6-28 魔王からの重大発表
★書籍一巻発売まで残り10日★
本日、カラーイラスト公開しております。詳しくは活動報告から。
【seven.net】
【重大発表】
・お
・始まった
・一体なんぞ?
『あ、あー。テステス。やっほーみんな。愛しのセブンちゃんだよー』
・うぉぉぉ!!!
・結婚してくれー!
・セブン!セブン!セブン!
『あはは、絶対無理〜』
お決まりの挨拶で開始された配信には、既に3万を超える視聴者数を誇っていた。
「流石セブンさんだな……」
先ほど作ったココアを口に含みながらレイはスマホの画面越しにそれを見つめている。再ログインまでの30分は既に過ぎ去っているものの、この話題を見なかったことにはできないようだった。
・それで、重大発表ってなに?
・早く教えて
・気になる〜
『みんなせっかちだなぁ。それよりもまず、クイズを一つ。僕は今どこにいるでしょう?』
「場所?」
セブンの問いかけに、レイは周囲の風景に注視する。
薄暗い半球上の空間には、中央に置かれた台座のようなもの以外は何もなく、ヒントとなるのは微かに見える石造の壁だけ。どこか見覚えがあるも、結局その程度で終わってしまい、レイは確信までには至ることができなかった。
・どこ?
・暗くてわからん
・なんかバベルっぽくね?
・確かに、言われてみれば
「あぁ、なるほど」
それはコメント欄も同じようだったが、時間が経つにつれてちらほらと答えが見え出すと、レイも既視感の正体に辿り着く。そこで、セブンは満面の笑みで答えを発表した。
『お、せいかーい。ここは【バベル】50階、最上階でした〜』
「なっ!?」
それは余りにも予想外の一言。
【バベル】が再注目されたのは昨日、レイとロックスが巻き起こしたものであり、今現在も多くのプレイヤーが殺到し、日夜情報が集められているという状況なのだ。
そんな中でクリアしたという話は簡単に信じられることではなく、レイは驚きのあまり腰かけた椅子から立ち上がる。
・最上階!?
・いつの間に?
・早すぎるだろ
『うんうん、みんなの言いたいこともわかるよ。だってレイちゃんが情報出してから1日しか経ってないもんね』
ただ、視聴者からの驚愕のコメントに対し、楽しそうに笑いながら指を左右に振るセブンを見て、レイはいつもの冗談ではないと悟る。
『でも違うんだよ。僕が情報を手に入れたのはそのタイミングじゃない。もっと前からバベルを攻略してたんだ』
・な、なんだってー!?
・うっそだろ
・流石セブン、そこに痺れる憧れるぅ!
「ロックスよりも早く……?一体誰が……」
その言葉に、レイは更に困惑の表情を浮かべる。
前提としてロックス以上に【叡智の書庫】に詳しい人間はおらず、情報を得るためにはかなりの時間をかける必要があった。
そのため、彼以上に詳しい人間がいないと思い込んでいたのだが、こんなにも早くクリアしたとなると、もしかしたらもっと早い、別の方法があったのかもしれないと思考を切り替えた。
『と、いうわけで【バベル】攻略レースは僕がぶっちぎりで優勝しましたとさ!めでたしめでたし……で終わっていい?』
・え?
・ダメに決まってるだろ
・普通すぎるよなぁ?
どこか勿体ぶるようなセブンの言葉に対し、視聴者は彼女の望む言葉を残すと、それを確認したセブンは口を開けて笑う。
『あはっ、みんな分かってるじゃん!というわけで、ここからもう一つゲームを開始しまーす!』
そうして高らかに宣言したセブンは、部屋の中央に置かれた台座に凭れ掛かりながら概要を説明していく。
『この台座見える?ここにとあるアイテムを置くとワールドクエストが発生するみたいなんだけど、この配信終了後に取りに行ってもらいます!』
・取りに行ってもらう?
・誰に?
・協力者がいるの?
『うん、僕の大切なクランメンバー――【セブンと愉快な下僕達】がね』
「いや、絶対大切に思ってないじゃん」
明らかにおかしなクラン名にレイがついつい突っ込めば、それが聞こえたようにセブンは『くっくっ』と喉を鳴らす。
『ま、タイムリミットはその子達が僕の元にアイテムを届けるまでだね。なんとか奪い取って、見事頂上にいる僕を倒せたらワールドクエストは君のものってこと!』
・なるほど、分かりやすい
・配信見ている場合じゃねぇわ
・ちょっと待って
・場所はどこ?
・とりあえずバベル行けばいいんでない?
『その辺はノーヒントでーす。まぁ、僕のいる場所を考えればなんとなく察しがつくかもだけど』
セブンが一通り説明を終えると、コメント欄は今日一番の盛り上がりを見せる。
自身の配信では見ることの出来ない瞬間風速のせいか、レイがコメント欄を追えないでいると、セブンは視聴者のコメントをバッサリと切り捨てて締めへと入る。
『と、いうわけで!これから『魔王を倒すのは誰だ!ドキドキ!砂漠の塔の頂上決定戦!』を開始しまーす!皆の参加、待ってるよ~』
そうしてセブンが口笛を吹きながらパチパチと拍手をすると、視聴者数が一気に減っていく。
恐らく全員『ToY』の世界に向かったのだろう、レイも同じくココアを飲み干してスマホの電源を閉じようとした時、ぽつりと呟かれた言葉が耳に入る。
『……さぁ、あの時の決着を付けようか』
「えっ」
それはスマホの中、セブンの声であった、外した視線を戻すも、セブンは既に配信を閉じており、真っ暗な画面が写っている。
「今のは誰に……」
先ほどまでのふざけた態度とは違う、恐らく本心からの言葉。一瞬の出来事であり、その感情まで推し量ることは出来なかったが、少なくともセブンの目的がそこに集約しており、そして自分に向けての言葉ではないということだけは理解できた。
「と、とりあえず行かなきゃ!まずはロックスと――」
少しだけ感じた疎外感を無理やり押し込めたレイは、今度こそスマホの電源を落として『ToY』チェアへと腰を掛ける。
モヤモヤする心を抱えているのを感じつつも、自身の出来ることを行うために、その意識を手放していった。
[TOPIC]
CLAN【セブンと愉快な下僕達】
あるワールドクエストの後に『魔王』が結成したクラン。クランリーダーは【セブン】。
その名の通り、セブンのセブンによるセブンのためのクランであり、全員が彼女の意のままに動く。
その存在は設立してから秘匿され続けており、クランメンバーの顔すらもみえてこない徹底ぶりであり、何をしているのか分からない、闇の部隊のような雰囲気があった。




