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6-37 強行突破

★書籍第一巻発売まで残り一日★

いよいよ明日!仕事、勉強納めのついでに本屋へGO!


「おい、来やがったぞ!」


「外の連中は何してやがるんだ!」


「チッ、止まれや!」


 【バベル】の中へと侵入したレイ達へ向けて、【セブンと愉快な下僕達】と思われるプレイヤーが襲い来る。


「失せろ、お前達の相手をしている暇はない!」


 それに対してロックスはスピードを緩めることなくタクトを振るい、様々な魔法を繰り出して応戦していく。


 炎や雷、氷に風。一人で多種多様の魔法を操り、立ち塞がるプレイヤーをポリゴンに変えては、道をこじ開けていく。


「じゃしん、私達も――」


「まて、お前らは何もするな」


 隣を走るレイも同じように迎撃しようと腰に手を伸ばすが、それをロックスは制止させる。


「でも……」


「でもじゃない。目的はここじゃないんだ、できるだけ温存しておけ。それに、この程度なら俺だけで十分だ」


「……うん、分かった」


 理に適ったロックスの言葉に、レイは信頼することに決めたようだった。ロックスの少し後ろに位置付け、極力戦闘に関わらないように努める。


 そうして、階を駆け上がって行く二人。やがて30階を超えた辺りで、周囲の様子が変わったことに気が付いた。


「追ってこないね……?」


「だな。不気味だが、まぁ都合はいい」


 先程まで邪魔をしてきたプレイヤーの姿がぱったりと途絶えており、レイとロックスは首を傾げる。


 単純に全員倒したのか、それともこの先に何かあるのか。それは分からないが進まないという選択肢はレイ達には存在しない。


 そのまま閑散とした塔の中を突き進めば、20階のボス部屋と同じような開けた空間へと辿り着いた。


「やはり、来ましたか」


「【WorkerS】か……」


 そこにいたのは、30人ばかりの軍服を着たプレイヤー。さも敵だと言わんばかりにレイ達を睨みつける彼らの先頭にいた女性が、一歩前に出て声を掛ける。


「この先では我らがクランリーダーのトーカ様と『魔王』の一騎打ちが行われております。誰も通すなという命令ですので、どうかお引き取り下さい」


「はい、そうですか……なんて言うわけないだろう!」


 淡々と説明する女性を前に、ロックスは手に持ったタクトを振るえば、直径2メートルほどの火球が出現する。そのまま彼女に直撃するかと思われたが、その直前で見えない壁に防がれたように炸裂した。


「これは……」


「無駄ですよ。【不可視の障壁】を発動しています。『賢者』であれば、無駄な足掻きだと分かるでしょう?」


「【不可視の障壁】……?」


「……魔導書に記された特別な魔法の一つだ。効果は蟻一匹を通さない、見えない壁を展開する」


 女の発したスキルの名前をレイが呟けば、ロックスが苦々しげな表情を浮かべつつもそれに答える。その視線の先には一冊の本を抱えた、フードを被った男の姿があった。


「じゃあ攻撃が通らないってこと?」


「それだけじゃない。アレを解除しないと通過することも出来ない」


「そんな……」


「もういいでしょう?」


 レイがその状況に絶望していると、フロアに女性の呆れたような嘆息が響き渡る。


「トーカ様は『決着をつける』と言っていました。そして、それは『魔王』も同じだと。我々も貴方達に害をなすつもりはありません。ただ邪魔をするなと言ってるのです。分かりませんか?」


