた場所を注視していた。
「うーん、ダメか。まぁ一発で来るとは思ってないし……」
・ん?どういうこと?
・終わりじゃないの?
・まぁそれ狙いだろうな
「あぁ、そっか。知らない人もいるのか」
そんな中、意味深に呟かれたレイの一言に視聴者が反応する。
その声にレイは少し驚いた様子を見せつつも、その内容に軽く説明を口にする。
「実は【タランチュラベアード】にはもう一つの形態があってね。撃破後1%の確率で出現するそのユニークモンスターが目当てなんだよ」
・1%!?
・低っ
・なるほどね
「ちなみに『聖女』達が動画でやってたのがそのユニークモンスターね。折角なら見てみたいし、何なら時間もあるわけだし。粘ってみるのもありかな……」
「ぎゃ、ぎゃうっ!?」
視聴者に説明しつつ、レイは少し悩んだ素振りを見せる。
それに気が付いたじゃしんは、強烈な嫌な予感を覚えたのか、慌ててレイに『それ以上はいけない!』と詰め寄ろうとする……も、その目に映った表情はもはや決定事項と言わんばかりのしたり顔をしていた。
「よし、レッツ周回!経験値もうまいし、稼ぐぞ~!」
「ぎゃ、ぎゃう……」
爛々と目を輝かせ、腕を上げてそう宣言したレイは、早速ハチミツを取り出して準備に取り掛かる。その横では、じゃしんの伸ばした手が空しく空をきっていた。
◆
ビーッ
「あー、タイムリミットか」
「グルルァ!!!」
眼下で暴れる【タランチュラベアード】に対し、レイは暢気にも聞こえてきたアラーム音に反応を示す。
「うーん、これ終わったら一回帰ろうかな。【属性付与・氷】っと」
「グ、グル……!」
とはいえしっかりとやることはやっているようであった。
現在進行形で【タランチュラベアード】を一方的に攻撃し続けており、その動きはかなり洗練されてきている。
・了解
・って事はこれがラストか
・出ますように
「個人的にはまだ出なくてもいいかな~、なんてね」
「グルァ!?」
視聴者も視聴者でこの光景に慣れてきているようで、額に弾丸を打ち込まれ、またしても地面に落下した【タランチュラベアード】を見ても反応すら示さなくなっていた。
「じゃし~ん!これで終わるからそろそろ起きて!」
「ぎゃう……」
それはじゃしんも同じだったようで、レイの呼び声と共に暢気に目をこすっている。
どうやら暇を持て余した結果、木の枝の上で眠っていたらしい。あれだけ【タランチュラベアード】にビビっていたのが嘘のようであった。
「さて、んじゃさっさと終わらせますか」
「グ、グルルァ!」
その宣言の通り、レイによる攻撃は圧を増す。
単純に発射速度が上がっただけでなく、的確に【タランチュラベアード】の弱点である複眼に弾丸を当てていき、怯ませ、弱らせていく。
そうして、今までと同様にだんだんと動きが緩慢になった【タランチュラベアード】は、最後に弱弱しく一鳴きを上げた後、地面に倒れ伏していった。
[ITEM【曇りなき黒眼】を入手しました]
[WEAPON【熊手八爪拳】を入手いたしました]
[経験値を獲得いたしました]
・おつ
・はいはい、GGっと
・同じ戦利品ばっかだね
「そうだね、これどうしようか……」
もはやおざなりとなった労いの言葉だったが、レイも同様の感情なのか、特に感慨もなさそうにアイテム欄を開く。
ITEM【曇りなき黒眼】
真珠のように鈍く光る黒い眼球。上質な薬の素材になるらしい。
効果①:MP回復(100固定)
効果②:【幻覚】付与
所持数:18
WEAPON【熊手八爪拳】
振るう拳は二つに別れ、されど威力は二倍に留まらず。
要求値:<腕力>300over
変化値:-
効果①:攻撃ヒット数増加(+1)
所持数:7
そこにあったのは、手に入れた戦利品の詳細であった。
一見おかしくなさそうではあるが、周回の影響でその数はやり過ぎたと感じるくらいには増えている。
「結局使い道がないんだよなぁ……。まぁ最悪売ればいいか。そんなことより、これがラストだけど……」
「ぎゃう~?」
恐らく持て余すことになるだろうアイテムについて、一旦考えることを辞めたレイは、本来の目的である【タランチュラベアード】の最後へと半ば祈るように注目する。
その隣ではじゃしんが『どうせ来ないんだろ?』とでも言いたげに目を細めていたが――今回ばかりは少し様子が違っていた。
「おっ」
「……ぎゃう?」
・なんだなんだ?
・キターーー
・ラストで来るとは……流石レイちゃん持ってるな
今までポリゴンとなって消えていた【タランチュラベアード】の死体の背が、突然縦にぱっくりと裂ける。
さながら着ぐるみでも脱ぐかのような光景ではあるが、そこから現れたのは、巨大な蜘蛛の体に女性の上半身が繋がっているキメラのようなモンスター。
「【怪演のアラクネー】、対戦よろしくお願いします」
その姿を見たレイは律儀に挨拶をしつつ、不敵な笑みを零す。それに対して【怪演のアラクネー】は優雅に微笑みを浮かべていた。
[TOPIC]
MONSTER【タランチュラベアード】
それは獣ではない、何者かが擬態しているだけだ。なら、その正体は?
昆虫種/獣蜘蛛系統。固有スキル【偽装】。
≪進化経路≫
<★>トビハネグモ
<★★>ウィングスパイダー
<★★★>ゼブラアイズ
<★★★★>ブラックスピン
<★★★★★>タランチュラベアード




