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7-6 二度目のアウェー


 鬱蒼と生い茂る森の中、その背景に溶け込んだモンスター――【トレント】が不気味な笑みを浮かべながらレイ達に襲い掛かる。


 左右から腕のように生えた木の枝を鞭のようにしならせ、一人の少女に対して挟むように振るわれた攻撃。それに対して少女は地を蹴って体を宙に浮かす。


「よっ!」


 空中で体を捻りながら横なぎされた枝の間をくぐるように躱してみせ、華麗にヒーロー着地を決めた後、腰のホルスターから銃を引き抜いて躊躇なくトリガーに手をかける。


「【属性付与】!『火炎弾』!」


 直観的に選択した属性は赤く燃え盛る炎。今までの経験から選んだそれはどうやら正しかったようで、【トレント】を一瞬で紅蓮に染め上げると、あっという間に灰となり消えていった。


・お見事

・相変わらず鮮やかだなぁ

・これを見に来た


「こんなにも早く【トレント】に対応するなんて……!」


「さすがレイさん!」


「素敵です!」


「あはは、照れるね」


「ぎゃうっ!」


 普段から受けている称賛の声が、コメントだけでなく直に耳に届いてレイは普段よりも恥ずかしそうに頭を掻く。その横ではじゃしんは『すごいだろ』とでも言いたげにドヤ顔を浮かべていた。


「じゃしんは何もしてないでしょ。そういえば炎使っちゃったけど燃え広がったりしないよね?」


「あ、それは大丈夫です」


 そんな姿に呆れつつ、レイは周囲を見回す。当然視界に移るのは植物、どう考えても燃え広がりやすい物であるため少し不安に思ったのだが、それを信徒の女性が笑い飛ばした。


「フィールドには特別なプロテクトがかかっているみたいで、地形改変は出来ないようになっているみたいです。それを利用して、森に火を放ってモンスターを一気に炙り出す、みたいな方法もあったりするんですよ」


・燃えたらモンスターって事か

・えげつないことするな

・でも効率は良い


「へぇ、なるほどね」


 面白い情報を手に入れたレイは口の端を少し歪める。ただ手持ちでは難しそうなため、どうやってそれを実行しようかと考えていると、不意に先導していた信徒の一人が立ち止まった。


「見えてきましたよ。あれが【リヨッカ】です」


「ぎゃう~!」


「勝手に行っちゃだめだからね?」


 そうして信徒が指示した先に、うっすらと街の面影が見え始め、じゃしんが興奮した様子で目を輝かせる。レイがそれにしっかりと釘を刺していると、隣にいた信徒の一人がレイに何かを指し出した。


「レイさん、こちらをどうぞ」


「こちら?……って」


 差し出されたのは彼らが来ている服装の白色バージョン。加えて装飾なども少し凝った作りとなっており、彼等が着ているものよりも数段豪華な出来ばえとなっている。


「えっと、これは……?」


「レイさんのコスチュームです!これを着て入りましょう!」


「えぇ……」


「ぎゃうぎゃうっ!」


 嬉しそうに話す信徒を前にレイが困惑の様子を見せれば、隣にいたじゃしんが愉快だと言わんばかりに笑顔になる。


「あ、じゃしん様の分もありますよ」


「ぎゃうっ!?」


 だがそれよりも小さいサイズの黒いローブがすぐさまじゃしんの前へと差し出される。まさか来るとは思ってなかったためか、じゃしんが『嘘だろっ!?』と目を剥く中、レイはいい気味だと思いつつその理由を尋ねた。


「何でこれ……着なきゃダメかな?」


・え?せっかく貰ったんだし着なよ

・人の善意を踏みにじるんですか?

・レイちゃん酷いよ……


「だ、だってこれさぁ……」


「うーん、多分着てもらったほうがいいと思うんですが……」


 幾らゲームの中と言えど、流石にこのデザインは羞恥心が勝つようだった。着ろと言われれば着れない事は無いのだが、可能な限り着たくない……そんな思いを抱きつつレイが葛藤していると、信徒たち3人がコソコソと話し合いを始める。


「どうします?」


「無理に着せるのも……」


「でも着ないとバレちゃわない?」


「もしかしたら杞憂かもしれないし……」


 全容までは聞き取れなかったものの、なにやら着なければいけない理由があるようだった。そのことをレイが尋ねる前に、結論が出たのか信徒の一人が振り返ってレイに結果を伝える。


「分かりました!取り敢えず【リヨッカ】に入りましょう!」


「え?いいの?」


「はい、多分自分で見てもらったほうが早いので」


 何やら意味深な言葉にレイは不穏な空気を感じ取ったものの、大丈夫だと言われた以上追及するのも野暮だと思ったのか、黙ってその衣装をしまう。


 信徒はそれを確認すると再び街に向けて歩き始め、レイ達もその後ろを着いていった。


「レイさん、一つだけいいですか?」


「ん?なに?」


 街の入口が見え始め、目と鼻の先に迫ったそのタイミングで信徒の一人がふと口を開く。


「『神聖皇国』には宗教がたくさんある、っていう話をしましたよね?実はNPCがメインの宗教も存在するんです」


「NPCの?」


「はい。どのエリアにも存在していて、しかも多くのNPCがそれに入信しているとか。ほら、昔【キーロ】で協会に入ったでしょう?それがまさにその宗教なんです」


・へぇ~

・懐かしい

・ん?ちょっと待てよ?


 その説明を聞き、かつて【邪ナル教典】の呪いを払うために教会を訪れたことを思い出すレイ。当然、門前払いを喰らったことも鮮明に思い出しており――。


「……あったね。それで?」


「その宗教の聖地はここ【リヨッカ】なんです。当然この地に住むという事はその宗教に入信している人が他よりも多いわけで……」


「ということは――」


 たったの一歩。聳え立つ門をくぐり、街の中に入った瞬間。かつてと同じように周囲にいたNPCの顔がグルリ!と凄まじい勢いでレイを向く。


「あ、悪魔だ!」


「何て禍々しい力なの……!」


「神よ、我らを救い給え……」


「俺達の街から出て行けっ!」


「ぎゃうっ!?」


 一斉に浴びせられる罵詈雑言に叫喚の声。中には石を投げつけてくる者もおり、どこからどう見ても歓迎されている様子ではない。


「やっぱり、こうなっちゃいましたか」


「……なるほど、これは出直す必要がありそうだね」


 そこでようやく彼らが危惧していたことに思い至ったレイは速足で踵を返して森の中へと逃げ込む。そして先程の提案を申し入れ、全身を隠すよう、派手で不気味なローブを身に纏うのだった。

[TOPIC]

MONSTER【トレント】

森の中にはご用心。必ず君を見ている悪魔がいるから。

植物種/魔木系統。固有スキル【木化】。

≪進化経路≫

<★>マジックシード

<★★>キリカブダンサー

<★★★>トレント

<★★★★>エルダートレント

<★★★★★>超木人


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 逆にそれらNPC宗教壊滅させちまってもいいんじゃね? ほらいつぞやのNPC消滅事件みたいに ・・・え?いやうち大丈夫だよ?キレテナイヨ ウンキレテナイアルヨ
[一言] まあ、じゃしん教だもんなあ
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