7-3 報酬確認会
・そういえば雷はどうなったん?
・それ、気になってた
・ワールドクエストクリアしたって事は大丈夫だったんだろ?
「あ、じゃあ次はその話をしようか」
渡されたマニュアルを<アイテムポーチ>へとしまいつつ、視聴者の言葉に答えるようにレイは話題を移す。
「たしかデスポーンしてましたよね」
「まぁね、結論から言えばクリアした瞬間に雷に打たれて死んじゃったよ」
「えっ!?」
アハハと軽く笑いながら答えたレイに、ぺけ丸は目を見開いて驚いた声を漏らす。それは視聴者も同様だったようで、コメント欄は一気に心配の声で埋め尽くされる。
・マジ?
・逃れなかったよ……
・アイテム大丈夫なん?
「それは大丈夫。ワールドクエスト報酬はロストしないみたい」
「あ、そうなんですね」
・ほっ
・よかった~
・これで無くなってたら立ち直れんわ
「本当だよ。まぁとにかく見ていきますか!」
正直肝は冷えたけどねと言いながら答えるレイに、ぺけ丸は隣でほっと胸を撫で下ろす。それを横目で見ながらレイはメニューウィンドウを開いた。
「じゃ、まずは称号から。ステータス自体は変わってないからいいとしてっと……」
そのまま<ステータス>欄を表示させると、代わり映えのないステータスに一つ項目が追加されてるのが目に映り、今度はその詳細へと目を通す。
称号【歴史を創る探究者】
歴史を知り未来を創造する者の証。
取得条件:ワールドクエスト【紡がれた思いは未来と共に】をクリア
効果:一部言語の翻訳可能
・一部言語?
・翻訳ってなんぞ?
・私、気になります!
「ちょっと調べたけど、特定の世界で暮らす民族とかがいるみたい。その人達は言葉が通じないんだって」
同じ疑問を抱いていたレイは予めその内容について調べており、当たりを付けたネットの情報をそのまま口にする。
・必須級じゃん
・【学者】っていう職業になれば分かるらしい
・便利なのには違いないけどね
「うん、わざわざその職業にならなくても同じ効果なわけだし、手に入って嬉しいものなのは確かかな」
視聴者からの言葉に微笑んだレイは<ステータス>を閉じると、続いて<アイテム>欄に目を通す。
ITEM【賢者の手記】
邪神を打倒した英雄の一人が残した手記。記された内容に辿り着いた時、世界を手中に収めるだろう
効果①:ー
ITEM【透けた万能鍵】
伝説の泥棒が愛用したとされる魔法の鍵。目には見えない、故に阻むモノは存在しない。
効果①:施錠された扉を開く
効果②:奪取効果の対象外
ITEM【未の紋章】
未の形をした銀色の紋章。なにか特別な力を感じる。
効果①:???
※譲渡不可アイテム
「ふむ、とりあえずこの2つかな」
恒例となった紋章をのぞいた二つを手に取ったレイ。だが、隣にいたぺけ丸は不思議そうに小首を傾げた。
「一つしか見えないですけど……?」
「いや、あるよ。触ってみて」
「えっ」
左手にはボロボロの手帳が握られているのに対し、右手には何も見えない。そのことをぺけ丸が指摘すると、レイは彼の前へと右手を差し出す。
「……あっ、ホントだ。鍵……?」
「だね。説明を見るに何でも鍵を開けられるって事でいいのかな?」
・つっよ
・なくしそ~
・奪取不可って事はスティール効かないって事?
・そういうこと、この効果自体は珍しくない
顔を赤らめながらも恐る恐るレイの手をぺけ丸がなぞると、指先に感じる確かな感触に目を丸くしながらぽつりと呟く。それを受けてレイが感想を述べれば、それを元に視聴者からも補足が入る。
それに目を通しつつ改めて有用性を再認識したレイは、無くさないように【透けた万能鍵】をしまいつつ、残った手帳を開いた。
「じゃあこっちの手帳は……なにこれ?」
「何かの設計書……ですかね?」
その中には走り書きの文字が乱雑に刻まれている。しかも見たこともない言語のうえ、余りにも汚すぎるため、断片的にしか理解することが出来なかった。
「……何一つ分からん。みんなは?」
・さぁ?
・分からん
・無茶言うな
「だよねぇ。しょうがない、見なかったことにするか」
念のため視聴者に確認を取っても返ってきた言葉は想定通りの物であった。それを聞いたレイは少し残念そうに手帳を閉じて<アイテムポーチ>をしまう。
・相変わらず尖った性能してんな
・考察捗る
・そういえば武器は?
「あぁ、あっちにあるよ」
ふと飛び出た疑問のコメントにレイが部屋の隅を指させば、そこには二人の男性の姿。
「火遁の術!」
「つ、次は我!我の番であります!」
・何あれ?
・火を噴いてる?