 まるで聞き分けのない子供を諭すような、そんな説得の声。それを聞いたレイは俯いて、こぶしを握り締めると、すぐさま顔を上げ、力強い瞳で女性を見据える。


「……分からない。分かりたくもないね!」


「はぁ?」


 まさしく聞き分けのない子供のようにそう言ってのけたレイに、女性は素っ頓狂な声を上げる。少しイラついた様子を見せつつも、再度説得を試みるが――。


「『きょうじん』、貴方も『魔王』のファンなんでしょう?だったら――」


「関係ないね!それはそれ!これはこれ!私は私の好きにする!」


「ぎゃう!」


「……話にならない」


 腕を組んで仁王立ちしたレイは頑なに主張を変えず、隣にいたじゃしんも『文句あるか!』と言わんばかりに彼女の隣で仁王立ちをする。


 そんな姿に女性が頭を抱えると、レイの隣から喉を鳴らすような笑い声が聞こえる。


「くくっ、それでこそ『きょうじん』だ。いっそ清々しいな」


「まぁ、難しく考える必要はないでしょ?」


「あぁ、違いない」


 レイの言葉に一頻り笑ったロックスは、息を整えてからメガネの位置を直すと、小声でレイへと提案をする。


「一つ策がある。成功するかは五分五分だが、どうす――」


「もちろん!やるよ!」


「ぎゃう!」


 即答したレイとじゃしんに唇を歪めると、〈アイテムポーチ〉から一冊の本を取り出す。


「分かった。じゃあ合図をしたら最速で駆け抜けろ。いいか、必ず勝ってこい」


「了解。任せて!」


「あぁ、じゃしんも頼んだぞ」


「ぎゃう!」


 最後に二人に声を掛けた後、ロックスは一歩前に出て【WorkerS】の面々と対峙する。


「何をするつもりですか?あなた一人の力でどうにかなる状況では――」


「【憑依転生の書】、という魔導書を知っているか」


 手に持った謎の本を警戒しつつも、女性はロックスに警告する。だがそれを聞く必要もないと言わんばかりに遮ったロックスは、手元の本を撫でた。


「【英知の書庫】で見つけた一冊なのだが、これがまたじゃじゃ馬なんだ。今まで封印していたんだが、ようやく使う機会がきて嬉しい反面、少し緊張している」


「さっきから何を……?」


「そう急ぐな。見ればわかる」


 困惑の表情を浮かべる【WorkerS】に対して、不敵に笑って見せたロックスは、いよいよ手に持った本を開くと、あるスキルの名前を口にした。


「【憑依転生】」


 瞬間、ロックスの体が紙くずのように崩れていく。


 その紙くずは本の中に吸い込まれるように渦を描き、やがてその全てが本の中に吸い込まれると、ぱたんと閉じた本が地面へと落ちる。


「き、消えた?どういうスキルなの……?」


 それ以上何も起きないことに女性はさらに困惑を深めていく。何もないなんてことはないと警戒を強めるも、変化は予想外の所から襲い掛かった。


「レイ、いいぞ」


「え?な、なにっ!?」


 彼女の背後、魔導書を持ったフードの男から予想外の名前が飛び出したことで、彼女は振り返る。


 他の【WorkerS】の面々も驚きのあまり硬直する中、ただ一人、レイだけはすぐさま行動に移す。


「イブル!【黄泉の黒翼】!」


「あいあいさァ!」


 金のベルトを外してイブルを起こしたレイは、背中に黒い翼を宿して高速で飛行する。


 物凄い勢いで向かってくるレイに気が付いた女性は、混乱した頭のままワンテンポ遅れて周囲へと指示を飛ばした。


「な、総員!撃ち落とせ!」


「無駄だ。【不可視の障壁】があるんだぞ?」


 【WorkerS】が放った左右からの攻撃は、見えない壁に阻まれ、レイには届かない。一方で、レイの進路にはその壁は存在しないようで、次の階へと続く階段に向けて一直線で突き進む。


「ロックス、いってきます!」


「あぁ、いってこい」


 最後に振り返ったレイは、そう言い残して過ぎ去っていく。それに言葉を返した男がフードを外せば、その下にあった顔は紛れもなくロックスであった。


「『賢者』っ!何をした!」


「さぁ、どう思う?」


「この……ッ!」


「まぁ俺はここでリタイヤだ。どうせなら、お勉強会でも開こうか?」


 まんまとしてやられた【WorkerS】の面々は、敵のど真ん中に悠然と立つロックスに向けて、四方八方から武器を構える。


 だがロックスはお道化るように肩を竦めると、にやりと笑ってメガネの位置を正した。

[TOPIC]

SKILL【憑依転生】

失われし禁忌の術は、他者の自由を奪い、尊厳を破壊する。

CT:6000sec

効果①:対象プレイヤーとして行動可能(3分間)

効果②:全ステータス激減(1/10)

効果③:デスペナルティ付与

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! さすが、射程圏内なら無双してますね… ロックスさん、かっこいいなぁ。 …【WorkerS】…ギークは上かな? うわぁ…陰湿っていうかなんというか…うん。 言っていることは…
[一言] すごい隠し球 でもたぶん使うのはこれっきりだろうなあ
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