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7-14 解散という名の始動


【れいちゃんねる】

【第19回 今日は一人です】


「やっほー」


「ぎゃうっ」


・待ってた

・おつ

・やっほー


 『聖女』との邂逅を経た翌日。


 配信開始と共にレイが間の抜けた声を出せば、同等のテンションでコメントが返ってくる。


・何その格好

・これがじゃしんか

・お、初めてか?力抜けよ

・新規だ!囲め!


 ただ、今回に限っては少し変化があるようだった。


 コメントの三割くらいがレイの怪しげな格好や、その横でクッキーを齧っているじゃしんに言及するものとなっており、そのことを認識したレイは感慨深げにコメント欄を眺める。


「お、初見さんいらっしゃい。いやぁ、随分と人増えたね」


・そりゃそうよ

・配信者じゃもう上位層じゃね?

・これで4ヶ月しか経ってないんだもんなぁ


「いや、本当だよ。みんなありがとね。これからの人もよろしく」


・こちらこそ

・いっつも楽しませてもらってます!

・しょうがないにゃあ


「ぎゃうっ!」


 多くの事があった『ToY』での自分を想起しつつ、ふと改めて感謝の言葉を口にすれば、返ってきたのはそれ以上の熱量がこもった頼もしい声。


 怒涛の勢いで流れるコメント欄を前に、レイが少し照れ臭い気持ちを感じていると、隣にいたじゃしんが『仲間外れにするな!』とでも言うようにレイの肩に乗っかった。


「もちろん、じゃしんもだよ」


「ぎゃう~」


 その頭を撫でてやれば、『くるしゅうない』といった満更でもない表情を浮かべるじゃしん。


 傍から見れば大きい白いローブが小さい黒いローブを可愛がっているため、周囲からはかなり奇異の視線が飛んでいたようだが、幸か不幸か、レイはその事に気が付かなかったようだった。


・で、これから何するの?

・たしかに

・他のメンバーは?


「あぁ、とりあえず『聖女』からの情報待ちになったよ。それまでは自由行動だって」


 そんな中、視聴者から新たな疑問が投げかけられると、レイは撫でる手と進む足を止めることなく質問に答える。


「スラミンは引き続き調べるらしくて、ウサもそれに付き合うみたい。ミツミちゃんはお店もあるから一度【キーロ】に戻るんだとさ」


・なるほど

・ふむふむ

・つまりぼっちと


 説明を受けた上で流れたコメントに、レイは少しむっとした様子で不満を口にする。


「……間違ってないけど、言い方なんとかならない?」


「ぎゃう~」


「なに、じゃしん?言いたいことがあるなら遠慮なく言いなよ?」


「ぎゃ、ぎゃうぎゃうっ」


 それに対して馬鹿にするように笑ったじゃしんだったが、当然それを察知され、レイによる微笑みというなの圧を間近でぶつけられる。


 そうして一目散に肩から退散していく姿を呆れたように見つめながらも、レイは気を取り直すように今後の予定を説明した。


「それでこれからの予定なんだけど、【ヘティス大森林】に篭ろうかなって」


・知ってた

・近いしな

・ってことはレベル上げ?

・『聖女』の動画見たからじゃね?


 場所を公開するやいなや、今度は理由と目的を探るようなコメントが流れ始める。


 その中に、まさしくやりたいことリストに書かれている内容が見えたため、レイは頷きながらそのコメントを拾い上げた。


「そうそう、基本的にはレベル上げかな。あとエリアボスにも挑戦してみたいんだよね」


・お

・期待

・勝てそう?


「一応準備はしてるけど、どうだろうねぇ。ま、勝つまでやるとだけ言っておくよ」


 そんな雑談に興じつつも、【リヨッカ】の往来を堂々と歩いて【ヘティス大森林】へと向かうレイとじゃしん。


 そこへ、前回の配信で上がったもう一つの話題について尋ねる声が上がった。


・そういえば、ギークの配信は見たの?


