6-49 紡がれた思いは未来と共に⑤
「ぎゃ、ぎゃう……?」
眼にしたことがあるはずの白き鳥。それを見上げつつも、どこか雰囲気が違うことを感じ取ったじゃしんは戸惑った様子でたじろぐ。
その姿をじっと見下ろしていた不死鳥は視線をワイバーン達へと向けると、異形の群れ目掛けてゆっくりと翼をはためかせ始めた。
「グギャァ!?」
「ギャァギャァ!」
「ギャ……ギャァ……」
次第に強く、速くなっていく不死鳥の翼。そこから身に纏う白い火炎が放出されると、ワイバーン達に付着してその身を焦がす。
付着した炎は優しくじっくりとその体に燃え広がっていき、一体、また一体と再生すら許さずに消滅させていく。
中には炎を避けようとしたり、地面に転がって炎を消そうと試みた個体も存在したが、一匹たりとも抗えた者はおらず、あれほどいたのが嘘のように数を減らしていた。
「ぎゃ、ぎゃうぅ……」
「ほら、なにぼーっとしてるのさ」
「ぎゃうっ!?」
白い火炎が煌めきながら空を染めていくという、なんとも神々しい光景にじゃしんが見惚れていると、背後からレイの声が聞こえて勢いよく振り返る。
「ぎゃう!ぎゃうぎゃう!」
「うわ、なに?どうしたの?」
「いや、これはしょうがないでしょうよ……」
先ほど被った恐怖の諸悪の根源を見つけたじゃしんは、溜まった鬱憤を晴らすようにぽかぽかとその頭を叩く。
それに対して微塵も悪気を感じていないレイにイブルが呆れた声を漏らせば、その頭上を巨大な影が覆う。
「ぎゃうっ!?」
「ほら、じゃしん迎えが来たよ」
いつの間にか側に寄ってきていた不死鳥に、じゃしんが驚いて大袈裟に飛び退く。一方で隣にいたレイはその背を支えた後、不死鳥の方へと背中を押した。
「ぎゃ、ぎゃう?」
「ほら、最後の仕事だよ。『勇者』としてのね」
「ぎゃ、ぎゃうぅ……」
じゃしんのことをじっと見据えながら首を低くして待つ不死鳥。
その顔はまるで『背中に乗れ』と言っているようで、そのことに気がついたじゃしんは不安そうにレイの顔を振り返ってみる。
「大丈夫だって。じゃしんのやることはあの目玉に剣を突き立てるだけだからさ」
「ぎゃう……?」
そう言ってレイは空を指差す。そこには一体だけ残った単眼のワイバーンが羽ばたいており、最初に現れた核を持った個体であるだろうと推測できた。
「私たちもサポートするから。それに、じゃしんむかつかない?おんなじ名前の奴が偉そうにしてて」
「……ぎゃう」
「じゃあさ、ここで教えてやろうよ。どっちが上かってことを!」
「ぎゃうっ!」
レイがじゃしんの気持ちを持ち上げるように説得すれば、次第にじゃしんの表情に闘志が宿り始め、最後にはうんうんと頷きながら自ら不死鳥の背に乗っていった。
「じゃしん様を乗せるの、随分と上手くなりましたねェ」
「ま、伊達に長く付き合ってないしね。そんなことより、次覚えてもらうのはちょっと長いよ?」
その様子を後ろで見ていたイブルが複雑な表情でレイを見たが、それに悪戯っぽい笑みを返すと最後の仕上げとなるスキルの詠唱をイブルへと伝達する。
「ぎゃう〜!」
「グギャァ!」
一方で不死鳥の背に乗ったじゃしんはワイバーンと壮絶な空中戦を繰り広げていた。と言っても縦横無尽に飛び回るワイバーンの背を不死鳥が追っており、じゃしんはその背に必死でしがみついているだけなのだが。
「――ぎゃうっ!」
「グギャ!?」
そんな中、旋回の一瞬の隙をついてじゃしんはワイバーンの背に乗り移ることに成功する。突如背中に乗られたワイバーンも振り落とそうと暴れ回ったが、この千載一遇のチャンスにじゃしんは歯を食いしばり――。
「ぎゃう〜……!ぎゃ〜う〜!」
その単眼に手に持った剣を突き立てる。瞬間、ワイバーンの動きがぴたりと止まったかと思えば、ガラスの割れた音が鳴り響く。
「――――――――」
それと同時に、この世のものとは思えない音が辺り一帯に響き渡り、先ほど見たようにワイバーンの身体がぐちゃぐちゃと変形を始めた。
「ぎゃ、ぎゃう!?」
それに驚いたじゃしんは思わずその上から飛び退き、その後で空中であることを思い出す。
慌てて羽を使って飛ぼうとするも、スキルが使えなくなっている影響なのか、いつものように空を飛ぶことが出来ないようだった。
「ぎゃ〜う〜!――ぎゃうっ」
悲鳴を上げながら手足をバタバタと動かすも、無情にも落下していく身体。『もう駄目だ』と言わんばかりにぎゅっと目を瞑ったじゃしんだったが、その体はぽふりと柔らかいものに落ちる。
「ぎゃ、ぎゃう!」
恐る恐る目を開けたじゃしんは不死鳥の上に寝ころんでいた。
どうやら彼が間一髪のところで助けてくれたらしく、一先ず無事だったことにほっと胸を撫で下ろしつつも、次に視界の入った光景にまたしても目を見開く事になる。
「ぎゃう!?」
そこにはワイバーンだった何かが膨張していく光景があった。それと同時にゴードンの不敵な声が聞こえる。
「『最終章第三幕。聖獣の力の前に、黒き魔獣は朽ち果てていく。勝機を見出した『勇者』はその剣を再び突き立て王手をかける。だが何も最後の力を振り絞るのは英雄達だけではない』」
もはや生物でも何でもないアメーバ状の黒い塊は、ただひたすらに大きく膨らんでいく。その大きさが100メートルは突破したであろうタイミングで、その全貌が露になる。
「『ただひたすらに大きく。弱者を潰すだけの姿。これこそが世界を破滅に追いやる者であり、邪神と呼ばれる怪物の真なる姿だった』。さぁ、最後だ。見事超えて見せよ」
物語は最終章へと駒を進める。立ち塞がるは、果てすら見えぬ巨人であった。
[TOPIC]
WORD【不死鳥】
白き焔を纏う不死鳥は、全盛期のコウテイの姿である。
記憶の出来事のため話すことはないが、その魂は何ら遜色ないだろう。




