7-2 のんびり雑談枠
【れいちゃんねる】
【第18回 バベル攻略お疲れ様会】
「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃふん!」
・なんだなんだ!?
・わこ。くしゃみ?
・風邪か?
「いやいや、そんなわけないでしょ」
配信を開始した途端、【魔研連】のクランハウスに盛大なくしゃみが鳴り響く。それを聞いた視聴者が心配の声を上げるも、レイは意味が分からないといった具合に目を細めている。
それに対してじゃしんは零れ落ちそうになる鼻水をズズズッとすすると、指で鼻下をこすりつつ不思議そうに周囲を見回した。
「誰かに噂されてるんですかね?」
「えぇ、ゲームなのに?」
「ゲームだからこそですよ。じゃしんくんならゲーム内で彼の話をしている人を感知する~なんてことがあったりしても不思議じゃないと思って」
「それだったら一生くしゃみし続けなきゃいけないだろうね」
「あー、確かに」
・それはそう
・正解
・どうせ気のせいよ
じゃしんの様子を見たぺけ丸が一つ仮説を口にしたが、レイは一笑に付して否定する。それに視聴者が同意する中、ぺけ丸は困ったように苦笑すると、思い出したかのように話題を変えた。
「そういえば、登録者30万人行ってましたね!おめでとうございます!」
・おめでとう!
・めでてぇ
・記念歌枠はよ
「ありがと、ここまでこれたのも皆のお陰だよ。でも歌枠は死んでもやりません」
ぺけ丸の言葉を皮切りに殺到するお祝いの声。それに対してレイは嬉しそうにはにかむと、こうなった経緯を思い返してしみじみと呟く。
「まさかセブンさんに勝てるなんてなぁ。まぁほぼ漁夫の利みたいなものだけど」
「そんなことないですよ!全部レイさんの実力です!」
「あはは、ありがとう。でもぺけ丸の装備のお陰も大きいかな」
「ぎゃうぎゃうっ!」
「あーはいはい、じゃしんも頑張ったよ」
「ぎゃうっ!」
レイがぺけ丸を褒めれば調子の戻ったじゃしんが『俺は俺は!』と主張するように長机に立ってレイへとアピールする。それに対しておざなりながらもレイが言葉を返せば、満足げに大きく頷いていた。
・装備について詳しく知りたい
・分かる、あの時は説明している時間なかったもんな
・ついでにワールドクエストとか『魔王』達と戦った感想も!
「オッケー、丁度ここに製作者もいることだし、武器から説明していこうかな、じゃあ先生、よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
隣に座るレイが突然姿勢を正してお辞儀をすれば、それにつられるようにぺけ丸も腰を折る。そして顔を上げたレイは腰のホルスターから黒く輝く拳銃を取り出した。
「まずはこの銃【RAY-VEN】からだね、いやぁ何度見てもカッコいいなぁ……」
「あはは、気に入って貰えてよかったです」
手のひらから容易にはみ出る漆黒の銃を様々な角度で眺めつつ、レイはうっとりとした声を漏らす。その隣ではぺけ丸が少し恥ずかしそうに頬を掻きつつも、性能の解説を始めた。
「レイさんの愛銃である【Creccent M27】を預かるにあたって一番に拘ったのはフォルムとスキルでしょうか。レイさんからの願いという側面もあるんですが、それ以上にやはり黒い銃が映えるというのは皆さんも共感してもらえるかと思います。という訳で『現状のフォルム及び強さ』は踏襲しつつ、『新たに明確な強化点』を用意するというのが難しくもあり、同時に拘ったポイントですね。当初の予定では属性弾を打つという仕様だったのですが、作成以前にその後のコスト面で少し厳しい物がありまして――」
・待って
・急に饒舌になるじゃん
・オタクくんさぁ……
・性能見ながらだと分かりやすいかも
「あぁごめん、今表示するね」
先程の様子からは考えられない程の早口で説明を開始したぺけ丸。その姿に視聴者から当然ツッコミが入り、レイはそれをフォローするように武器性能を表示しながら言葉を挟む。
WEAPON【RAY-VEN】
黒く染まった銃口は、空を揺蕩う烏の視線のように、狙った獲物を逃すことはない。
要求値:-
変化値:-
効果①:魔法属性の固定大ダメージ(200dmg)
効果②:SKILL【黒月弾】
「元からあった【黒月弾】と固定ダメージ。しかも威力が上昇しているのは普通にありがたいかな。さすが先生って感じ」
「そ、そんな褒められると……」
「いやいや、謙遜しなくてもいいのに。それで、この魔法属性になってるのはなんで?」
照れるように俯いたぺけ丸をにやにやと笑いながら見つつ、レイは【Creccent M27】から変化した項目について問いかける。
「それは魔法弾にしようとしていた名残ですね。さっきも言った通り弾を用意するコストを考えると現実的ではないので、お手数ですがレイさんに自前で用意して頂こうかと」
「うんうん、そこでこれの出番って訳だ」
ぺけ丸の説明を引き継ぐように、レイは自身のステータスから【魔法使い】の固有スキルの一つを改めて確認する。
