6-30 粋がる端役を蹴散らすのは
★書籍第一巻発売まで残り八日★
発売日は12月28日(火)となります!仕事納めがてら本屋に立ち寄ってみるのはいかがでしょう?
手に本を抱え、黒い服の集団へとゆっくりと戻るスカル。その姿に周囲は気圧され、言葉を発するどころか身動き一つとれないでいた。
「おや?皆さんぼーっとしていていいんですか?このままだと素通り出来ちゃいますよ?」
ただ、仲間と合流したスカルが、静まり返った状況に空気を入れると、はっと我に返ったプレイヤー達が、慌てた様子で自身の獲物を構える。
「俺が貰う!」
「おい協力しようぜ!」
「アイツ倒せばいいんだな!?」
そして、その流れは水上の波紋のように周囲へと伝播していき、やがてスカルを中心とした巨大な人の渦を作り上げると、ゆっくりと街の出口へと進んでいく。
「見てる場合じゃないか。ロックス、私達も行こう!」
「あぁ」
「ぎゃう!」
突然乱戦となった状況に後れを取るまいと足を踏み出したレイ達。
人だかりに近づけば、黒いコートを着た男達が迫る有象無象のプレイヤー達を千切っては投げる。スカルは既に抜けた後なのか、姿は見えなくなっていた。
「取り敢えず巻き込まれないうちに抜けちゃおう!」
「ぎゃう!」
「りょうか――後ろだ!」
時間のロスだと判断したレイは、人ごみを迂回して【バベル】へと目指すことを決める。それに二人が了承した瞬間、血相を変えたロックスの声に慌てて【アイアンダガー】を抜く。
「ッ!?」
「久しぶりだなぁ『きょうじん』!」
立ち塞がったのは、黒いコートを羽織った男の一人。かつて、レイによって返り討ちにあった【DA・RU・MA】のメンバーの一人が、愉悦に塗れた笑顔で剣を振り下ろしている。
「なに、またやられに来たの?」
「はっ、いいねぇそうでなくちゃ!」
不意の初撃を受け止めたレイは返す刀で懐に潜り込みつつダガーを振るう。それに対して、男も負けじと手に持つ直剣を操って致命の一撃を狙う。
「随分とちんけな装備だな?売っぱらっちまったのか?」
「まさか、アンタくらいならこれで十分でしょっ!」
口での煽り合いを行いながらも、刃を交える二人。ただステータス差が大きいのか、次第にレイ側が捌ききれなくなり、やがて、横薙ぎに振りぬいた一撃によって大きく後方に吹き飛ばされる。
「ぎゃう!?」
「いったいな……!」
「おいおい、何が十分だってぇ?ざまぁねぇな!」
苦し気に顔を歪めるレイを心配するような悲鳴を上げるじゃしん。その声を望んでいたかのように、男は笑みを深めれば、レイの苛立ちが募っていく。
「ちっ、面倒くさいな……。にしても何でこんなに力の差が……?」
ふと感じた疑問を辿れば、以前『國喜屋』で出会った時、確か目の前の男は魔法を使っていた事を思い出す。ただ今は魔法の『ま』の字もなく、明らかに脳筋なスタイルに、レイはますます混乱する。
・レイちゃんあれ【海賊王のコート】じゃない?
・【海賊王のコート】ってなんだっけ?
・ワールドクエストで手に入ったやつ。初クリアの時だけじゃないの?
