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6-46 紡がれた思いは未来と共に②


「じゃ、じゃしん?どうしたのその格好」


「ぎゃうぎゃう!」


 銀のプレートメイルに赤いマント、それから彼の背丈ほどの短剣を手に持ったじゃしんの姿に、レイは口元を押さえる。


 コスプレのような滑稽さを感じて、レイは思わず笑い声を漏らせば、じゃしんから『そっちもだろ!』とでも言わんばかりに指をさされた。


「え?ホントだ、なにこれ?」


「ぎゃうぎゃうっ」


 レイが自身の服装を確認すれば、いつの間にか水色の豪華なローブを身に纏い、その手には錫杖が握られていた。


 それに気がついたレイが困惑の声を漏らすと、じゃしんは先程の仕返しと言わんばかりに、『しししっ』と笑う。


「……いっとくけど、じゃしんの方が似合ってないからね?」


「ぎゃう~!?」


「ケンカはやめてっ!」


 その態度にイラついたレイは、ちくりと嫌味を吐き捨てる。その売り言葉をじゃしんが買おうとしたタイミングで、別の方向から割り込む声が聞こえた。


「は?」


「ぎゃ、ぎゃう……」


「喧嘩は何も生まないわ!協力してここを乗り切りましょうよ!」


 そこにいたのは紛う事なきモンスターだった。


 一見、真っ白の法衣を身に包んだ華奢な少女のような格好をしているが、頭部が横向きにした状態の本――イブルそのものであり、そのアンバランスさがあまりに醜く、この上ない嫌悪感を抱かせる。


「じゃしん、ごめん。普通にまともな部類だったよ……」


「ぎゃう……」


「あれ?あっしが除け者になってます?」


 口(?)を縦にパカパカと開く少女もどきに、レイはかなり引いた様子を見せており、共通の敵を見つけたことでじゃしんと仲直りしつつ、ゴードンへと声を掛ける。


「ねぇ、これは一体なに!取り敢えず、あの気持ち悪いのなんとかして欲しいんだけど!」


「ご主人、酷い……」


 なるべく視界に入れない様に、レイは指だけでイブルをさす。そんなぞんざいな扱いにイブルが悲し気な声を残したが、一切視線を向けられる事はなかった。


「ちょうど役者が揃っていた故の措置である。解除したくばまずは受け入れ、その上で試練を突破することだ」


「……分かった。じゃあさっさと始めよう」


 ゴードンから返ってきた言葉は酷くシンプルな、『文句があるなら早くクリアしろ』という物だった。それを聞いたレイは、こめかみに青筋を浮かべつつも素直に従う。


「基本的なルールを説明する。君達はこれより、かつての英雄になり代わって邪神を討伐してもらう。その間は君達の力が全て無効化され、使用できるスキルが固定化されることになるだろう。知恵を振り絞り、見事乗り切るのだ」


「なるほど……。ねぇ、一つ質問――」


「では試練を始めよう」


「え?ちょ、ちょっと!?」


 レイが問いかけようとした矢先、ゴードンは手に持った『Re:Code』のページをめくる。その瞬間、彼女達の足元が大きく揺れた。


「『最終章第一幕、世界に蔓延る闇を取り除いた三人は、遂にその黒幕と遭遇する。だが、真なる闇は今までのものとは比にならない程に濃く、彼等を飲み込もうとする』」


「え?」


「ぎ、ぎゃう!?」


「な、何ですかィ!?」


 ゴードンの口上とともに、レイ達を襲う揺れは激しさを増していく。そして、一瞬の静寂の後、地面から黒い塊が噴出した。


「ぎゃうっ!?」


「これって……!?」


 地面を割って登場したのは黒色の粘液。


 どろどろと、まるで脈打つように流動するその体はやがて巨大な人間の姿を形作る。


「これがかつて世界を破滅の一歩手前まで追い込んだ存在、邪神そのものである。さぁ英雄たちよ、どう動く?」


「ッ、じゃしん、イブル!散らばって!」


 ゴードンの語りを合図として、邪神が行動を開始する。


 大きく振り上げた手に対してかつての記憶が蘇ったレイは、胸によぎった嫌な予感に従うように二人へと指示を飛ばす。


「絶対に触れちゃだめだよ!捕まったら終わりだと思って!」


「ぎゃ、ぎゃう!」


「りょ、了解でさァ!」


 レイの警告に対し、素直に従った二人は今まさに振り下ろされている手から大きく距離をとる。


 そんな大げさとも取れる行動が目についたのか、のっぺらぼうの顔を二人に固定した邪神は続けざまに降ろした手を振り払う。


「ひぃ~!お助け~!」


「ぎゃう~!?」


「なんだろう、どこかで聞いたことあるような……あっ!」


 図らずしもフリーの状態になったレイは、ゴードンが先ほど放った口上に引っかかりを覚えているようで、その原因を探るように考え込む。


 やがて一つ、心当たりに辿り着いたレイはそれが本当に正しいのか確かめようと手に持った錫杖を邪神へと向けた。


「『神が創りし聖なる槍よ、悪しきものを貫きたまえ』!」


「ぎゃう!?」


「うおっと!?」


 レイの詠唱と共に錫杖の前方へと光が収束していき、やがて2メートルほどの槍の姿を成す。


 完成した光の槍は猛スピードで邪神へと直進し、その喉元に突き刺さると、巨体を大きく仰け反らせることに成功した。


「やっぱり、私は賢者役(・・・)ってことか……!」


 推測が正しかったことが証明され、レイは思わず笑みを零す。


 彼女が発動したのはかつて『RECORD』で見た『賢者』と呼ばれた人物の得意魔法であった。無事発動したその魔法によってやるべきことを悟ったレイは、すぐさまじゃしんとイブルに向かって大声で呼びかける。


「じゃしん、イブル!よく聞いて!攻略方法が分かった!これ、覚えゲーだ!」


「覚えゲー?」


「ぎゃう?」


「うん、本で読んだ内容をそのまま再現しろって奴!私が指示するから、その通りに動いてくれればいいよ!」


 そう言ったレイは手に持った錫杖を構えつつも、必死で『RECORD』で見た内容を思い出す。


「イブルは『聖女』、サポート役ね!基本的に神に願っとけばいいから!」


「神に願う……それってじゃしん様ってことっすね!?合点承知……ですわ!」


「そういうことでいいよ!それからじゃしん!」


「ぎゃう!」


 気持ち悪い口調を披露するイブルに適当に言葉を返したレイは、続いてじゃしんの方を向く。


「君は『勇者』ね!トドメを刺すのはじゃしんの役目だから!任せたよ!」


「ぎゃう!……ぎゃうっ!?」


 『ちょっと待って!?』とでも言いたげに伸ばされた手は、誰にも見られることなく空をきる。


 こうして始まった即興劇(エチュード)。その命運は全て少女の頭の中にて開幕した。


[TOPIC]

SKILL【光魔法『ホーリージャベリン』】

神が創りし聖なる槍よ、悪しきものを貫きたまえ

MP:100

効果①:光属性の極大魔法攻撃(〈知識〉*100)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! じゃしんがその恰好…普通に女性型には受けそう。 レイちゃんも元がいいから似合うでしょうし… そしてイブルは…(絶句 >「ちょうど役者が揃っていた故の措置である。解除したく…
[一言] 得意分野やんけ それはそうと、復刻版みんながやるとコイツは嫌われるだろうなwww
[一言] イブルワロスw じゃしん、ちゃんと勇者できるか?
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