0-3 チュートリアルを始めよう
レイが目を覚ますと、そこは見たことがない草原だった。
『ここは【スーゼ草原】です。チュートリアルを開始してもよろしいですか?』
日本ではなかなか見ることの出来ない周囲の光景に感動しているとNAVI-001の機械音声が聞こえてくる。それに対して異論はなかったため、レイは大きく頷いた。
「うん、よろしく」
『承知致しました。ではまず体を動かしてください。違和感はございませんか?』
NAVI-001の言葉通りに体を動かす。屈伸したり、伸脚したり、軽く走ってたり――ある程度動いてみて分かったが、明らかに体が軽いと感じられた。おそらく敏捷を上げた影響だろうとレイは推測する。
止まることにすら一苦労しており、慣れるのに難儀するなと思いながらも、痛みは感じず息切れもないため、やっぱりゲームだなとも感じた。
「大丈夫、問題なさそう」
『承知致しました。では続いてメニュー画面を開いてください。イメージすることでメニュー画面を開くことが出来ます』
「イメージ……」
動きの確認が終わり、レイが声をかけるとNAVI-001から指示が飛ぶ。それに従ってレイは『メニュー』と頭の中で考えると、初期設定の時に表示されたウィンドウが再びレイの目の前に現れた。
『メニューには〈ステータス〉、〈アイテム〉、〈マップ〉、〈フレンド〉、〈各種設定〉、〈ヘルプ〉が存在します。先ずは〈ステータス〉を開いてください』
画面に表示された〈ステータス〉をタッチすればウィンドウが切り替わり、初期設定の時に見たステータス画面が表示される。
『こちらではステータスの確認及びBPの割り振りが行えます。質問は?』
「ん、大丈夫」
『では続いて〈アイテム〉を選択してください。メニューの〈アイテム〉をイメージしていただければ画面に反映されます』
「〈アイテム〉?――おぉ!」
首を傾げながらも先ほど見た〈アイテム〉の枠をイメージすると、目の前のウィンドウが切り替わり、取得しているアイテムが表示された。
『こちらでは所持アイテムや所持金額の確認、及び装備の設定が行えます。では実際に装備してみましょう。〈装備〉を選択してください』
現在表示されている画面には【召喚の石板】と書かれた大枠その下部に『3000G』の文字、またその右上に〈アイテム〉と〈装備〉という欄が存在した。
言われた通りに〈装備〉を選択すると大枠の画面が【始まりの外套】と【始まりの杖】に切り替わり、【始まりの外套】の末尾には『E』という文字が付随している。
『こちらは武器または防具の欄となります。既に装備されているものについては末尾に『E』と表示されます。では【始まりの杖】を装備してみて下さい。方法は今までと同一です』
「うん、イメージって事ね」
要領を掴んだレイは【始まりの杖】を装備と頭の中で呟く。すると掌にポリゴンが集まっていき、一本の杖を形成する。
改めてアイテム欄を確認すると、【始まりの杖 E】のと表示されており、装備に成功したことが分かった。
『上手くいったようですね。性能についてもイメージすることで確認することが出来ますので、入手したモノについては確認することをお勧めします』
「はーい」
その口調に先生みたいだなと感じたレイはそれにあわせて返事をしたが、NAVI-001から反応が返ってくることはなく、淡々と説明は続いていく。
『また、アイテムについてはショートカット機能というものが存在します。腰にあるポーチをご覧ください』
「はいはい」
面白くなさそうに答えたレイが腰を見ると、確かに茶色のポーチが存在した。それが何なのかは知っていたが、特に口をはさむことなく説明を待つ。
『それは<アイテムポーチ>です。取得しているアイテムをイメージすることで簡易的に取り出すことが出来ます。また他プレイヤーにとって、それはあなたの全アイテムと同じ意味を持ちます。注意してください』
その言葉は『ToY』の世界のとあるスキルで、<アイテムポーチ>を狙うことで相手のアイテムを盗める事を意味していた。
レイは大好きな配信者の配信で数えられない程その状況を見てきたため、その脅しとも取れる説明に、特に気にすることなく頷いて答える。
『〈アイテム〉についての説明は以上になります。その他メニュー欄についてはヘルプをご覧ください。続いて戦闘のチュートリアルを行います』