SKILL【属性付与】
魔を極めんとする者よ。その真髄は万理を歪め、創造することにある。
CT:10sec
効果①:魔法の属性を変化させる
「魔法の属性変化だから、打つ弾は魔法扱いって事になるって事でいいんだよね?」
「はい、その認識で問題ないですよ」
・魔法弾ではあるんだね
・実質魔法使いじゃん
・そもそも物に【属性付与】って可能なんだな
「結構使っている人いますよ、ほら、【魔法剣士】とか。ただ遠距離武器に付けたのはきっと今回が初めてになると思います」
視聴者の疑問に対し、良い質問ですねと言わんばかりに胸を張ったぺけ丸は心なしか自慢げに言葉を続ける。
「例えば弓なんかで火矢を使う事はありますが、魔法ではないのでそれ以外の属性を付与することはできません。しかし【RAY-VEN】はどんな属性にも対応可能!今までの魔法使い達がやってこなかった新境地へと――」
「あの、それってさ、魔法を使えば良いからじゃない?」
「……え?」
高らかに演説するぺけ丸の言葉に、ついついレイから本音が漏れると、それを耳にした途端、ぺけ丸がピシリと固まる。
・あ
・【属性付与】覚えるってことは魔法も使えるしな
・別に遠距離は困ってないよね
・むしろ魔法を使ったほうが楽まである
「……僕は無能だ」
「ご、ごめんごめん!私はすごく助かってるから!」
コメント欄からも正論が相次ぎ、滅多打ちにされたぺけ丸は絶望したように膝を抱える。それを励ますようにレイは空元気を見せつつ、【RAY-VEN】をホルスターに仕舞った。
「ほら、武器はこれくらいにしてさ。防具について教えて欲しいな~!」
「……分かりました」
レイが現在装備している装備の詳細をウィンドウとして表示すれば、落ち込みながらもぺけ丸が顔を上げる。
ARMOR【星空の修道女】
神に愛され、その身を誓った少女のみが纏うことを許されるドレス。その姿は満天の星にも負けない程鮮やかで、舞踏会に臨む淑女のようであった。
要求値:〈信仰〉500over
上昇値:〈MP〉+300,〈信仰〉+300,〈敏捷〉+100
効果①:SKILL【モードチェンジ】
・見た目は変わってないんだね
・【モードチェンジ】で変わるから
・見せて見せて
「え?今?まぁ良いけど」
それを聞いたレイは座っていた椅子から立ち上がると、少し離れた位置でスキルを発動する。
「変……身!」
少し溜めた合図とともにレイの体が光に包まれる。そして光が晴れると、彼女の服装は黒色のブーツにホットパンツ、そして純白のファーの付いた黒革のジャケットを羽織った姿へと切り替わっていた。
「カ、カッコいい!」
「ぎゃう~!」
「感激しているところ悪いんだけど、解説お願いしてもいいかな?」
「あ、はいっ!」
一連のシーンを生で見たぺけ丸とじゃしんが目を輝かせていると、どこか居心地が悪そうにしたレイが、ウィンドウを見つつ本題へと移る。
SKILL【モードチェンジ『白流星』】
戦場を斬り裂く一筋の流星。それは雷鳴の名を冠する白虎の如く。
CT:1500sec
効果①:<信仰>を<敏捷>に置換
効果②:一定時間経過後、形態解除(300sec)
効果③:SKILL【武神機巧『迅雷』】
「『白流星』モードは、その名の通り速さに特化した形態です!<信仰>の値をすべて<敏捷>に置換することで、相手に指一本すら触れさせずに倒し切る、をコンセプトにしています!」
「まぁこの前戦った二人は私よりも早かったけどね」
熱演するぺけ丸に対して、レイはどこか申し訳なさそうに自虐の言葉を漏らす。ただ、視聴者はそれでも関心のコメントを残した。
・それでもすごい
・信仰って1000近くなかったか?
・スキルも見たい!
「流石にここでは使えないよ。だから、また良いタイミングがあったら使うって事で」
攻撃スキルを室内で使う訳にはいかないため、レイがやんわりと断れば、コメント欄は理解を示す声で溢れる。それをみてほっとしつつ、レイは改めてぺけ丸へと視線を向けた。
「因みにほかにも変身先はあるんだよね?」
「はい!各ステータスごとに用意しています!詳しくはこちらを!」
「こちら――って」
〈アイテムポーチ〉を触ったかと思えば、ズシンッ!と音を立ててテーブルの上に何かが置かれる。
「装備マニュアルです!【RAY-VEN】及び【星空の修道女】についてすべてが書いてあるので、是非読んで頂ければ!」
「あ、はは。気が向いたらね」
・これ読まない奴だな
・一生気が向かない奴
・日本語って便利ダナー
「ぎゃう~」
広辞苑くらいの厚さを誇るその本を見て、レイは引き攣った笑みでぺけ丸に言葉を返す。それを横目に、じゃしんは呆れたように目を細めていた。
[TOPIC]
WORD【装備マニュアル】
【RAY-VEN】及び新調された【星空の修道女】に関する取扱説明書。全1023ページ。
設計書からパーツの説明、果てにはぺけ丸の拘りポイントやここ好きポイントなどが所狭しと書かれており、これ一冊に物凄い時間をかけたことが窺える。