「……あぁ、見たよ」


 それは、かつて彼女と対立していた一人の青年に対する内容であった。


 スラミンに聞いた通り、ネット上にてギークによる声明が発表されており、レイはそれを思い返す。


『この解散はケジメだ。多くの人を振り回した元凶として、終わりを告げる義務があると思ってここに立っている』


『解散の理由は偏に、「やりたいことが見つかったから」だ。いや、思い出したというのが正しいな。他人を見ている余裕は、少なくとも今の俺にはない』


『これは他のクランにももう伝達し、了承を得ている。……あぁ、俺に対しては、何を言っても構わないが、彼等を責めるのだけはやめてほしい。ある意味、彼らも被害者だからな』


『最後に謝罪を。俺の身勝手な考えに賛同してくれた人達へ。またしても俺の我儘で全てをひっくり返すようなことになり、大変申し訳なく思っている』


『それから、我々と敵対していた者達へ。その多くは正当な理由によるものだが、一部やり過ぎていた部分があったのは事実だ。本当にすまなかった』


『だが、何があろうと俺はこのゲームをやめるつもりはない。『魔王』セブンに『拳神』トーカ、それから、『きょうじん』レイ。お前達全員を正面から打ち破る、その時まではな』


 それは1分ほどの短い動画。


 良くも悪くも、彼女の『ToY』人生の中で多くの関わりを持ったその組織がなくなり、寂しいという感情も少なくない。


 だが、それ以上に彼女の中に蔓延るのは沸々と湧き上がる熱い感情であった。


・ある意味宣戦布告だよなあれ

・分かる

・確かに


「うん、ギークとライバルってのはあんまり変わらないのかも。……むしろ『八傑同盟』以上に厄介な可能性があるね」


 動画内に映ったギークの目はどこか清々しくも決意の籠った瞳をしていた。


 恐らく『バベル』での出来事が大きく影響しているのだろう。明らかに変わった様子の彼に、レイは面倒臭いというような素振りをしつつも、覆面の中の顔は楽しみだと言わんばかりに、獰猛に笑っている。


・ネットでは賛否両論みたい

・セブンはもうネタにしてたよ

・そういえば頭下げてる部分コラ画像にして遊んでたな

・レイちゃんもやろうぜ!


「流石に可哀想すぎない……?まぁまぁ、正面からって言ってるんだし、そのうち向こうからやってきてくれるでしょ。それまでにこっちもうんと強くなっとかないとね」


「ぎゃう!」


 悪魔のような提案……というか、悪魔(セブン)が行った所業に軽く引きつつも、ギークの宣言はレイにとって、いい意味でプラスになったようだった。


 再度やる気を込めるように呟いた言葉に、じゃしんが乗っかるように一鳴きすると、それに同調するようにコメント欄も流れ出す。


・ボコボコにしよう

・ギークくん、一生『ToY』から出られないねぇ

・初見、これどこ向かってる感じ?


「お、ようこそ。これからレベル上げとエリアボスに挑戦するのと――あぁ、そうだ。あれも試してみたいんだった」


・あれ?

・あれか

・大森林といえばね


「ぎゃう~?」


 改めて問われた目的に、レイが先ほどと同様の内容――に一つ補足を加えれば、その言葉の真意が分からないのか、じゃしんはレイの顔を見上げて首を傾げる。


 ただ、その不敵で不気味な笑い声から、『どうせ碌なことならならないだろうなぁ』とでも言いたげに、手に持ったクッキーを齧っていた。

[TOPIC]

OTHER【ギークの解散宣言】

 ギークが『周囲を省みないプレイヤーを牽制する』という名目で設立した『八傑同盟』。この解散宣言によって、恩恵を受けていた者は惜しみ、制限されていた者は歓喜し、振り回された者は怒りを露わにした。 

 だが、一見我儘ともとれるギークの宣言によって、【WorkerS】のメンバーは誰一人として抜ける事をせず、むしろより強固な結束を手に入れたようだった。


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[一言] ギーグコラ やめたげてよぉ!
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