「え?……本当だ」
そこでコメント欄を見てみれば、確かに指摘の通り、相手の装備はレイも所有していたワールドクエスト報酬であった。
よく見れば、他の【セブンと愉快な下僕達】のメンバーもそのコートを羽織っており、恐らくそれの影響でステータスに大きく差が出来ているのだろうとレイは理解する。理解はしたのだが、別の疑問が生じてしまう。
「ねぇ、その装備どこで手に入れたの?」
「あぁ、これか?スカルさんから貰ったんだ。前のダセェ法被と違って格好いいだろ?」
「アイツが?」
考えても埒が明かない問題を前に、一か八かで直接訪ねてみれば、男は機嫌がいいのかノータイムで返答する。
「にしてもやっぱスカルさんについてきて良かったぜ。こんなにも気持ちよく復讐できるんだからな」
「復讐って……そんなに前のクランが大事だったんだ?」
「はっ、馬鹿言え。あんなガキ誰も慕っちゃいなかったよ。これは個人的なモンだ」
「……あっそ」
下卑た笑みを浮かべる男の言葉をそれ以上聞きたくないのか、レイはつまらなさそうに切り上げる。それに対して男は一瞬イラついた表情を浮かべたものの、すぐさま笑みを戻して剣を構えた。
「ま、いたぶるのはそろそろ止めにしてやるよ。さっさと潰れな!」
「やるしかないか。じゃしん!」
「ぎゃうっ!」
そして再び肉薄する男に、レイはじゃしんに声を掛けてスキルを発動する――直前で彼女と男の間に割り込むプレイヤーの姿があった。
「それはまだ使わなくていい」
「ロックス?」
「切り札なんだろう?ここは俺がやるから、大事な場面までとっておけ」
「『賢者』かよ。……おい」
指揮棒のような黒い杖で剣を受け止めたロックスは、その腹を蹴って男を後退させる。そして立ち止まったレイを手で制しながらも、男に立ち向かうように一歩足を前へと進めた。
・行かなくていいの?
・流石に魔法職でタイマンは……
・人数も多いよ
「そうだよね、やっぱり加勢に――」
「気にしなくていい」
「え?」
対峙する男が一声かけると、周囲で暴れていた他のプレイヤーが彼の周りに集まる。途端に多勢に無勢となったのを見て、レイが改めてロックスの隣に並ぼうとすると、その肩を掴んで阻む者がいた。
「あれ、ギーク?どうしてここに……って聞くのも野暮か」
「賢明だな。そのまま黙ってみていろ」
いつも通りの軍服を身に着けたギークはレイを一瞥した後、ロックスの後姿をじっと見つめる。その態度に困惑しつつも、レイは習う形で同じように視線を向けた。
「一つだけ訂正させてもらうが。俺は決して名前だけ借りるために『八傑同盟』にロックスを誘ったのではない」
「ん?何急に、どういうこと?」
ロックスが手に持ったタクトを掲げ、どこからか本を取り出したタイミングで、ギークはどこか憮然とした表情でレイに告げる。
「俺をさも悪人に仕立て上げていただろう。そんなしょうもない理由で選んでない。というより、アイツだけは何があっても誘うつもりだった」
「……なんで?」
「理由なんぞ一つに決まっている。アイツは強いからだよ」
「【皇炎龍ノ闊歩】」
ギークの言葉とほぼ同時に、ロックスが手に持ったタクトを振り下ろすと、手に持った本から火柱が立ち登る。
空へと舞う火炎はうねり、変形し、やがて西洋のドラゴンのような姿になると、怯んだ様子の男達へと襲い掛かった。
「うわっ……」
「ぎゃう……」
・やべぇ
・地獄絵図か
・魔法使いってこんな強いのか……
そこからは圧倒的であった。
顕現した炎の龍は恐怖に足が竦んだ者を、逃げ惑う者の背を追って一人残らず食い散らかす。何とか立ち向かう者もいたが、圧倒的質量を前に抵抗空しく灰と化した。
まさしく蹂躙というに相応しい活躍に、レイ達が息を飲むと、隣にいたギークは平然とした顔をして鼻を鳴らし。
「ふん、これくらいは当然だ」
「なるほど、言いたいことは分かったよ。……ん?でもさ」
「? なんだ?」
そんなギークにレイはふと気がついた、気になった事を尋ねる。
「ギークって、私の配信見てたの?」
「ぎゃう?」
「……たまたまな」
じぃと覗き込むレイとじゃしんの視線に、ギークはそっと視線を逸らす。別にやましい事ではない筈が、気恥ずかしさが勝ったようだった。
[TOPIC]
SKILL【真名魔法『皇炎龍ノ闊歩』】
猛る炎の化身よ、万物の頂点を形取り、その怒りを知らしめたまえ!
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効果①:『龍帝』の残滓を呼び起こす