・なんかテイスト違くないかアレ?
お世辞にも整っているとは言えない様子の凹凸コンビ――ウシワカとベンケイがゴーレムに対して、何やら口から火を噴いてはしゃいでいる。
「話したら是非試したいってうるさくてさ、丁度良いし検証してもらってるんだよね。いやぁ、楽しそうで何より」
「あ、あはは……」
それを後ろから眺めては満足げに頷くレイに、若干引いたような引き笑いを浮かべるぺけ丸。そんな対照的な反応を二人が見せる中、レイはその性能について目を向ける。
WEAPON【魔法の羽ペン】
あんなことやこんなこと、思いついた全部を形にしようか。
要求値:-
変化値:-
効果①:MPを消費し、魔法属性の物体を創造(1MP/1sec)
「なるほど、書いた絵が具現化するって感じか。かなりトリッキーで面白そうな能力だけど……」
「ん?どうかしたんですか?」
その効果に感心したような声を寄せるものの、どこか苦々しい表情を浮かべたレイは、ぺけ丸の疑問に答えることなくウシワカとベンケイの元へと歩き出す。
「ちょっと貸してもらえる?」
「え?あぁどうぞでござる」
ベンケイに声を掛けて水色の羽ペンを受け取ると、空中に何かを描き始めた。
数分後、そこそこ丁寧に時間をかけて出来上がった作品は――。
「……よし、出来た」
「え?」
「これは一体……?」
・犬?
・え?動物なの?
・4本足だしそうだろ……そうだよな?
・クリーチャーにしか見えん
空中に描かれた4本足の黒い化け物。四つん這いになっていることと頭上にある耳が辛うじて生き物だということを想起させるが、左右のバランスなどあったものではない。その上、傾いた体で地面をかさかさと動き回る姿は、見ているとどこか不安になってくるほどだった。
それを見た全員が困惑を見せる中、それを描いた本人はその答えが分かっていたかのように、嘆息した後答えを発表する。
「残念、じゃしんです」
「……ぎゃうっ!?」
突如名前を呼ばれたじゃしんは地面を動き回る悍ましいナニカを二度見した後、『俺!?』とでも言いたげにすごい勢いでレイの顔を見る。
当然その視線から逃れるようにさっと目を反らしたレイだったが、周りの反応もおおむね似たような物だった。
「えっ」
「嘘でござるよな……?」
「こ、怖いであります」
・なんていうか、独特な感性をお持ちのようで……
・レイちゃんって絵心ないんだ
・あっ、そういうこと
・なんかすべてを理解したわ
それを一通り受け入れたレイは再度ため息を零すと、手に持ったペンをくるくると回しながら諦めた様に呟く。
「お察しの通り、これは私には使えないね。そもそもMPも結構使いそうだし、肥やしになるかな」
「ぎゃうっ、ぎゃうぎゃうっ!」
ただ、その呟きに手を上げるものがいた。
傍に寄ってきていたじゃしんは『じゃあちょうだい!』とでもいうかの如く高々と手を上げており、その眼はキラキラと輝いている。
「ん?じゃしん欲しいの?」
「ぎゃう!」
「別にいいけど……前あげた装備は?」
ふと思い出したレイの疑問にじゃしんは任せろとでも言わんばかりに胸を叩くと、何もないハズの腰のあたりをごそごそと触り出し、振り抜くように右手を掲げる。
「ぎゃうっ!」
「え?何処から出した?」
・異空間から取り出したのか
・どうぶつの里方式?
・↑めっちゃしっくりきた
その手には以前渡していつの間にか消えていた【世界樹の杖】が握られており、まるで手品のような一瞬の出来事にレイは目を丸くする。
「ぎゃうっ!」
「……まぁ持てるなら何でもいいか」
ただじゃしんは『どうだ!』とでも言いたげにドヤ顔を浮かべており、それ以上突っ込むのも面倒だなともったのか【魔法の羽ペン】をじゃしんへと手渡す。
「ぎゃう~!」
「喜んでもらって良かったよ。さてと、手に入れたのはこんな感じ――」
「失礼します」
それを受け取って目を輝かしている姿に、ふと自分が微笑ましく感じてしまった事に気が付き、レイは困ったように笑う。
そのことに自分も随分と変わったなと思いつつも、話題を次の目的地へと話題を変えようとしたその瞬間、クランハウスの戸をノックする音が聞こえた。
[TOPIC]
GAME【どうぶつの里】
日本を代表するゲームメーカーが提供する、超有名国民的ゲーム。
擬人化した動物が暮らす里の住人となって交流を深め、里を発展させいくという内容のゲームであり、そのほのぼのとした内容から老若男女問わず親しまれている。
とあるゲーマー少女も当然プレイしたことはあるみたいだが、その頃には既に対人ゲームにはまり始めており、『この世界は私に優し過ぎる……』という言葉を残して封印したとかしないとか。