[チュートリアルミッション]
【チュートリアル1】
・スライムの撃破
・報酬 100G
動きの確認が終わると彼女の目の前にウィンドウが出現し、それと同時にポリゴンが集まって形を形成し始める。
ポリゴンがまとまったそこには水色のアメーバのようなブヨブヨした物体、テンプレ通りのモンスターが3体出現した。
「ん? 装備杖だけど特に魔法とか覚えてないよね?……殴って倒せってこと?」
『はい。【スライム】を撃破してください』
じゃあなんで杖なんだとレイは思ったが、とりあえず目の前の【スライム】に向かって振り被って攻撃してみることにした。
【スライム】は特によける素振りもせず、ぷよぷよと跳ねているだけなので杖は難なく命中する。
その瞬間、レイは水面に思いっきりなにかたたきつけたみたいな、いやな感触を感じ、それとともに【スライム】の頭上に10という数字が表れ、ポリゴンとなり消えていった。
これで撃破したということだろう、要領を掴んだレイは残り2体も同じように杖を叩きつけてポリゴンにした。
すると軽快なファンファーレとともにクエストクリア!というアナウンスが聞こえてくる。
『お疲れ様です。続いて、クリティカルについて説明します』
クエストクリアを証明する軽快なファンファーレと共にNAVI-001が口を開くと、再びレイの眼前にウィンドウが表示される。
[チュートリアルミッション]
【戦闘訓練②】
・ステップラビットの撃破
次にポリゴンが形を成したのはウサギの姿であった。ただしその両足がかなり発達しており、二足歩行で跳ねる姿はどちらかというとカンガルーの様な見た目をしている。
『クリティカルとは弱点部位に攻撃することによってダメージが増加する現象です。【ステップラビット】の脚を攻撃してみてください』
「脚?意外と難しいな」
そう言いつつも、ぴょんぴょんと跳ね回る【ステップラビット】の脚に杖を難なくぶつけると、HPバーを3分の1ほど削る。
『それでは頭を攻撃してみてください』
「りょーかい」
続けられた指示に今度は頭を狙う。ボコッという音を立てながら振るった杖がヒットすると、【ステップラビット】のHPバーを一気に削り切り、ポリゴンへと変えた。
『このように通常よりも大きなダメージを与えられます。弱点部位はモンスターによって異なるため、良く観察することをお勧めします。……ここで戦闘チュートリアルの基本編は終了です。応用編は〈ヘルプ〉により実施可能です。最後に、職業チュートリアルを行います。まずはこちらを受け取ってください』
NAVI-001から思ったよりあっけなく戦闘チュートリアル終了の声が聞こえると、レイは【スライムの魂】というアイテムを3つ入手する。
『召喚士では【召喚の石板】に【(各モンスター)の魂】というアイテムを3つ使用することで召喚を行うことができます。また使用した魂によって召喚されるモンスターが異なります。【スライムの魂】を3つ使用して召喚を行いますか?』
「いや、しなくていいよ」
『承知いたしました。ではこれにて全チュートリアルが完了いたします。もう一度チュートリアルを行いたい場合はヘルプより実施することができます。チュートリアル後はここから自由に探索可能ですが、まずは南東に進み、始まりの街【ホワイティア】へ向かうことをお勧めいたします。それではよい旅を』
レイが職業チュートリアルをスキップするとNAVI-001の声は完全に聞こえなくなり、周りに【スライム】や【ステップラビット】、他にも鳥の形をしたモンスターがポップし始める。
またそれだけではなく、ちらほらとプレイヤーらしき人影も見え始めており、どうやら本格的にサーバーに参加したようだとレイは一人納得した。
「よしじゃあ行くとしますか!」
そうして目標の【死霊術師】になるためにあらかじめ立てた予定を思い出しながら、NAVI-001の言う通りに南東に向かって歩き始める。
彼女の足取りは逸る気持ちを抑えきれずに自然と早くなっていた。
[TOPIC]
MONSTER【スライム】
何でも取り込み消化する。悪くはないよ、生きてるだけ。
水棲種/スライム系統。固有スキル【分裂】。
≪進化経路≫
<★>スライム
<★★>ゼリースライム
<★★★>マダラスライム
<★★★★>スライアン
<★★★★★>CHAOS