7-7 怪しい集会へようこそ
結論を述べるならば、レイ達は問題なく【リヨッカ】へと入ることができていた。
・滅茶苦茶目立ってない?
・見てる奴はプレイヤーっぽいな
・そりゃ見るよ
「……まぁしょうがないよね」
ただし浴びる視線の数が減ることはなく、むしろ増加している気さえしていた。
コメントの通りNPCから怒号が飛ぶような事態はなくなったものの、代わりに増加した視線のすべてが装備が整った人間によるものである。
自身を客観視すると、黒色の覆面と全身を覆うローブを纏った三人組が中央にいる白色Verと50cmほどのミニサイズを守るように歩いている。といった見るからに『怪しいですよ』と言わんばかりの集団になっている。そんな集団が注目を集めないわけもなく、レイは一人諦めたように呟いた。
「直接危害が及ばないだけマシか……」
・そうね
・また悪評は立ちそうだけどな
・『きょうじん、見た目も狂う』とか?
「うへぇ、それは勘弁願いたいかな」
コメント欄に見えた懸念事項に、レイは想像だけで疲れたように肩を落とす。そこへ、隣からくいくいっと袖を引っ張られた。
「ぎゃう、ぎゃうぎゃう」
「ん?あぁ、あれすごいね」
意外と服装を気に入ったのか、やけに機嫌のいい声を漏らすじゃしんは右手に見える巨大な建物を指さす。
「あれは大聖堂、でいいんだっけ?」
・あってるよ
・聖ラフィア大聖堂
・この世界最大派閥の宗教だね
それは一見お城のような建物であった。
正面の本館と、その左右を支えるように塔のような建物が聳え立っているという造りになっており、ゴシック建築と呼ばれる、鋭利な装飾が特徴的であった。
シンメトリー状の、計算し尽くされたその建物は遠目からでも壮麗さを感じることができ、レイですらそれを見て思わず息を零してしまうほど。
「中も入れますよ。後から行ってみますか?」
「ぎゃうっ!?」
「この恰好であんまり移動したくないんだけどなぁ」
後ろで見ていた信徒の一人から魅力的な提案があがる。それを聞いたじゃしんは期待に満ちた鳴き声をあげ、やれやれと首を振ったレイも満更ではない空気感を出していた。
「それで、クランハウスまでは後どれくらいかかるの?」
「もう少しです!」
周囲を眺めれば、落ち着いた雰囲気の街並みが眼前に広がっている。
煉瓦で造られた道に街路樹はもちろん、建物は白を基調としたアパート型の物が多く、規則正しく並んでいる姿はまるで『聖ラフィア大聖堂』に合わせて作りました、と言わんばかりの統一感があった。
「着きました!ここです!」
「ここ?」
そうして、信徒はとある建物の前で立ち止まる。そこにあったのは五階建てほどの大きな四角い建物であったが、一階部分はアイテムショップとなっているようだった。
「いらっしゃ……」
・固まっちゃった
・なんか警戒してない?
・そりゃこんな奴らが来たら怖いだろ
カランカランと音を鳴らしながらレイ達一行が入店すると、笑顔だった店の主人の顔がすっと真剣な目つきとなる。だが、信徒は構わず店主の近くによると、小声で一方的に言葉を吐いた。
「『望むは混沌、世界に変革を齎す者が、今ここに狂い咲く』」
「えっ、何急に――」
「ぎゃうっ!?」
・!?
・なんだなんだ!?
・これどっかで見たな
その言葉の意味をレイが理解するよりも先に、建物内に変化が訪れる。
レイ達から見て左側、魔導書と思しきアイテムが飾ってあった棚が揺れたかと思うと、一度奥へと引っ込み、横にスライドする。するとその先に、上階へと続く階段が出現した。
「どうぞ、お待ちしておりました」
「ありがとうございます」
恭しく一礼をした店主に感謝の言葉を述べると、信徒は先んじて階段を上っていく。未だ困惑から抜け出せないながらも、レイは何とかその後を追うと、一連の流れについて尋ねた。
「ちょっと、説明はないの?」
「説明ですか?ただ合言葉を言っただけですけど……」
「合言葉って……同じクランメンバーなんだよね?」
「そうです、ここ一棟すべてが【じゃしん教】のクランハウス本部となります!」
「本部って……」
だったら支部もあるのかと出かかったレイだが、そういえば【ポセイディア海】にも【じゃしん教】のクランハウスが出来ていたことを思い出す。
自身のあずかり知らぬところでどんどんと大きくなっていることに少し戦慄しつつも、レイは話を元に戻して疑問を口にする。
「でもクランハウスって、クランメンバーならだれでも入れるよね?合言葉なんていらないんじゃ……」
「でもレイさんこういうの好きだって、スラミンさんが言ってましたよ」
「……」
そう言われて、レイはぐうの音も出ないことを悟る。確かに不要ではあるが、心のどこかで少しカッコいいと思っていた自分がいたことに嘘はつけないようだった。
「さぁ到着です!準備はよろしいですか?」
「準備?まぁ大丈夫だけど……」
「では早速行きましょう!」
そうこうしていると、いつの間にか最上階の部分までたどり着いており、目の前には階段の代わりに大きな両開きの扉が待ち構えていた。
信徒の言う準備とは何を指しているのか分からないが、これ以上考えても無駄だと判断したレイは適当に返事をする……が、これが失敗であった。
「皆さん!主役のご登場ですよ!」
「うわっ……」
「ぎゃ、ぎゃう!?」
扉を開けた先にあったのは一面を覆い尽くす黒。明かりはわずかに灯る蝋燭の炎だけ、だがそれによって、中ですし詰め状態になっている存在に気が付く。
それは、信徒と同じ見た目をした黒い覆面にローブを纏ったプレイヤー。個性の欠片もない服装をした集団が室内からレイ達をじっと見るように立っており、レイは思わず一歩後ろに下がる。
「諸君!この世界に満足しているか!」
「「「「「否!」」」」」
その瞬間、突然演説が始まったかと思えば、それに応えるかのように黒づくめの信徒達から声が上がる。
「何が足りない!それは平和か!停滞か!」
「「「「「否!!」」」」」
その声は重なり、熱を伴い加速していく。
「そうだ!混沌だ!それを知ってなお、諸君らは立ち止まっているつもりか!」
「「「「「否!!!」」」」」
帯びた熱はそのままに、会場のボルテージはいとも容易く最高潮に達する。そして――。
「では続け!我らの神が創った道に!さすれば、諸君らにも黒き光が与えられん!」
「「「「「YES!Your Majesty!!!!!」」」」」
最後の決め台詞と共に、室内には怒号にも似た歓声が巻き起こる。誰もが歓び、中には抱き合う者も見える中、その対象と思しき本人はというと。
「……演説の人、良い声だったな」
思考がショートし、凄く見当違いな感想を浮かべるのであった。
[TOPIC]
AREA【聖ラフィア大聖堂】
【リヨッカ】の中心部に存在する大聖堂。
街を代表するシンボル的な役割を持つ建造物であり、『ToY』に存在するほぼすべてのNPCが進行する宗教の本拠地でもある。
その名はかつて世界を救ったとされる『聖女』の名を冠しており、彼女に関する書物が多く残されているらしい。




